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30.対四天王(死者の王リッチ)

 リッチとの戦いが始まるが、戦力差は圧倒的だ。

 こちらが三人に対して、リッチ側は百を超えるスケルトンとゴーストの群れ。

 更にちらほらとスケルトンやゴーストの上位種と思わしき個体もいる。

 その上、倒しても倒してもリッチがその場で蘇生……既に死んでいるモンスターを蘇生というのもどうかと思うが、復活させてくる。


「くそっ、一体一体は弱いけど数で押されてこのままじゃジリ貧だ!」

「ゴウとアネットよ、一旦退け。……上級炎魔法(ギガフレイム)ッ!」


 クズハさんが以前ミノタウロスやマジックゴーレムを倒した魔法だ。

 スケルトンやゴーストの群れが炎に飲まれて一斉に蒸発し、消えていく。


 ……が、リッチが何かを詠唱したと思うと、まるで何事もなかったのようにその場にまた出現する。


「……ゴウ、あいつ本体を叩かねぇと終わらないぞ」

「そうだな……クズハさん、もう一度道を開けてもらえますか?」

「ふん、容易いことじゃ。アネット、ゴウ、しばし援護せい」

「了解!」


 俺たちは左右から迫りくる敵の群れを、なんとか押しとどめる。

 そして、またクズハさんの上級炎魔法が発動し、敵が蒸発したと同時にリッチへと切り込み、ダガーでリッチの身体を切り裂く。


「……この程度か」


 しかし、ダガーは骨に阻まれて弾き返される。


「そんな……たかが骨なのにこんなに硬いのか……!?」


 今度は別の場所に斬りかかるも、そちらでも同じように弾かれ、反動でダガーが床に弾き飛ばされる。


「しまった……!」

「……人間と言うのはひ弱なものだ。我の骨を傷つけることすらできんとはな」


 ダガーを拾おうとするも、いつの間にか復活したスケルトンたちに阻まれる。

 ここは……一旦クズハさんの所に退くしかない。

 襲い掛かるスケルトンたちの頭や身体を蹴って跳躍し、離脱する。


「あやつは硬すぎる……守備力も魔力も桁違いなのじゃろう」

「ええ、こっそり盗むを使いましたが……守備力510、魔力は765あるようです」

「力はワシもゴウもない。魔力はゴウは510、ワシは630あるが……やつには届かぬか」


 どちらかのステータスを盗めばリッチに有効な攻撃ができるだろう。しかし盗むタイミングが肝心だ。

 守備を盗んでそれに気付かれれば魔法で何かしら妨害されるだろうし、魔力を盗んで気付かれれば周りのスケルトンやゴーストで肉壁を作るだろう。

 クズハさんの魔法もリッチまでの道は作れるが、リッチには届かない。

 もう一度接近して盗むを使い、どちらも盗むことができれば……。


「どうした、もう終わりか?ならばこちらから行ってやろう」


 リッチが何かの詠唱を始める。

 すると場の空気が更に重くなり、全身に鳥肌が立つ。


「まずい、ゴウ、アネット!ワシの後ろに隠れるんじゃ!」

「お、おう!」

「クズハさん……頼みます!」


「無に帰せ。上級闇魔法(ダークネス)


 リッチから全ての物を飲み込むような漆黒の魔法が放たれる。

 それは自分の部下をも巻き込みながら、こちらへと向かってくる。


「~~ッッ!!!」


 死を覚悟したが、それはクズハさんによって防がれ、霧散する。


「何……?」


 リッチの表情は読めないが、おそらく驚いているのだろう。こちらを完全に殺す気で放った魔法がかき消されたからだ。


「マジックゴーレムの魔力結界を使う時が来るとはのう……しかし、在庫はもうないぞ」


 あの時の……!でも、これ以上は防げない。どうにかしてあいつを倒さないと……何か、何か手はないか……!


 ……そうだ!もしかしたら……。


「クズハさん、失礼します!」


 俺はクズハさんの赤く光る空間に触れ、『盗む』を発動させる。

 そして、盗むものは――。




「な、何だと……!?」


 リッチが初めて動揺を見せる。それもそのはずだ。


「なんじゃ……身体中に力が溢れてきよる……」

「クズハ……成長しているのか……?」


 今までは小学生ぐらいの体型だったクズハさん。

 それが今は高校生ぐらいへと一瞬にして成長している。


「……成功しましたね。クズハさんから『呪い』を盗みました」

「なっ……!それではお主が!」

「大丈夫、制限時間が来たら恐らく元に戻りますから。……それに今は」

「……そうじゃな、やつを倒す方が先決か」


 大人になったクズハさんがリッチの方に向かい、詠唱を始める。


「……ふん、所詮こけおどしよ。我の魔法の前に屈するがいい!」


 リッチもそれに対抗して、おそらく先程の魔法の詠唱を始める。

 ……狙い通りだ。


 先に詠唱を始めたクズハさんに魔力が集まる。しかし、リッチの方にも同じく魔力が集まり、ほぼ同時の発動になるだろう。

 ――だが。


「な、何だと……!?我の、我の魔力が……消えた……!?」


 どれだけ魔力が集まろうと、それを盗んでしまえば発動なんてできない。

 狼狽するリッチ。しかしクズハさんの魔法は待ってくれない。


「我に仇なす敵を魂まで燃やし尽くせ……極大炎魔法(インフェルノ)ッ!」


 クズハさんが放った魔法は部屋全体へと広がり、遠く離れたこちらにまで伝わってくる灼熱で全てのスケルトンやゴーストを巻き込んで蒸発させながら、リッチへと到達する。


「ば、馬鹿な……!四天王のこの我が……天敵である聖女でも何でもない、たかが狐ごときに……!」

「相手を侮るからじゃ。慢心は己を殺すぞ」

「おのれ!おのれぇぇぇぇぇっ……」


 リッチの声が炎により段々とかき消されていく。


 次第に部屋の熱気が失せ、元の空気へと移り変わっていく。

 ここまでやれば、いかに四天王と言えども……!?


「まさか……」


 先程までリッチがいた所に存在する、赤く光る空間を確認した。

 ……つまりこれは。


 それに駆け寄り盗むを発動すると、さっき確認したステータスと同等の値が表示される。

 どういうことだ……?


「おのれおのれおのれ……我を……我をここまで追い詰めるとは……!」


 空気が集まり、再びリッチの姿を形作ろうとする。

 しかし、ほとんどがクズハさんの魔法で消し飛んでしまったのか、頭部のみが顕現する。


「ふふふ……ははは……!情けない姿となってしまったが、貴様らに先程の魔法以上の攻撃はあるまい!?あれを超える攻撃でなければ、我は消滅せんぞ!さあ、絶望するがいい!」


「いや……」


 クズハさんの魔力は630。俺よりも高い。

 だがそれは……。


「……ヒィッ!?な、なんだそれは……!?」

「マジックアローだよ。ただの、な」

「そ、そんなはずがあるわけないだろう!マジックアローは細い矢のような魔法!だがそれは……」


 残念ながら、ただのマジックアローなんだ。

 俺の魔力510に、お前の魔力765を足した、ただのマジックアローだ。


「こ、この魔力量……我よりも……いや、魔王様よりも……」

「……終わりだ」

「や、やめ……死にたくな……っ……」


 リッチの頭部よりも大きい矢が、リッチの存在を完全に破壊する。

 これが、今出せる俺の最大の魔法だ。




「……ふむ、どうやら奴の気配は消えたようじゃな」

「ああ、肌に纏わりつくような寒気も全くしない。ゴウがリッチを倒したのか……」

「そのようじゃな……おっと」


 クズハさんの身長が縮む。どうやら盗むの効果時間が切れたようだ。

 再度赤く光る空間に触れ確認すると、状態が『呪い』となっている。


「どうやら効果が切れたようですね、一応俺の状態も確認してもらえますか?」

「どれどれ……ふむ、健常となっておる。呪いは元に戻ったようじゃな……」


 クズハさんがどことなく、名残惜しそうな顔をしている。

 それもそうだ、本来はあの姿があるべきクズハさんの姿なんだから。


「……クズハさん、俺でよければ呪いを解く方法を一緒に探しに行きますよ?」

「ゴウ……」

「そうすればもっと色々なレアアイテムが手に入りますし……その中にもしかしたら、あるかもしれませんしね」

「おー、それは楽しそうだな。オレも連れて行ってもらおうか」

「アネットもか……」


 クズハさんが俺とアネットの顔を交互に見る。


「……ありがとうな」


 嬉しさで泣きそうな顔をしながらも、クズハさんが笑う。

 今までの余裕を持った妖艶な感じの笑い顔ではなく、心の底からの笑顔。

 ……正直、クズハさんに心を盗まれそうになった。


「さて、それじゃあドロップアイテムを回収して帰――」


(ありがとうございます、旅人よ……)


 クズハさんに悟られないように話題を変えようとした所、急に女性の声が頭の中に響いた。

 この声は、一体――。

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