44.魔王城へ(勇者視点)
北の四天王の一人を討ち取り、僕たちは魔王城のある西へと進んだ。
できるだけ早く歩を進めることで、途中にある小さな村をモンスターから守れると思ったから。
実際に西からは大量のモンスターが北へ向かっていたらしく、途中で鉢合わせして戦闘になった。
でも賢者である賢美の魔法で一網打尽でき、召喚されてからの成長を感じられる結果となる。
僕は賢美の魔法で討ち漏らした少数を各個撃破する。
この剣はとある精霊様から授かった聖剣と呼ばれるもので、モンスターなどの人を脅かす存在に特効を持つ剣だ。
聖剣だけあって特殊な剣のようで、持ち主の力だけでなく、魔力も威力に上乗せされるとか。
勇者という職業は力だけでなく魔力もバランスよく伸びるので、とても相性が良い。
「よし、これで最後だね」
僕は最後の一匹を斬ると、倒したモンスターのドロップアイテムの回収を行う。
「もったいないけど、持てる数は限られるから選別しなきゃ……」
「こういう時、ゲームとかでよくあるアイテムボックスとか欲しいよね」
「うん。そういうものがあればよかったんだけど貴重品みたいだからね。……とりあえず、ポーション類を持っていこうかな」
旅を続けていると戦闘の回数が多くなり、賢者の賢美と聖女の聖の魔力はどんどん使われて行く。
だから、魔力を回復させるマジックポーションを多めに道具袋に入れる。回復なら聖の回復魔法を使って魔力をマジックポーションで回復すれば効率がいいしね。
「それにしてもモンスターも段々強くなってきてる気がするね……」
「それだけ魔王城に近づいている証拠かも。旅ももうすぐ終わりかな……戦いが終わったらのんびりと各地を旅行してみたいな」
「あっ、それいいね! できれば豪も一緒だといいな」
「そうだね。一日でも早く平和な世界になるようにがんばろう」
僕たちはその後もモンスターを殲滅しながら、西へ西へと進んでいった。
そして……。
**********
「うわー、でっかいお城ー」
賢美が薄気味悪い感じのするお城を見上げる。
滅ぼされた王国から更に西に進み、森を抜け、見張りのモンスターを倒して到着したここは……おそらく魔王城。
さっきから聖剣が何かに共鳴しているような音を出しているから、魔王に反応しているのだろうか。
「私、ちょっと怖いかも……」
聖が不安そうに呟く。確かに魔王……この世界でおそらく最強のモンスターと戦おうというんだ。心配になるのもしょうがない。
「大丈夫! 聖は私が守ってあげるから!」
「……いつも聖の魔法に守られてるのは賢美でしょ」
「もー、せっかくかっこよく決めたのにー!」
「ふふふ……」
聖が笑う。どうやら賢美のおかげで緊張がとけたようだ。
「よし、それじゃ気を引き締めていこう。恐らくドラゴンもこの中にいるはず」
「もしブレスを吐くなら氷魔法を使って相殺して……」
「万が一に備えて私の防御魔法を展開して損害はできるだけ抑えて……」
ドラゴンの対策を始める二人。自分たちの持つスキルや魔法でどう対処するかを決めておくと戦闘中に焦りが出ないから重要だと思う。
もちろん全てその通りに進行するわけではないけど、打てる手はできるだけ考えておくのがいい。
僕も二人と一緒に作戦を立てると、城の中へと入って行った。
**********
流石に魔王城だけあってモンスターの質も高いし量も多い。
王国を滅ぼしたであろうドラゴンをはじめ、今までに戦った四天王とよく似たモンスターなど、出てくるモンスターは全て手強かった。
しかしその分経験値も多く、魔王戦の前に充分に鍛えられたのも確かだ。
「私たちのレベル、70になったみたい」
聖が鑑定魔法を使い、現在のレベルとステータスを把握する。
……それぞれの重要なステータスがカンストに近い。これなら魔王だって……。
その後も押し寄せるモンスターを倒し続け、ついにモンスターが出現しなくなった。
そして、最奥と思われる場所で不気味な扉が行く手を阻む。
どうやら、魔法で扉に封印が施されているようだ。
「この先に魔王がいるかもしれない……」
「か、覚悟はできてるよ」
「大丈夫、なんてったって勇者と賢者と聖女だよ。さっきまでのモンスターと一緒で楽勝だよ」
僕たちは回復を済ませ、聖剣で扉を封印ごと叩き斬る。
すると、今まで感じたことがないプレッシャーが部屋からあふれ出してくる。
「勇者か……」
重苦しい雰囲気を纏った声が部屋の奥から聞こえてくる。
「お前が魔王か……?」
「そうだ……勇者よ、お前さえ倒せば我は世界を征服できる。召喚されたことを後悔しながら死ぬがいい……」
「何!? 召喚されたことを知っているだと!? お前はいったい……」
「……危ない!」
魔王が突然魔法を放ってくる。語る必要はない、ということか。
聖は咄嗟に防御魔法を展開し、魔王の魔法を打ち消す。
「ほう、やるではないか。だがまだ我は本気ではないぞ……?」
「う、嘘でしょ……?」
聖が顔を青ざめさせる。
「あの防御魔法、私の使える魔法でも最高レベルのものなのに……」
「大丈夫、やられる前にやればいいだけでしょ!」
賢美が極大炎魔法を無詠唱で放つ。
魔王は防御が遅れ、魔王の身体を獄炎の炎が焼き尽くす……はずだった。
「なるほど、スキル『無詠唱』持ちか、これは部下どもがやられるのも頷ける」
「む、無傷……っ!? 出力を抑えたわけでもないのに……」
そんな……!? 今までのどんなモンスターよりも遥かに強い……まるで、四天王が赤子のように感じられるなんて……。
で、でも僕たちにはこの聖剣がある! これなら……!
僕は魔王が放つ魔法を避けながら接近し、聖剣を上段から勢いよく振り下ろす。
キィン! と甲高い音がすると同時に、金属が宙を舞い、床に転がり落ちた。
「あ……そ、そんな……!?」
その金属とは……折れた、聖剣。
「ククク……いいぞ、その絶望した表情! 人々の絶望が我らに力を与えるのだ……!」
「あ……あ……」
今までどんなモンスターでも切り裂いてきた聖剣。
それが魔王に無力だなんて。
どうやって……どうやって倒せばいいんだ……?
「いいことを教えてやろう。我のステータスは全て1000以上ある。貴様らは……スキルを加味しても500と言ったところか」
「う、嘘だ……そんなはずが……」
あり得ないほどの力量差を突き付けられる。
そんな……四天王と段違いの実力じゃないか。
「さて、貴様らを使い、更に人間を絶望のどん底に突き落としてやろう。さすれば我の力は更に強くなる……そうだな、勇者、貴様の手足をもいで国王に送りつけてやろうか……」
魔王はそう言うと詠唱を始め、僕に狙いを定めて魔法を放つ。
もうダメだ、そう思い全てを諦めて目を閉じる。
しかし、いくら待っても魔法が着弾しない。いったいどうして……?
「待たせたな、勇斗!」
「ご、豪!?」
僕の目の前に立ち、魔王の放った魔法を打ち消したのは、最初の町で別れたはずの豪だった。