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37.山の調査依頼

 侍のオボロさんの刀ができあがるまで、町に留まることにした俺たち。

 依頼をこなして人助けをしつつ、時間を潰そうとしたのだが……。


「……ほとんど依頼がない……」

「そりゃあゴウが冒険者ランクを上げるために大量にやったからだろ」

「でも受ける依頼はできるだけ手を付けられてないものを選んだんだけどなあ……あっ」


 掲示板の片隅に貼られている依頼書を見つける。

 ランクはB以上、報酬は……普通のBの依頼に比べれば少ないが、そこそこの金額だ。

 内容は……。


「山の調査依頼?」


 依頼書を覗き込んだアネットが不思議そうに言う。

 それもそうか、討伐とかでもなく調査依頼がBランク相当なんだから。


「あ、それはですね……」


 俺たちの会話を聞いていた冒険者ギルドの受付嬢が、詳しい内容を説明してくれるようだ。


「近くの山で煙のようなものが多数目撃されていまして……最初は不審火なのではという噂が流れましたが、木が焼けた跡はありませんでした。その後は煙のモンスターだという噂になったのですが、モンスターも誰も見ていないという不思議な事態になっていまして……」

「それで、冒険者に依頼を出すに至ったと」

「ええ、ランクを高めにしているのは万が一モンスターだというのを考慮してです」

「ふーん、ちょっと暇つぶしにはいいんじゃないか、ゴウ?」


 確かに時間を潰すには持ってこいだ。それだけでなく、住民の人たちの不安を取り除くことにもつながるし、もしかすると初見のモンスターがいるかもしれない。

 となると、答えは一つ。


「ではこの依頼、俺たちが受けます」




**********




 やってきたのは町の北にある小高い山。

 ある程度街道は整備されていて、モンスターの気配もそれほどない。


「クズハさん、周囲にモンスターはどれぐらいいますか?」

「そうじゃな……索敵魔法をかけておるが、せいぜい十体程度じゃな」

「ならまずはそいつらを倒すのがよさそうじゃないか?」


 そうだな、アネットの言う通りまずはモンスターを探し出して倒すのがいいだろう。

 その中に煙型のモンスターがいれば、謎の煙はモンスターだったことになるし。


「よし、ならば順にモンスターを探し出していくぞ」




 その後、クズハさんに誘導されながら山のモンスターを倒していく。

 しかしそのほとんどがドリアードやアルラウネといった植物系のモンスターで、煙のようなモンスターはいなかった。

 ただ、収穫はあった。トレントの上位種のハイトレントから、不思議な枝を一度に五本も盗めることが判明したのだ。

 不思議な枝は美味しい果物のほか、能力上昇(バフ)の実が生るためかなり有用なアイテムだ。

 以前は拠点に植えていたのだが、こちらの町に移ってきてからは在庫がなかったため、植えられていない。


「西に向かう前にこれが手に入るとはのう……ゴウよ、更にハイトレントを探し出すぞ」


 なんか目的変わってないですかクズハさん?

 確かに更に西に進んだ時に植えるには丁度いい収穫ではあるんだけど、本来の目的は煙の正体を突き止める事なんですよ?


「……なんてな、もう索敵魔法には敵が引っかからん。つまり、煙の正体はモンスターではないということじゃな」

「うーん、そうなると一体何が……」

「なあゴウ、ちょっといいか?」


 アネットが俺の服の裾をつまんで引っ張る。……なんかかわいいぞ。


「この辺、変なにおいがするんだよ。あっちの方からにおって来てるみたいだ」


 アネットが指さした先は『崖注意!』の看板が立っている。

 文字がかすれ気味で注意看板の意味がほとんどないのだが……。


「あっちということは崖からかな……ちょっと行ってみるか」




 アネットに先導を頼み、間違って崖から足を踏み外さないように慎重に進む。

 すると、途中に地面から煙が出ている箇所があった。

 なんとなく、どこかで嗅いだ事のあるようなにおい。それと、ほんのりと周囲の空気が暖かい。

 もしかしてこれって……?


 崖の方に出ると、下から煙のようなものが立ち昇っている。


「この下が発生源だと思うけど、どうやって行こうか……」


 煙の元は分かった。しかしそこに行く手段がない。

 どうしようかと思案していると、クズハさんがおもむろに詠唱を始める。

 クズハさんが詠唱を終えると、いつもの拘束魔法の蔦が俺とアネット、クズハさんの身体に巻き付き……。


「あ、あの……クズハさん?」

「黙っておれ、すぐに着く」


 すぐに着く?いったいどういうことかと思っていたら、蔦の発生源は崖の下、そしてそこに俺たちは運ばれていく。


「へぇ、こういう使い方もあるのか。クズハは凄いな」

「ふふん、これが応用力というものじゃよ」


 頭が柔らかいというかなんというか……流石に空中の旅は想定外だったというか……滅茶苦茶揺れて下手なジェットコースターよりも怖かった。マウントゴーレムの時に一回経験はしているのだけど。

 ……そんなことを考えていると、崖下に到着する。そこには洞窟があり、中から煙が溢れてきていて……。


「煙というよりは湯気じゃな」

「ということは……やっぱり温泉……ですか?」

「じゃのう……人騒がせな」


 洞窟を少し入った所に温泉が湧き出ていて、煙の正体はこの湯気、空気が暖かいのもそれが原因だろう。

 洞窟自体は温泉しかなく、モンスターのたまり場などというわけでもなかった。洞窟内部も浅く、ダンジョンでもないみたいだ。


「……まあこれで依頼は解決ですかね」

「そうじゃな、さて、それじゃ温泉に入っていくとするか。第一発見者特典じゃ」

「おっいいな、探索で汗もかいたしちょうどいいぜ」


 ……なんで入る気満々なんですかねこの二人。


「じゃあ自分はモンスターが来ないように見張りをしておきます」

「何を言う、ゴウも入るんじゃよ。索敵魔法でもう引っかからないと言ったじゃろう」


 ええ。なんで混浴する気なんですかこの女狐。

 健全な男子には刺激が強すぎますよ?


「それでも入らぬというなら……拘束魔法で無理矢理脱がしてじゃな……」

「…………はい、ゴウ入ります……」


 拘束魔法で脱がされるよりは自分で脱いだ方がまだ安全だ。

 二人と距離を取ってから温泉に入ればいいだろう……。




**********




 結局いろいろあったものの、温泉自体はかなりの効能があるみたいで、日ごろの疲れが吹き飛んだ。

 あの二人がこっちに来ようとするたびに追い返してたら「なんじゃ、初心(うぶ)じゃのう」などと冗談を言われたが……まあいいや。


「しかしこれだけ癒し効果があるとなると、観光名所になりそうですね」

「うむ、じゃが移動手段がないとここまで来れぬからのう……」


 そう、この周りを調べてみても、登る手段も降りる手段もない。崖の途中にある洞窟だったのだ。

 これでは温泉に入りたい人がいても無理だな……折角のいい温泉なのに。


「とりあえず上に登るぞ、あとは帰ってからギルド職員とどうするか相談じゃな」


 俺たちはもう一度空の旅を経験することになる……やっぱり慣れないな。




**********




「なるほど、原因は温泉でしたか……そして普通では移動手段がない、と」

「そうじゃな、じゃがあの温泉は魔法か何かがかかっておる。そのままにしておくのはもったいないぞ」


 魔法?それ初耳なんですけど?

 まあ、あの癒し効果は魔法的な何かがあったような感覚ではあるが。


「そうですね、ギルドマスターや他の職員にも相談してみます。ありがとうございました」


 こうして、山の調査依頼は終わった。

 その後、あの温泉周りが開発されて、この町の新しい観光名所になるのはちょっと先のお話。




**********




 それから一週間ちょっとが経ち、オボロさんが町に戻ってきた。

 刀の説明をする時は普段からは考えられないぐらいに興奮していたが、それだけドワーフの族長の技術が凄かったのだろう。俺のダガーもそうなんだけど、信じられない威力だし。


 そしてオボロさんからお土産を渡される。……なんと、族長が打った新しいダガーだ。

 どうも族長に渡した丸薬などにいたく感動したらしく、丸薬を全て使って能力を上げたあとに、俺のダガーを作ってくれたらしい。予定よりも帰ってくるのが遅れていたのはこれが原因だったのか……ありがたいけど。

 ダガーをクズハさんに鑑定してもらうと、以前のダガーが力+200なら、今回のダガーは+500かそれ以上だと言っていた。


 これは思わぬ戦力アップだ。

 更に装備のステータスも盗めるようになったので、今までのダガーから盗めば実質+700になる。

 装備込みとはいえ魔力並みに力が上がったので、これで並大抵のモンスターならサクッと倒すことができるだろう。


 さて、オボロさんも帰ってきたのでこれで西に進む準備ができた。

 宿を引き払い、道中の食料も買い、旅立つことにする。


「それではオボロさん、お元気で」

「まだまだ返せていない恩がありますので、どうかご無事で」

「うむ、また会えたらこき使ってやろう」

「ふふふ、お手柔らかに」


 なんだかクズハさんの冗談にも手慣れた対応だなあ。

 ……それじゃあ、クズハさんの呪いを解呪する方法を探しに、西へ行きますか。


 滞在期間は短かったけど、いろいろあった町だったな。

 冒険者ランクもAになったし、これから先Sランクに昇格することもあるんだろうか。


「さて、次の町はどこになりますかね」

「そうじゃな、この町を街道沿いにずっと西に行けばここよりも大きい町に着く。周りにダンジョンもあり、結構な賑わいがあると聞くのう」

「よし、じゃあ次はそこだな。新しいレアドロップが楽しみだぜ」


 こうして、俺たちは次の町を目指して旅立ったのだった。

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