43.妖精の集落
妖精の集落を訪れるため、フェアリーの森を進むこと十数分。
少し開けた広場に、花が輪になって咲いている場所を見つけた。
「これ……確か妖精の輪……だったっけな」
もしかしたらここが入口なのかもしれない。
輪になっている中に足を踏み入れ、中心に立ってみる。
すると輪の中が光り出し、身体が浮遊するような感覚を覚える。
そして、光が収まると先程の森の中とは別の場所へとワープしていた。
「いらっしゃーい!待ってたよ!」
声のする方を見ると、昨日俺を誘ってくれたフェアリーが飛んできていた。
そのまま俺の肩に座ると、ご満悦な顔をする。
「うーん、やっぱり人間さんの肩はいいよね。ここに座るの好きなんだ」
「こっちとしても顔の近くで話しやすいし、ちょうどいいかもね」
フェアリーは身体が小さいため、声も小さい。だからこうやって距離が近ければ話しやすいのだ。
「ということで、ちょっとこの集落を回ってみる? みんなには話をしてるから、ドロップアイテムやレアドロップも盗ませてくれるよ」
「……いいのかなあ、招かれた俺がそんなことして……」
そんなことを話しながら集落を巡る。
よく聞くフェアリーの他にも、ピクシーやクーシー、ケットシーやブラウニー、グレムリンなど多彩な種族が暮らしているようだ。
基本的に小さければ妖精扱いなんだろうか……まあいいか、ファンタジーな世界だし。
「それでここが長様の家だよ。実は長様がキミに会いたがってたんだ」
「俺に? いったいなんで……?」
「うーん、そこは教えてくれなかったけど……じゃ、ボクは外で待ってるからね」
フェアリーが俺の肩から離れ、近くの木の枝に座る。
そして、近寄ってきた友達と思われる妖精と話始めた。
「それじゃ、行ってくるよ」
俺はフェアリーに手を振り、ドアをノックして中へと入った。
「ようこそ、異世界からの訪問者よ」
「あ、ここは異世界だったんですね。確かに妖精の輪から転移した感じでしたし」
「いや、そういう意味ではない。別の世界から召喚された者よ」
「……!?」
なぜだ!? 俺は誰にも召喚されたことは言ってないはずだけど……。
「……私は数千年を生きている。そうなると色々なことを知識として蓄えていてね、キミが召喚された者だと分かるんだよ、その特徴的な黒い髪と黒い瞳が特にね。……キミを召喚したのは女神が人間に遺した召喚術だ」
召喚術……そういえば伝承に伝わる召喚の儀とか言ってたな。
「その召喚術は『目的を達成できる者を確実に召喚する』というものだ。キミはどういう目的で召喚されたんだい?」
「俺……俺は確か、『復活した魔王の討伐』ですね。ただ、俺は戦力外なので討伐隊に入ることはできませんでしたが……」
「ふむ、となるとキミ以外にも召喚された者が?」
「はい、俺の幼馴染の三人が一緒に召喚されていて、勇者と賢者と聖女の三人です。俺は盗賊だったので戦力外扱いだったんですが……」
そう俺が答えると長は首を傾げる。
いったいどうしたんだろうか?
「私は先程『目的を達成できる者を確実に召喚する』と言ったね。複数人が召喚される場合、全員揃って初めてその目標が達成できるんだ。つまりキミは魔王の討伐に必要な存在なんだよ」
「俺が……!?」
そんなバカな。他の三人に比べたら盗賊なんて職業だし……スキルの『盗む』は育ったら強力だったけど、ステータスは丸薬を使って伸ばさなかったら全然育たなかったはず。
「そして、逆を言えば全員が揃っていなければ目的は達成できないんだ。つまり、キミがいなければ他の三人では討伐が不可能ということになる」
「そんな……他の三人……勇斗たちは四天王も倒し、順調に魔王討伐へと進んでいるんですが……」
「それでも、だ。……最悪、その子たちは魔王の討伐に失敗し、命を落としてしまうだろう」
「そんな……!?」
嘘だろ!? 勇斗たちが……死ぬ!?
しかも、俺がいないせいで……?
……もしかして、俺が盗むでステータスアップができる丸薬を始め、レアドロップが盗める理由って……勇斗たちのサポートのため……!?
「もし、彼らの元に向かうなら早くした方が良い。彼らは北の四天王を討伐し、おそらく近いうちに魔王城までたどり着くだろう」
「わ、分かりました、ありがとうございます! ……ところで、どうして情報を俺に……?」
「なに、魔王がいると私たちの生活も脅かされるからな。やつは欲深いから、放っておけばこちらの世界にも侵攻してくるだろう。だからできるだけ封印ではなく、やつの魂を消滅させて欲しいのだが……」
「分かりました、できるだけのことはさせて頂きます」
俺は長に深々とお辞儀をすると、急いで部屋を出た。
「あ、終わったの?」
外で待ってくれていたフェアリーに声を掛けられる。
「ああ、君がここに招待してくれたおかげで、とても大事なことを知ることができたよ。ありがとう」
「えへへ、どういたしまして。……それじゃ、急いでるみたいだし、またね。絶対、また来てね」
「そうだな……それじゃ、大事な用事が済んだらまたここに来させてもらうよ」
「うん、気を付けて……」
俺は急いで拠点へと戻って行った。
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「なんじゃと……!? ゴウが行かねばゴウの幼馴染が魔王に殺されるやもしれぬじゃと……!?」
「ゴウは異世界人だったのか……伝承とかでは聞くけど、実在してたなんて……」
「ああ、それで俺は三人を助けに行きたいから、二人とは別行動を……」
そこまで言いかけて二人に言葉を遮られる。
「何を言うか。魔王のレアドロップなぞ楽しみでしかなかろう? ……まあそれは冗談じゃが、ワシも行った方が勝率は高かろう。魔力なら奴に引けを取らないじゃろうて」
「オレは……戦力にはならないかもしれないが、サポートぐらいはできる。それにオレはもうゴウの物だ。嫌だと言ってもついていくからな」
「クズハさん……アネット……ありがとうございます」
見ず知らずの俺の幼馴染たちを命がけで助けてくれる。
そんな二人にはただただ感謝しかない。
「さて、そうと決まれば準備をせねばなるまい。魔王城に向かうにはフェアリーの森を通る必要がある。あの辺に拠点を作るべきか」
「そうだな、勇者たちに気付ける、もしくは気付かれるような拠点が作ることができれば……」
「とりあえず移動しよう。できれば――」
「ゴウ、たいへん! たいへんっ!」
俺たちが話をしていると、先程別れたばかりのフェアリーが急に入ってくる。
大変ということはもしかして……。
「勇者がもう魔王城に向かってるの!」
「なんじゃと!?」
「嘘だろ、早すぎるぞ……」
「急いで追おう!」
俺たちは早急に荷物をまとめ、フェアリーの森へと駆け出した。