32.西へ
クズハさんの呪いを解くアイテムを探しに、西へ向かうことにした。
道中、新しく会得したスキルを試しながら進む。
まず『盗む』の有効範囲の拡大。
今までは手のひら程度の当たり判定だったのだが、今では全身とそこから30センチぐらいの広さになっていた。かなりの拡大具合だろう。
更に『掠め盗り』により、攻撃でも『盗む』が発動できるようになった。
直接攻撃はもちろん、マジックアローや投石などの間接攻撃でも盗めるようになり、かなり戦略の幅が広がったように思える。
例えば、マジックアローに使う魔力を最小限に抑え、形もつまようじより更に細くし、ダメージもほぼ与えられないようにする。
これで敵は攻撃を受けたか分からないまま、敵に『盗む』を発動できるようになった。
威力を最小限に抑えるのは、間違って倒してしまうと盗む前に敵が死んでしまうからだ。
威力があり過ぎるのは魔力を上げすぎた弊害でもあったのだが、魔力制御をクズハさんから更に詳細に教えてもらう事で解決した。
クズハさん、教えるのが上手いからいい先生にもなれそうだ。
クズハさんも『合成魔法』を試しながら戦闘をしているが、元々の威力が強すぎるため使う機会はなかなかなさそうだと言っている。
また、盗むによる呪い解除は身体への負担が大きいため、一日一回、多くても二回が限度のようだ。
アネットの『神速』は一番使い勝手がいいが、それに頼らなくてもドワーフの長に作ってもらった手甲で攻撃力が事足りるぐらいに強化されていた。
……普通のパーティーよりもよっぽど強くなった気がするが……めんどくさい事に巻き込まれないよう、目立たないようにしようと誓ったのだった。
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旅に出て三日、ようやく山を越えて隣の町までたどり着く。
野宿って意外と神経を使うんだな……いつモンスターに襲われるか分かったものではないし、夜行性のモンスターも多いからだ。
クズハさんが結界魔法を使い、念のためアネットが見張りをしてくれていたが、それでも町や村にいる時に比べて心を消耗してしまう。
なので、町に着いたからには心の栄養補給をしないと……ということで、名物の食べ歩きを皆で行うことにした。もちろん宿を予約してから。
あ、ちなみに俺は一人、アネットとクズハさんは二人で一部屋にした。流石に一緒の部屋はね……。
「ふむ、この焼きトウモロコシというのは美味いのう……少々食べづらいが持ち歩きにも適しておる」
「オレはこの串焼きの肉だな。かかってるタレというのも美味いぞ」
食べ歩きをしながら町を周り、道具屋、武器防具屋、鍛冶屋など、今後お世話になりそうなお店の位置を把握する。
そして冒険者ギルドにも寄り、どういう依頼があるか確認しておく。強敵の討伐依頼があれば、レアアイテムの内容も期待できるからだ。
ただ、あまりにも強敵を討伐しまくっていると目を付けられそうで困る……どうしたものか。
まだ俺もDランクだし、難易度が高いのはできるだけ受けないようにした方がよさそうではある。
「た、大変だー!!!」
……などと考えていると、一人の男が息を切らせながらギルドに入ってくる。
「ど、どうしたんですか!?」
ギルドの受付嬢が慌てて対応する。……いや、あなたは慌てちゃいけない人でしょ、周りが不安になるぞ。
「わ、ワイバーンだ!ワイバーンが町の西に!」
「ワイバーン?」
「ふむ、レベル50ぐらいの飛竜じゃな。この辺りで出現するようなモンスターではないはずじゃが……」
なんだか嫌な予感がする……悪魔の四天王の時のミノタウロスみたいな……。
まさかまた四天王絡みじゃないだろうな、何かと変な縁があるんだけど。
俺は勇者じゃないんですけど!?
「分かりました、冒険者の方々を緊急招集します!」
「数は一匹だがかなり強い!町の外で対応している兵士たちにも被害が出ている、できるだけ高位の冒険者がいるといいんだが……」
受付嬢は他のギルド職員に指示を出し、招集の鐘を鳴らす。
これで町にいる冒険者がワイバーンの対応をするはずだ。
「……俺たちはどうします、クズハさん?」
「ふむ、まあ後方支援ぐらいなら目立たずできるじゃろう」
「オレは戦いたいが、ゴウが目立ちたくないならそうしよう。まあ緊急の時はやっちまうが……」
「よし、じゃあそれでいこう。……こっそりマジックアローでレアドロップも回収しようかな」
……早速ステルス性のマジックアローの出番のようだ。練習しておいて良かった。
俺たちは冒険者ギルドを出ると、西に向かった。
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町の外に出ると、ワイバーンと兵士たちが交戦しているのが遠くに見えた。
ワイバーンのブレスを魔法で弾きながら、弓兵が一斉に矢を射かける。
しかし硬い鱗に阻まれ、致命傷にはならずにワイバーン優勢の一方的な展開になっているようだ。
「ふむ、ゴウよ、こっそり手伝ってやれ。守備力さえ奪えればあの兵士たちでもなんとかなろう。ワシらは傷ついた兵士の治療にあたろう」
「わかりました、気を付けて」
俺はワイバーンとの距離を詰め、マジックアローの射程内に入るとワイバーンに二発のマジックアローを放った。
一発目はレアドロップを、そして二発目は兵士たちの攻撃に合わせて守備力を奪う。
その後はクズハさんたちと同様に負傷した兵士の救助を行い、戦闘の行く末を見守る。
すると、守備力を奪った直後から矢のダメージが蓄積し、ワイバーンが力なく地上へと墜落する。
「や、やったのか……!?」
「おそらくうまい具合に急所に当たったんだろう、コイツの鱗は普通は矢など通さないはずだ」
「魔法隊、トドメを頼む。確かワイバーンは魔法に弱いはずだ」
地上に堕ちたワイバーンを魔法隊の風魔法が切り刻み、ワイバーンがドロップアイテムへと変化する。
どうやら、無事に討伐ができたようだ。
俺たちもワイバーンにやられた兵士の治療が済み、なんとか全員を助けることができた。
「君たちは冒険者か……ありがとう、おかげで誰一人欠けずに済んだ」
「いえ、Dランクの俺にできるのはこれぐらいなので……」
「使用したポーションの代金はあとで請求して欲しい。多少だが色を付けて渡そう」
「ありがとうございます。それでは負傷した方たちを町まで運びましょう」
こうして、俺たちはなんとか目立たずにワイバーンを倒すことができた。
遅れて到着してきた他の冒険者は、兵士たちがワイバーンを倒したことを不思議がっていたが、俺たちは戦闘に加勢していないので怪しまれないだろう。……おそらく。
こうやって間接的に他のパーティーの援護もできるだろうし、取得しておいてよかったと思う。
町に戻ると兵士からポーション代を受け取り、宿に帰る。
「ポーションは自作じゃから原価はもっと安いのじゃが……まさか市場の値段に更に上乗せとはのう」
「まあ誰もがポーションを作れるわけじゃねえし、クズハのポーションはよく効くからな」
実際その通りで、重傷だった兵士たちもすぐに復帰できるほどの回復力だったのだ。
一部の兵士がハイポーションだと勘違いするぐらいの効果だし。
「ところで気づいておったか?町に戻るワシらを見ていた冒険者がいたのを」
「へ?いや、初耳ですけど……」
あれ?もしかして怪しまれた?
「刀を持っておったから侍じゃろう。やつらは戦闘技術に優れ、相手の力量を鑑定魔法なしで見抜くと言うぞ」
「あれ?それってヤバいんじゃ……」
まさか隠蔽魔法が通用しないなんて思ってもいなかった。限界突破してるステータスも多いし、見抜かれた恐れはある。
……それにしても侍か。ゲームなんかでもよく東国とか東方とかそういう国にいるよね。この世界にもいたんだなあ。
まあクズハさんの服装も和風寄りだし、いてもおかしくはないか。
「今後できるだけ会わないことが肝要じゃが、ここで冒険者をやるならどこかでまた会う可能性はあるじゃろう。いざとなったら力づくで口止めを……」
「……暴力は無しの方向でお願いしますね」
「しょうがないのう……さて、ワイバーンのレアドロップはなんじゃ?」
「あ、それはオレも気になるな」
侍のことも気になるが、それはまた会ってしまった時に考えよう。過ぎたことはもうどうしようもないし。
ということで、俺は魔法の袋からレアドロップ品を取り出す。
「ほうほう……これは『魔法の鏡』じゃな。相手の魔法を反射することができるアイテムじゃ。魔法系の敵にはかなり有効じゃぞ」
結構便利そうなアイテムだ。相手の魔力が強ければ強いほど効果が高いわけか……リッチ戦で欲しかったな、これ。
「しかしワイバーンがこんなものを持っているとはのう、数が欲しいがワイバーンはこの辺りには生息しておらんから難しいか……」
クズハさんが残念がる。研究の材料としてもよさそうだし、アイテムとして使っても強いし、俺としても欲しいのは確かだ。
「まあよい。また明日からこの周りを探索してレアドロップを探すぞ」
「そうですね、今日はもう疲れたので休みましょうか」
「オレはもうちょっと食べ歩きがしたいな、ゴウ、付き合ってくれるか?」
「そうだな……アネット一人だと勘違いされると危ないし、俺も行くよ」
こうして、新しい町について早々に起こった騒動は幕を閉じた。
少し不安の種はあるものの、新しいレアドロップが手に入ったのは幸先がいいスタートだと思う。
明日からもがんばって、クズハさんの呪いを解くアイテムを見つけようと思ったのだった。