31.新たな力
「クズハさん、アネット……」
「ああ、何か聞こえたような……」
「ふむ、精霊の類か何かか」
リッチを倒してドロップアイテムを回収しようとした時、不意に頭の中に響いた女性の声。
どうやら俺だけでなく二人にも聞こえたようだ。
(このダンジョンを解放してくれてありがとうございます……)
「なるほど、このダンジョンは元々お主のもの……それをあの輩に乗っ取られていたということか」
(はい、私はここに来た冒険者の能力を引き出すように助力していました。しかし、それを良く思わないあのリッチに封印されていたのです)
冒険者の能力を引き出す、か。確かにそれはモンスター……特に魔王にとっちゃ厄介な能力だ。
それにしても殺すとかではなく封印か、なんでそんな回りくどいことを……?
(……私には死という概念は存在しません。そのため、封印という手段を取ったのでしょう)
あ、あれ?もしかして心を読まれてる!?
(私は能力を引き出す相手を選びます。そのため、心や過去を読むことも可能なのです)
なるほど、良くない精神の持ち主に能力を与えたら悪用されてしまうから、それを判断するのに必要な力ではある。……って過去?それじゃ俺が異世界から来たっていうのも……。
「ゴウよ、二人だけで会話するでない。ちゃんと言葉に出すのじゃ」
「あ、ああ……すみません」
精霊様、できれば異世界の事は二人には内緒に……。
(さて、それではゴウ、クズハ、アネット……あなた方の潜在能力を引き出しましょう)
「お、オレもか……?モンスターだし、それに今回オレはそんなに役に立ってないんだが……」
アネットが戸惑ったように言う。
(はい……あなたもゴウやクズハと共に戦う仲間です。あなたはゴウのために己を捧げようとしていますね……そんなあなたはモンスターよりも人間に近い存在だと判断します)
「確かに力がもらえればもっとゴウたちのために戦えるからありがたいけど……あんたはそれでいいのか?オレが裏切らないとも限らないんだぞ?」
(いいえ……あなたにはそういう危険性は感じられません……さあ、あなたも共に……)
「……分かった」
アネットは精霊に一歩近づく。それに倣い俺とクズハさんも歩み寄る。
(あなた方に祝福を……)
俺たちは精霊の放った暖かく柔らかい光に包まれる。
すると、身体の奥底から何かが沸き上がるような感覚を覚えた。
「これが……」
「うむ、成長はしないはずのワシの身体も、何かが変わったようじゃな……」
「クズハさん、何が変わったか鑑定をお願いしま……」
(……いえ、私から説明しましょう……)
「そうしてもらえると助かるのう。ワシの鑑定じゃとスキルの場合は詳細まで分からぬからな」
クズハさんが言う。そういえばクズハさんの鑑定は中級……スキルレベルまでしか分からないんだっけ。
(アネットには『神速』のスキルが付与されました。素早さの三倍で動くことができ、素早さが攻撃力に上乗せされます)
「確かオレのステータスは素早さが一番だったな……それにぴったりなスキルだ」
アネットは俺に次ぐ素早さを持っていて、かつ身のこなしが軽い。縦横無尽に駆け回りながら敵を殲滅するのに良さそうだ。
(クズハには『合成魔法』のスキルが付与されました。属性の異なる二つの魔法を合体させることができます。ただし、火と水、風と地のように反発する属性では使用できません)
「ほう、普通であれば魔法は同時に一つの属性しか撃てないはずじゃが、異なる属性を同時に出すことができるようになるのか……くふふ、研究のし甲斐がありそうじゃな」
クズハさんが怪しく笑う。工夫次第でかなり特殊な魔法が撃てそうだ……合成魔法にはロマンがあるからちょっと羨ましい。
(ゴウには『掠め盗り』のスキルが付与されました。敵、もしくは盗むの有効範囲に攻撃を当てることで『盗む』の効果が発揮されます。また、有効範囲が広がりました)
「つまり遠距離でも『盗む』が使えるようになったわけですね……応用が利きそうです」
例えばマジックアローを直接当てるか、赤く光る空間に当てると発動するのかな。もしそうだったとしたら、接近する必要がなくなるから危険度はぐっと減る。
(そして私の加護もあなた方へ……これで魔力が常時1.4倍となります)
……こんなに強くなれるんだ。そりゃあ魔王軍もこのダンジョンを放ってはおかないだろうな……。
前の四天王も召喚を使える国の近くにダンジョンを造って国を滅ぼそうとしたり、リッチも能力を底上げしてくれる精霊を封印したり、アクティブなやつが多いな……四天王ってどこかの居城で勇者を待ってそうなものなんだけど。
……さておき、勇斗たちもここに来れば更に強くなれるだろうし、もし会えたら教えてあげよう。
「ありがとうございました、この力は正しく使わせて頂きます」
(ゴウ、クズハ、アネット……正しき心を持つ者たちよ、あなた方の前途に幸多からんことを……)
精霊はそう言うと、次第に身体が透明度を増し、消えていった。
「さあ、ゴウよ。拠点へ戻るぞ」
「……はい!」
**********
「さて、今後のことを相談したいのじゃが……その前に」
「その前に……なんだ?」
「ゴウ、お主はリッチを倒す直前にレアドロップを盗んだであろう?それとノーマルドロップを出すが良い。鑑定してやろう」
「あ、気づいてましたか。こちらです」
そう、リッチが首だけになった時、念のため『盗む』を発動させていた。
こうすれば魔力が戻った時にすぐに盗り直せるからだ。
しかし、全力のマジックアローに恐れおののいていたから、倒せると確信できたので何かの役に立つと思い、盗んでおいたのだ。
「ほう……ノーマルドロップは『不死の指輪』というものじゃな。装備することで体力が徐々に回復するという、かなりの能力を持っておる」
「傷も塞がったりするんですかね?」
「恐らくそうじゃろうな。そしてレアドロップは……『増幅の指輪』という、アイテムの効果を倍にしてくれるものじゃ」
アイテムの効果が倍……ポーション関係の使用量の節約にもなるし、もしかして丸薬の効果も倍になるんだろうか?だとしたら壊れアイテム……。
「なあ、それってプレゼント箱の効果も倍になるのか?」
「む?そう言われると……よしゴウよ、試してみい」
俺は指輪を付けてからプレゼント箱を開けてみる。すると……。
「……素早さの丸薬が四つ入っておるのう……」
「本当に倍になったのか……冗談で言ったつもりだったんだけどな……」
更にプレゼント箱からプレゼント箱が出る時は、以前の二箱から四箱に増えていた。
プレゼント箱からプレゼント箱が出る限り無くならないなコレ?
……そんなこんなで開封だけで一時間を要したが、実入りはかなり大きかった。
手に入った実は即座に使用し、ステータスの底上げをする。今回のリッチとのステータス格差は大きかったし、どんどん上げていかないとな。
……まあそもそも気軽に四天王とエンカウントしてるのがおかしいんだけど。
「さて、話がだいぶ逸れてしまったが、今後のことじゃな」
「俺はクズハさんの呪いを解くために、旅をしたいですね」
「オレはゴウについていくぜ。ゴウのことが好きだからな」
恥ずかしがることもなく、アネットが言い切る。
「ほう、吹っ切れたようじゃのう」
「ああ、クズハがあんなに美人になると分かったらオレも負けてられないからな。正室は無理でも側室ぐらいには……」
正室?側室?待ってなんでそんな話になってるの?俺まだ成人してないよ?
「まあワシもゴウを譲る気はないぞ。側室は許してやらんでもないが……」
クズハさんまで!?
……あの笑顔を見せられた後じゃ、どうしても意識しちゃうぞ……。
「……話を戻しましょう。旅に出るとしても、今回のようにリッチみたいな強敵が出る可能性はあります。なので、まずは丸薬で強化できるだけ強化しましょう」
「ふむ、それに異論はない。ただ、ワシは強化されるか分からんが……」
「それは後で試してみましょう。呪いを盗んだ時に反映されるかもしれませんし」
「確かに元に戻った時はレベルが一気に上がった気がするのう……この姿で使用した後と、元の姿に戻った時に使用した後とで検証してみるかの」
……結果、クズハさんは呪いを解く前の姿で使用した分も、呪いを解いた後の姿の方にステータスが反映されるみたいだ。
ということで、サイクロプスから体力の丸薬、スライムから守備の丸薬、アルラウネから魔力の丸薬、ミミックから運の丸薬を入手することにした。
また、プレゼント箱からも低確率ながら体力の丸薬と素早さの丸薬が出るので、一日一体のサイクロプスや、もうこの辺にはいない素早さの丸薬持ちのワーウルフの代わりにプレゼント箱を集めることにする。
やる事は多いけど、旅の安全を確保するためだ。全力で取り組もう。
**********
一ヶ月ほどかかったものの、なんとか全員のステータスをカンストまで持っていくことができた。
クズハさんは生まれつき魔力のステータスが二段階限界突破しているらしく、カンストしていなくても魔力が255を超えていたらしい。羨ましい……。
さておき、現在の基礎ステータスはこんな感じだ。
【ゴウ】
レベル:75
体 力:510
力 :106
技 :202
素早さ:510
守備力:255
魔 力:765
運 :255
その他:妖精の加護(素早さ、運1.2倍)
精霊の加護(魔力1.4倍)
【クズハ】()内は元の姿に戻った際の能力
レベル:60(92)
体 力:175(510)
力 :112(150)
技 :210(255)
素早さ:172(255)
守備力:101(255)
魔 力:630(1785)
運 :120(255)
その他:精霊の加護(魔力1.4倍)
【アネット】
レベル:45
体 力:765
力 :198
技 :182
素早さ:510
守備力:510
魔 力:255
運 :255
その他:精霊の加護(魔力1.4倍)
……こうやって見ると、改めてレアドロップを盗めるのはチート級だよなあと思う。
アネットは接近戦特化、クズハさんは魔力特化、俺は魔力寄りのステータスの振り方にした。
また、ドワーフの長に頼んでいたアネットの装備も作り終わり、アネットの攻撃力が大幅に強化されることになった。
前衛はアネット、中衛は俺、後衛はクズハさんとパーティーバランスもなかなかだ。
「さて、そろそろ行くかの?」
「ああ、楽しみだぜ」
「そうですね、クズハさんの呪いを解くために、次の町へ向かいましょう」
「西のダンジョンから更に西に進み、山を越える必要があるが……旅がここまで心躍らせるなど、久しいのう」
クズハさんが遠く、西の空を見ながら呟く。
この先に、クズハさんの呪いを解くアイテムがあるだろうか。もしくは、それを作り出せるアイテムがあるだろうか。
俺たちは期待を胸に、西へと旅立っていった。
ちなみに、使っていた拠点はティアとフィーリアの二人にお願いすることにした。
また、アネットの仲間のワーウルフたちを呼び戻し、討伐されないようにティアとの隷属関係を結んでもらった。いつでも破棄できるらしいので。
収入は庭に植えた不思議な枝から生る実を、村の自由市で売ることで確保する。
……これにより、エルフとワーウルフが美味しい果物を持って参加する不思議な自由市として知れ渡ることになるのだが、それはまた別のお話。