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35.防衛戦

 俺たちが町に着く頃には、既に防衛部隊とマウントゴーレムが交戦していた。

 人間側の数は三十ぐらいか……それでもマウントゴーレムを傷つけることはできず、その場に拘束するにとどまっている。

 しかし、住人の避難には充分な時間稼ぎであることは確かだ。


「退けぇぇぇっ!!!」


 高見櫓から指揮官と思しき人が叫ぶ。

 上を見るとマウントゴーレムが拳を振り上げていた。

 ……大きすぎて、接近していたら分からないな……これがこいつの怖さか。


 マウントゴーレムはそのまま拳を振り下ろし、地面を抉る。

 その衝撃で軽い地震が起きたかのような地響きが辺りに伝播する。


「なんて力だ……ゴウ、あいつの力を盗んだ方がいいんじゃねえか?」

「確かにそれもありだけど……守備力を下げないと攻撃が通らない可能性がある」

「いや、それは魔法を使えば大丈夫じゃろう。マジックゴーレムと違ってやつは魔力は低い。じゃが……」


 クズハさんが不安そうな顔をする。珍しいな……。


「何か問題があるんですか?」

「一撃で倒しきれなければあやつが町の上に倒れ込み、町が壊滅する恐れがある……」


 ……そうか、あれだけの巨体がバランスを崩そうものなら、下で戦っている兵士や冒険者、防壁や家をも巻き込む恐れがあるわけか。


「ゴーレムの特徴として耐久力が非常に高いのは知っておると思うが、マウントゴーレムは別格じゃ。本当に山を相手にしているかのような体力と守備力を持っておる。呪いの解けたワシの魔法でも一撃は恐らく無理じゃろうな。身体の中央にあるコアが弱点じゃが……ちと高すぎるのう」


 クズハさんの魔力でも一撃は無理となると、マウントゴーレムを町から遠ざけるか、どうにかして町とは逆の方向に倒さないといけない。

 ……あの方法なら、いけるか……?


「アネット、クズハさん、ちょっと耳を貸してください――」


「なるほど、それなら犠牲者は出ぬじゃろうな」

「分かった、それならオレは櫓の上にいる指揮官に話を付けてくる」

「ああ、頼むぞアネット。ではクズハさん、マウントゴーレムに向かいましょう」

「うむ。犠牲者が出る前に早急に決着をつけねばな」




 俺とクズハさんはマウントゴーレムの足元へと向かう。

 ……近くで見れば見るほどその大きさに驚愕する。まるでビルが意志を持って動いているかのようだ。

 

 とりあえず二発のマジックアローを撃ち込み、盗むを発動させておく。

 これで準備はできた。


「ゴウさん、あなたもマウントゴーレムの討伐に?」

「オボロさん。ええ、狩りからの帰り道に町より大きいモンスターが見えたので……」

「この町の冒険者や兵士が総出で対応していますが、あまりにも大きすぎて拙者の刀でも歯が立たずに……未熟ですね」


 オボロさんが刃こぼれした刀を見せる。

 ……確かにこの大きさじゃ、斬るのはまず無理だ。


「マウントゴーレムを西に倒す!周りにいる者はその場を離れろー!!!」


 おっと、アネットがうまく説得してくれたか。それじゃ早速準備だ。


「マウントゴーレムを倒す……?この質量をどうやって……」

「大丈夫、何とかなります」


 俺は大地のダガーを取り出し、鬼神の実を使用する。

 そしてマウントゴーレムの踵付近に踏み込むと、地面を斬り付けて陥没させた。

 一度で開けられる穴はゴーレムの大きさからすれば微々たるものだが、二度、三度と陥没させるとマウントゴーレムの足が揺らぐ。

 反対側の足元はクズハさんが魔法で同じことを行い、徐々にマウントゴーレムの身体が傾き始める。


 足元で何か細工をされたことに気付いたマウントゴーレムは足を宙に浮かせ、俺たちを踏みつぶそうとする。

 だが、それが俺の狙いだ。地面が陥没したところにそんな質量のものを勢いよく降ろしたら――。


 見事に足を踏み外したマウントゴーレムは後ろへとバランスを崩し、ズゥウン……と巨大な音と砂埃を立てて西へと倒れる。

 それを確認した俺はマウントゴーレムによじ登り、身体の中央にあるコアを目指す。


「なるほど、最初からコアが狙いでしたか」

「ええ、しかしマウントゴーレムが立っていれば狙うのは不可能。だからこうやって倒す必要があったんです」

「しかしまさかダガーで地面を抉るとは……滅茶苦茶ですね」


 ははは……それはそうだと思う。これを作ってくれたドワーフの長に感謝しないと。

 しばらく身体の上を走ると、ようやくコアらしき球体が目に入ってきた。

 俺は走りながらそれに狙いを定めると精神の実を食べ、全ての魔力を注ぎ込んだマジックアローを放つ。


 マジックアローがマウントゴーレムのコアに直撃すると、コアが跡形もなく砕け散る。

 そして身体がスーッと消えて、コアの場所にドロップアイテムが出現し……俺たちは空中に投げ出された。

 ……それもそうか、マウントゴーレムの身体は大きいから、こんな高さに……。


 宙に落下しながら、どうやってこの状況を脱しようかと考えていると、不意に身体を何かに束縛される。


「まったく、お主は後先考えぬのう。ワシがおらなんだらどうやって着地するつもりだったんじゃ」

「クズハさん!」


 これは……クズハさんの拘束魔法(バインド)か。こういう使い方もあるのか……。


「クズハ殿と申されますか。かたじけない」


 どうやらオボロさんも拘束魔法で助けられたらしい。よかった、俺は守備力があるからある程度はダメージを軽減できるだろうけど、侍って守備力が低そうな職業だから……。


「それにしてもマウントゴーレムをこうもあっさり倒されるとは……ゴウ殿の実力は底が知れませぬな」

「いえ、兵士の人たちや冒険者の人たちが踏みとどまってくれていなかったら、今頃は町が壊滅してましたよ。それに最初から俺たちしかいなかったら、こうも簡単に罠にかかってくれなかったと思います」


 実際に多くの人がいて、マウントゴーレムの気を引いてくれたおかげで俺たちの工作がうまくいったわけだし、皆のおかげで勝てたようなものだ。


「さて、それではそろそろ町に……」

「そうですね、拙者は報告のために一足先に町に戻りましょう。マウントゴーレムのドロップは討伐したゴウ殿がお持ちすればよろしいかと思います、それでは」

「おお、では遠慮なくもらい受けるとしよう、のう、ゴウよ」


 ……さすがクズハさん、行動がお早い。既にドロップアイテムを手にしている。

 でもドロップが気になっていたのは確かで、早速鑑定をしたいところだ。


「……こっそり盗っていたレアドロップも出すんじゃぞ?」

「ははは、バレてましたか」


 倒す直前にレアドロップも盗んでいたのだ。

 結果としてはノーマルドロップは『剛力の腕輪』という力が+30されるアイテムで、レアドロップは『交換の指輪』と呼ばれるものだ。

 交換の指輪はステータスを別のステータスと交換できるアイテム。例えば俺の魔力が765で力が106だから、力765と魔力106にできるわけだ。

 効果時間は2分程度と短めではあるが、これはかなり有用なアイテムを手に入れられたと思う。

 その時点では使わないステータスを、必要なステータスにできるわけだしね。

 ……これで長いこと気にしていた盗賊力なさ過ぎ問題が一応の解決……かな。

 もちろん丸薬でカンストさせて、他のステータスの限界を突破させたいところではあるんだけど。




 その後町に戻ると、マウントゴーレムを討伐したことで冒険者ランクAへと昇格になったことを告げられる。

 皆で勝ち取った勝利だと伝えたものの、いつの間にやら町を救った英雄扱いされることに。

 ……ランクを上げてはいたが、ここまで目立とうとは思ってなかったんだけど……まあ、町が無事に守られたからよしとしよう。


 そして、これがきっかけとなったかは分からないが、頭の中に久々に声が響く。


【『盗む』のレベルが上がりました】


 と。

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