41.一休み
ドラゴンを討伐した翌日。
町はお祭り騒ぎになっていた。
西の王国を滅ぼしたドラゴンがいなくなったから。それは分かる。
分かるけど、なんで俺たち英雄に祀り上げられてるの……。西へ向かいたいんだけど。
「まあ良いではないか。美味い物と酒がたらふく……くふふ……」
「ああ、肉も美味いし言う事なしだな!」
食欲と酒欲に支配されてる二人。これは明日も動けそうにないな……。
まあ、ここでちょっと休んでいくのも一つの手か。
ここから西に行くとなるともう休憩できるところはほとんどない。
おそらく通り道にある小さな村もドラゴンに焼かれたか、ドラゴンが来て逃げ出したかのどちらかだろう。
その先の王国も既に滅ぼされている。充分な休息を取って、充分に準備して、それから西に行くのがいいだろう。
……ということで、俺も諦めて祭りに参加する。
決して美味い料理に陥落したわけではない。
……あっ、これ美味しいな……。
「おい、聞いたか?勇者様が二人目の四天王の討伐に向かったらしいぞ」
「本当か!?こっちはゴウ様がドラゴンを討伐したし、魔王の戦力もどんどん削られていくな!めでたいめでたい!」
……料理を食べていると、そんな噂話が聞こえてきた。
なるほど、勇斗たちもしっかりと勇者してるんだな……って、四天王二人目?ということは……。
(俺が二人倒してるから、これ四天王実質壊滅してるな……?)
思ってはいても口には出さない。尾びれ背びれがついて混乱が広がりそうだし。
まあでもドラゴンみたいに四天王ではないけど強いモンスターはまだまだいるだろう。
魔王にはできるだけちょっかいかけずに、西のモンスターたちのレアドロップを確かめないと。
(勇斗たちも西に向かうんだろうか。だとしたらどこかで合流できるかもしれないな……)
そう思いながら、勇斗もどこかで同じように見ているであろう空を仰いだ。
**********(勇斗視点)
「やったね勇斗、これで四天王二人目だよ!」
「ケガを治すから、じっとしてて……」
聖の回復魔法が傷ついた僕の腕を癒す。聖女という職業だけあって、回復においては聖の右に出る者はいないとか。
「やっぱり聖の回復魔法は凄いね、一瞬で傷が塞がったよ。痛みも全くない」
ケガをしていた腕を大げさに動かして、完全に治ったとアピールする。
それを見て聖は嬉しそうに笑う。
「それに賢美の魔法も相変わらず凄い。僕の隙を消す形での援護だったし」
「ふふん、もちろんでしょ!この『賢者』賢美様の魔法にかかればどうってことないよ!」
賢美のスキル『無詠唱』は、普通は詠唱が必要な魔法を即座に発動できるというもの。
これにより、魔法使い特有の隙が完全になくなり、完璧なアタッカーとして君臨している。
「でも、勇斗や聖のスキルも凄いよ?あんな強い攻撃でさえかすり傷程度に抑えてるから……」
僕のスキル『神々の加護』は全員の全ステータスが二倍になるというもの。
そして聖のスキル『大いなる護り』は全員の受けるダメージを半減するというもの。
これらのスキルにより、僕たちは自分たちよりも強いモンスターをどんどん倒せていた。
「これで村人たちが安心して暮らせるようになるといいね……」
聖が呟く。
この四天王のせいで、生活を脅かされていた人は多く、中には故郷を奪われた人もいる。
でも、これで故郷に少しずつでも戻ることができるようになったらいいな。
「……うん。まだまだモンスターのせいで困っている人はいる。先日は西の王国がドラゴンに滅ぼされたと聞いたし、僕たちがやらなければいけないことはたくさんあるよ」
「そうだね、でもあたしたちなら四天王どころか魔王だって倒せる気がする!」
「もう賢美……自信があるのはいいけど、油断しちゃダメだよ?」
賢美を聖がたしなめる。
若干暴走しがちな賢美を聖が抑えるのはいつもの光景だ。
「あっ勇斗、あたしのこと笑ったでしょ!?」
「ごめんごめん、本当に仲がいいんだなって」
「そりゃあたしたちいつからの付き合いだと思ってんの?」
「小学生からだね。僕たちと豪、いつも一緒だった」
ふと空を見上げる。豪もこの空を無事に見られているだろうか?
「……豪、元気でやってるといいんだけど」
「そうだね……でも、豪のことなら心配ないよ。むしろメキメキ力を付けて今頃四天王を倒しちゃってるかも」
「んー、でも豪の職業もスキルもハズレって言われてたし……あたしは無事でいてくれればそれでいいかな。全部終わったら四人で暮らすのもいいし」
「うん。……それじゃ次の目標に向かって出発しよう。次に豪に会うのは平和になったときだ」
「「うん!」」
こうして僕たちは次の目標……ドラゴン討伐のために滅びた西の王国へと向かった。
それにしてもあの四天王、変なこと言ってたな……「私が最後の四天王!お前たちなどには負けはせぬ!」って……まだ二人目なんだけどなあ。
もしかすると、僕たち以外の誰かが討伐したのかもしれない。それならそれで人々の脅威が減ったわけだし、良いことだと思う。
**********(ゴウ視点)
「へくしゅっ!」
突然くしゃみが出る。花粉症でも風邪でもないのになあ。
「どうしたゴウよ。誰かに噂でもされてるのか?」
クズハさんが笑いながら訊ねてくる。
「んー、噂……噂かあ……心当たりがありすぎますね」
「まあそうじゃな、竜殺しとも呼ばれるようになったし、今頃そこら中でゴウの噂をしてるじゃろうて」
「更にSランクへの昇格ですしね……今頃シィルさんやギルドマスターびっくりしてますかね……」
「そうじゃろうなあ……この速さでSランクまで登り詰めた者は未だかつておらぬじゃろう」
……なんか、どんどん大事になっていってる気がする。
それでもそれで人々の平和な生活が守られるならいいかな。
「さて、それじゃ明日は買い出しとかをして、明後日旅立つ準備をしますか」
「ん?明日すぐに旅立たないのか?」
「……どうせクズハさんもアネットも酔いつぶれてるでしょ」
「……くふふ」
なんですかその「分かっておるではないか」という顔。まあ付き合いも長いですしね……。
「ほどほどにしておいてくださいね」
「うむうむ、分かっておる分かっておる」
うんダメだ。完全に酔ってる。
まあ買い出しなら俺が一人で動けばいいだろう。魔法の袋を借りてどんどん中に入れるだけだし。
それに果物が即生る不思議な枝も欲しいな、明日ちょっとハイトレント狩りにも行こうか。
などと明日の予定を頭に浮かべながら、俺は一日のんびりと過ごした。