39.ダンジョンへ
「なるほど……ランクAとBのモンスターが多いな……」
俺は朝早くから冒険者ギルドの討伐依頼を確認する。
前の町よりも魔王城が近いだけあって、ランクの高いモンスターが多い。
それもあって、この冒険者ギルドには手練れの雰囲気を纏っている冒険者も多い。
「そして最上級は……西の王国を滅ぼしたドラゴン、Sランクか……」
これの討伐依頼があるということは、ここも危険に脅かされているということか。
町に被害が及ぶ前に討伐したいところではあるが。
「緊急依頼は冒険者が操られる原因の解明、か」
これは対策を練らずに行くと、ミイラ取りがミイラになるやつだな。
操りの耐性ってどうやってつければいいのやら。
とりあえずクズハさんに相談してみるか。
……と、ざっと見た所で大きく分けてこの町での目標は二つ。
・ドラゴンの討伐
・冒険者が操られる原因の解明
周辺は警備部隊が警戒しているためドラゴンは接近してくれば分かるだろうし、まずは操りの原因解明が急務かな。冒険者で同士討ちしてしまったら対ドラゴンの戦力も減ってしまうし。
目標は決まったし、一旦拠点に戻ろう。
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「おお、帰ったか。操り対策じゃろう?」
「バレバレでしたか」
「まあのう。あの状況を見てしまったらそちらを優先すると思ってな」
この町に入る時の光景を思い出す。人間同士で争って戦力を減らしてしまってはモンスターの思う壺だ。
何か対策があるならすぐにでも倒してしまいたい。
「そうじゃな、敵をドールマスターと仮定すると対策は一つ。そやつ以上の能力があれば操られることはない」
「具体的にはどの能力です?」
「魔力と……あとは力じゃな。基本的にドールマスターはゴーレムや人形を魔法で操っておる。その魔力を反発して打ち消してしまえば操られることはない。力の方は操られている時に力で抵抗すれば、力同士で打ち消しあって行動をキャンセルできる……が、魔力で操られたままにはなる」
「……ということは、魔力で上回ってさえいればいいわけですね」
それなら話が早い。俺とクズハさんの魔力ならそうそう上回られることはないはずだ。
ただ、問題は……。
「もし全員が魔力で上回っていたら姿を現さない、という事もありますよね?」
実際に該当するダンジョンを踏破して戻ってきているパーティーもいるらしいし。
そのパーティーの魔力がどれぐらいなのか分かればいいんだけど。
「こそこそやっておるということは、操る自信がなければ出てこない臆病なモンスターじゃな。今まで操られた冒険者のステータスは、魔力が150以下が多いらしいのう」
「あれ?それだと俺たち全員無理なような……」
「ああ、オレですら丸薬使って255まで上げてるしな」
まずい。
調子に乗って上げられるステータス全部上げてたぞ。
「何を言っておる、交換の指輪があるじゃろう」
「あっそういえば……ということは、俺の力と魔力を交換すれば対象にはなりそうですね」
でも少し不安がある。あの冒険者たちみたいになった時、二人を傷つけてしまうのではないかと。
「まったく、何を不安そうな顔をしておる。ワシらもお主に後れを取ったりはせぬぞ」
「ああ、たまにはオレのことも頼ってくれよ」
「そう、ですね……いざとなったら拘束魔法がありますし」
俺は二人を信じてその作戦で行くことにした。
危ないダガー二種はクズハさんに預けて、これで準備は整った。
「さて、件のやつがおるとされるダンジョンは――」
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「そろそろじゃぞ、交換の指輪の効果を使っておけ」
「はい、それでは……」
交換の指輪を使い、力と魔力の数値を交換する。
……力が765ってこんなに力が漲ってくるんだ……今なら何でもパワーで解決できそうな気がしてくる。
……それはさておき、ドールマスターと思われるモンスターがいる階層に到着する。
クズハさんは索敵魔法で警戒をしながら、階層内のモンスターを順次倒していく。
それにしても力765は凄い。普通のダガーで撫でただけでモンスターがどんどん倒れていく。
これは魔法耐性のあるモンスターに対しても有効だな、とそんなことを考えていると……。
「……!来たようじゃな」
クズハさんが小声でドールマスターの襲来を告げる。
しかし俺たちはそれに気づかないフリをして探索を続ける。
そのうち背筋に悪寒が走り、突然意識が混濁し始める。
気が付くと俺はクズハさんとアネットに対して刃を向けていた。
身体の自由が効かない。意識はハッキリしているのに……これが『操り』の効果か。
「ゴウ、どうしたんだ!?」
アネットが俺のダガーを受け止めながら言う。……ちょっと演技っぽいけど、まあこれでドールマスターが騙されてくれれば……。
「アネット、一旦退くぞ!こっちじゃ!」
クズハさんは軽めの魔法を俺にぶつけて隙を生み出し、二人は俺から逃走を始める。
操られた俺はすぐに二人を追いかける。
作戦通りだ。
二人はドールマスターの気配がする方に逃げ、俺を誘導しているのだ。
二人が別の部屋に入り、俺も追うように部屋に入ると急に部屋の入口が塞がれる。
そしてそれと同時に大量のモンスターが俺たちを囲むように出現する。
「ククク……仲間に追い詰められる気分はどうだ……?」
「なんじゃ貴様は!……もしやゴウをこんなにしたのは貴様か!?」
「その通り……私は操ることを極めたドールマスター。人形やゴーレムだけではなく、人間も操れるように進化したのだ!人間同士が殺し合うのを見るのはとても愉しいぞ……ククク……」
モンスターと同時に空中に出現したのは自らをドールマスターと呼ぶモンスターだった。
なるほど、こいつはそういう外道なモンスターか。それなら加減をする必要はなさそうだ。
あとクズハさんは演技うまいですね。老獪とでも言うべきか……。
「さあゆけ!その二人を討ってみせよ!そして次は町へと赴くのだ……ククク……」
いやー、そうは問屋が卸さないね。
残念ながらちょうど交換の指輪の効果時間切れだ。
魔力が元に戻り、ドールマスターの魔法を中和する。
「なるほど、外道だな」
「……は???貴様は私に操られていたはずでは……?」
「悪いな、罠だったんだよ」
俺は即座にマジックアローを二発撃ち込み、素早さを盗んで逃走できないようにする。ついでにレアドロップも盗んでおこう。
「な、なんだ……!?身体が動かぬ!おい、モンスターどもよ!私を助けろ!」
「いや、それは無理だね」
「まったく、この程度でワシらを倒すつもりでいるとはな」
ドールマスターがモンスターの方を見ると、その大半はアネットとクズハさんによってすでに倒されていた。
「ば、バカなバカなっ!!こいつらはこのダンジョンでも選りすぐりの強者たちなのだぞ!?」
「ほう、この程度で選りすぐりとな。片腹痛いわ」
「まったくだ、マウントゴーレムの方がよっぽど手ごわかったぜ」
「なっ……!?も、もしや東の町に魔王様が送り込んだマウントゴーレムを倒したというのは……」
……なるほど、あのマウントゴーレムは魔王の仕業だったのか。
しかし直接魔王が出ずにマウントゴーレムだけというのも不思議な話だが……。攻め落とすつもりなら魔王が直々に出た方が確実だろうに。
「まあそういうことで……お前はここまでだな」
俺は地面を蹴ってドールマスターの元へと跳躍する。
「ひぃっ!や、やめろぉぉぉぉ!!!」
そしてそのままドールマスターをダガーで切り裂く。
操るために魔力特化のステータスなのか、俺の力でも問題ないぐらいに守備力は低かったようだ。
……さて、これで操り事件の問題は解決だな。
「よくやったぞゴウ」
「いやー、それにしてもゴウに攻撃された時は分かっていてもちょっとショックだったな」
それもそうだろう、仲間に斬りかかられるなんてタネが分かっていても心への負担は大きい。
タネが分からなければ動揺し、そのまま壊滅なんていうこともよくあることだったろう。
「ああ、二人ともごめん。でもこれで同じ事件は起きなくなるだろうな」
「そうじゃな、では冒険者ギルドへと報告に行くかの。……アイテムの鑑定をして」
「やっぱゴウはちゃっかりしてるよなー、素早さと同時に盗んだんだろ?」
……二人とも俺の理解度高いな……。
俺は倒した時のノーマルドロップとレアドロップをクズハさんに渡して鑑定してもらう。
「ノーマルドロップはEXマジックポーション、レアドロップは……操りの人形、か」
「なんかアイツそのまんまなドロップだな」
「ちなみにどんな効果なんです?」
「ふむ……この人形に操る対象の何か……例えば髪の毛とかを入れると、自由に操ることができるようじゃ。……本当にそのままじゃな」
悪用されたらかなり危険なアイテムだな……。
「ということはゴウの髪の毛を入れたらゴウを好き勝手に……」
「いややめてよ!?」
「おお、ゴウが普通なら嫌がること……例えば混浴だとかそれ以上のことも……」
「クズハさんまで何言ってるんですか!?」
「くふふ、冗談じゃ。これは一度きりの消耗品じゃからな。そんなことに使ったりはせぬわ」
そ、それなら安心なんだけど……クズハさんの目が笑ってないから……。
「それにこれは魔力が相手を上回ってないと効果を発揮せん。ワシらでは操ることはできんからのう」
魔力上げておいて良かった……と思う瞬間だった。
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その後、冒険者ギルドに報告を済ませ、もらった報酬で食べ歩きをすることにした。
……二人はめちゃくちゃお酒を飲んでたけど……これはまた明日二日酔いするな、と思うのだった。