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42.滅びた王国へ

 ドラゴンを倒して数日、俺たちは旅の準備を整えて西へと向かい始めた。


「目標は滅びた王国でいいんですか?」

「うむ、途中で生き残った村があるかもしれぬから、地図通り進んでいくぞ」

「そしてその滅びた王国から更に遥か西に行くと魔王城……か。オレはあんまり行きたくねえな」


 アネットは元々モンスターだから、魔王とは対峙したくないのだろう。

 もし何かあった時に、同族の子たちに危害が加えられる恐れがあるから。


「なんじゃアネット、ゴウにそこまで育ててもらいながら怖いのか?」

「まあ、確かにステータスは凄いけどさ……魔王の実力が分からないし、万が一のことを考えるとな……」


 珍しく弱気のアネット。確かにモンスターの王ともなれば、そのステータスは四天王やドラゴンよりも上だろう。

 あの魔力特化のリッチの魔力……確か765だったかな……の更に上を行く魔力。

 ……呪いを解いたクズハさんは2000を超えてるんだけど、それでも魔王はどんなスキルを持っているのか、特殊効果のある装備を持っているのか、手札が全く分からない……それが一番怖い。

 何で足元を掬われるか分からないからな。

 今まで四天王やドラゴンを倒すことができたのも、相手を知っていたり、運が良かったりしたのがあるしな……。


「まあ俺たちの目的は魔王討伐じゃないし、そこは大丈夫だろう」

「それもそうじゃな。相手にせぬ者のことを話していても時間の無駄か」

「魔王城の中にもモンスターはいるだろうけど、確かに魔王まで相手する必要はなかったな」


 万が一、相手をするとしたら魔王のレアドロップ狙いか……。

 そうならないように願いながら、俺たちはひたすら西へと向かう。




「そういえばゴウ、お主は装備からステータスを盗めるようになったが、使っておらぬのか?」

「ええ、確かに強いのですが複数から盗むとなると時間がかかりますし……」

「スキルは使うことで強化されていくものもある。もしかすると、それを解決するようなスキルに進化するかもしれんぞ?」

「レベル……だけじゃなくて、進化することもあるんですか?」


 それは初耳だ。もし進化して一気に盗めるようになったらかなり使い勝手が良くなる。


「うむ、ただ進化するスキルというのはそんなに聞いたことはない。ただ、お主のスキルは特別なようじゃからな、万が一ということもあるかもしれぬ」

「なるほど、それなら歩きながら使っていきましょうか」


 しかし、装備のステータスを盗みながら歩くというのは傍から見たら変人だろうな……。




**********




 そんなことを続けて二日目、その時は突然訪れた。


【『盗む』のレベルが上がりました】

【視界内の非生物から一度に盗むことができるようになりました】


「うわぁ!?」

「ど、どうしたゴウ!?」

「いきなりなんじゃ、藪から棒に」


 急に頭の中に声が響くから驚いてしまう。やっぱり慣れないなこれ……。


「いや、非生物……つまりは装備から一度に盗めるようになったと頭に響いて……」

「なるほど、レベルが上がったというわけじゃな」

「へー、そんな感じで分かるんだ。せっかくだし試しに使ってみたらどうだ?」

「そうだな、やってみよう」


 俺は魔法の袋から装備を十個ほど取り出し、少しずつ離して地面に置く。

 そして装備を全て視界に捉え……あれ?これどうやって盗めばいいんだ?

 俺が戸惑っていると、赤く光る空間……盗むの当たり判定が手元に出現しているのに気づく。

 それに触れて試しにウィンドウから力を選ぶと、視界内の装備全てから力を盗むことができた。


 その後は積み重ねている場合はどうかとか、見えてない場合はどうかとか試してみた。

 積み重ねている場合でも、陰になっている場合でも、視界内であれば大丈夫なようだ。

 つまり、これは敵の装備でも同様に視界内であればステータスを盗めるわけで……。


「マジックアローを使う必要すらなくなったってことか、やべーな」

「まったくじゃ。見られたら盗まれるなど聞いたことがないのう」


 ただ見るだけで盗めてしまうんだ。二人の反応は当然だろう。

 さておき、これでもっと装備を持ち歩けば、力のない俺でも楽に四桁の力になることもできるだろう。

 魔力を上げるのも同様だ。杖を大量に持ち歩けば魔力も呪いから解放されたクズハさんなみに……。


 でも、もう町から離れたから買い足せないんだよな……。モンスターから盗めるといいんだけど。




 そして更に二日が経ち、ついに滅ぼされた王国に到着した。


 戦闘で焼かれ、潰され、既に廃墟になっている家も多い。

 国を守っていた兵士が使っていたであろう武器もそこら中に散らばっている。


「ゴウ、持っていかぬか?」

「……そうだな、俺がモンスターを倒すのに使えば、これを使っていた兵士たちも浮かばれるかな……」


 俺たちはまだ使えそうな剣や槍、杖などを拾い、魔法の袋に収納した。


「壊れてない家が何件かあるから、ちょっと休もうぜ」

「そうじゃな、ワシも野宿続きでベッドが恋しいわい」


 武器を拾い終わると、アネットが休憩を提案し、クズハさんもそれに乗る。

 確かにずっと地面で寝てたから、俺もベッドが恋しいというのはある。

 ……それにできればお風呂にも入りたい。ずっと入ってないからな……。


「ふむ、どうやらあちらの森の方に温泉付きの宿屋があるみたいじゃな」

「……どうして分かるんです?」

「役に立つかと思って、以前の町でこの王国の名産物を書き記した本を手に入れておったのじゃよ」


 うーん、流石クズハさん。宿屋ならベッドも高級品だろうし、お風呂にも入れるしで一石二鳥だ。

 ……壊れてなければ、だけど。




「おっ、綺麗じゃねえか」

「確かにほぼ無傷だ……町から離れているからモンスターも見逃したんでしょうかね?」

「…………」


 しかし、クズハさんは難しい顔をしている。


「……索敵魔法(サーチ)


 急に索敵魔法を使うクズハさん。もしかして中にモンスターが……?


「……ふむ、中に何かがおるようじゃ。しかしこれはどこかで……?まあよい、拘束魔法(バインド)!」


「ひゃあっ!?」


 中から女の子のような声が聞こえる。……あれ、確かにこの声はどこかで……。


「入るぞ」

「……分かりました、俺とアネットで先行しましょう」


 拘束魔法が効いているとはいえ、姿を隠した仲間がいないとは限らない。

 近接戦闘ができる俺とアネットが行き、クズハさんは後方支援がいいだろう。


 しかし、突入した途端少しずっこけそうになる。


「なんでまたキミたちがいるのー!?」


 拘束されていたのはフェアリー。おそらく、アネットが仲間になったダンジョンにいたあの子だ。


「なんじゃなんじゃ、騒がしい」


 少し遅れてクズハさんも建物に入ってくる。

 そしてフェアリーの姿を見た瞬間、悪そうな笑みを浮かべる。


「丁度良い、この辺りの情報を洗いざらい話してもらおうか……」

「ひ、ひぃぃぃっ!?」


 ……なんか、そういう悪役ムーブが似合いますねクズハさん……。




**********




「……なるほど、この近くにフェアリーの森があると。そしてこの宿屋はモンスターが破壊しなかったから、人間がいなくなった今フェアリーたちが自由に使っていると」

「は、はい、そうです……勝手に使っちゃってごめんなさい……」


 クズハさんがよっぽど怖いのか、泣きそうになりながら色々と話してくれたフェアリー。

 でも、有用な情報なのは間違いない。


 ここからフェアリーの森を抜けて更に西に行くと魔王城があること。

 この辺りのモンスターはモンスターの勢力圏を広げるため、ドラゴンが東に、その他が北に移動したということ。そのため、この辺りに残っているモンスターは数が少ないとか。

 ここから北へ向かう道の先は勇斗が二人目の四天王の討伐に行っていた辺りだな……。勇斗たちのスキルなら大丈夫なんだろうけど。


 しかし困った。この辺にモンスターが少ないなら、北へ向かったモンスターを追うか、フェアリーの森を抜けて魔王城へ向かうかになる。

 北へと追いかけるには移動速度や既に移動してからの時間を考えると得策ではない。

 となると、魔王城へ向かうことになるのだが……。


「まあよい。とりあえず今日は風呂に入りたい。そうじゃろうアネット?」

「ああ。ゴウの仲間になる前はあまり気にしてなかったが、風呂に入るのを知ってから気持ちよくてしょうがないからな。ありゃあ良い物だ」

「人がいなくなってからも整備をしてくれて礼を言うぞ」

「は、はい……ありがとうございますクズハ様……」


 ついに様までつけ始める始末。クズハさん、トラウマになってるじゃないですか。

 ……さておき、フェアリーたちはここを使うため、補強や整備をして以前の宿屋よりも質を上げていたらしい。そんな所に泊まれるなんてありがたいな。


「ということで、早速風呂に入るかアネットよ」

「おう、ゴウも一緒に入るか?」

「いや、俺は周辺を警戒しておくよ。少ないとはいえ、モンスターが出るかもしれないし」

「確かに裸の時に襲われたらまずいな、それじゃ頼んでもいいか?」

「ああ、ゆっくり入っておいで」


 そう伝えるとクズハさんとアネットはお風呂に向かった。

 結界をしておけば大丈夫なのでは?と言いかけたけど、それだと俺まで連行されるから言わないことにした。


 そして残ったのは俺とフェアリーなんだけど……なんか気まずい。

 しばらく沈黙していると、フェアリーの方から声をかけてきてくれた。


「あ、あの……ボクのあげたスキル……役に立ってる?」

「ああ、『妖精の加護』かな。もちろん、おかげで俺に必要な素早さや運が上がってありがたいよ」

「えへへ……ボク、キミは優しいから好き。だからいいこと教えてあげるね」


 いいこと……それは、フェアリーに好かれている者は、フェアリーの森にある妖精の集落に入れること。

 どうも前回フェアリーを倒そうとしたアネットや、前回も今回も拘束魔法で縛り上げたクズハさんは入れないらしく、俺だけは入れるようだ。


「来てくれると嬉しいな、それじゃ」


 フェアリーはそう言うと森へと飛び立ち、姿を消した。

 ……そうだな、モンスターが少なくて盗むが期待できないし、明日はフェアリーの森に行ってみよう。


 さて、フェアリーに嫌われてる二人にはどう説明しようか……と思いながら、俺は周辺警戒をするのだった。

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