3.守備力カンスト
「豪!豪じゃないか!」
商店街を歩いていると、聞き覚えのある声が背後から聞こえてきた。
振り向くとそこには、俺と一緒に召喚された勇者……勇斗がいた。
「久しぶりだな勇斗、こっちの世界はどうだ?」
「モンスターとの戦いは大変だけど、自分たちの実力……レベル?がどんどん上がっていく感じがして充実してるよ。賢美や聖も豪に会いたがっていたよ」
「二人も元気でやってるか?」
「うん、国が補助してくれてるからね……豪は生活はどう?」
「ああ、冒険者ギルドで依頼をこなしてるよ。貯金もだいぶ増えたので安定してるかな」
「それはよかった。あ、宿を教えてくれたら以前言ってた支援も送っておくよ」
「ありがとう……でも、勇斗たちもお金が必要だろうし、そこまで気を遣わなくてもいいんだぞ?」
そう、勇斗たちは勇者パーティーだからお金はあればあるほど良い。
新しい町に行けば装備を買い替えたり、宿泊したり、三人だから消耗品の消費も多かったり……。
「その辺も国が補助してくれているんだ。この前なんか貴重なステータスアップアイテムをもらったんだ」
ああ、もしかしてそれ俺がギルドマスターに売ったアレかな……。
勇斗たちの役に立ったなら嬉しいところだ。
「……ところで、ここで買い物してるの?」
「ああ、俺だけステータスを鑑定してもらえなかったから、鑑定の鏡を買いに来たんだ」
「そういえばそうだったね……職業とスキルだけで追い出すだなんて酷い話だよね……」
「まあ、おかげで自由な生活をしてるけどな」
「それならよかった、危ないことはできるだけ避けて安全にね。それじゃ僕はそろそろお城に帰らないと」
「ああ、またな」
俺は勇斗と別れると再び商店街を歩き、鑑定の鏡を探して購入した。
一個で千ガルドもするんだ……まあ魔法を籠めたアイテムならしょうがないのかな。ステータスも知っておきたいし。
宿屋に帰った俺は早速鑑定の鏡を使うことにする。
「確か……姿を映して『鑑定』と言えばよかったんだっけ……『鑑定』!」
すると、鏡の中に俺のステータスが浮かび上がる。
レベル:5
体力:52
力:12
技:30
素早さ:52
守備力:10
魔力:5
運:39
へぇ……スライムをたくさん倒したからかレベルが5になってるんだ。
そして非力な職業と言われるだけあって力は12しかないのか……。
その代わり技と素早さは高めなんだな……守備はおそらく紙みたいな感じか。
魔法職ではないから魔力は低いな……これ、魔法防御にも影響するんだろうか。だとしたら致命的かもしれない。
運は……まあ高めではあるんだろうか。他の人の平均が分からないけど、技より高いし。
召喚されて早々に追い出されたから運が高いというのも変な話なんだが……、『盗む』のスキルがレベルアップするという珍しいスキルっぽいし、そういう意味では幸運なのかも。
そして、ステータスを鑑定したらやることは一つ。
「『守備の丸薬』の検証だ!」
一つでどれだけ数値が上がるのか、上限はいくらなのか。
もし上限があるならスライム以外も狩るようにするのと、スライムからは薬草だけを盗めばいいことになるしね。
守備力がカンストしてれば敵からの攻撃も痛くないだろうし、新しい敵を相手にできるようになれば別の依頼を受けることもできるし。
よし、がんばろう。
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翌日、守備の丸薬を大量に盗み、鑑定の鏡も新しいものを複数枚買ってきた。
早速検証開始だ。
一つ使って確認してみる……守備力:13。
二つ使って……守備力:14。
三つ……守備力:18。
四つ……守備力:23。
盗んだものを全て使った後は……守備力:162。
最低で1しか上がらず、最高でも5だった。カンストまではかなりの数が必要になるかな……。
しかしレベル5で守備162はもう鉄壁と言っても過言ではないだろう。
でも上げられるだけ上げてから他のモンスターを相手にしたいなあ……、もう少しがんばるか。
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更に翌日、ここでステータスの頭打ちを迎えることになる。
守備力が255から上がらないのだ。
「えー……255って昔のゲームかよ……」
もしかしたらレベルによるキャップがあるのかもしれないが、現時点ではこれが最高のようだ。
その代わり、これから先は手に入れた守備の丸薬は全て売れるわけだが……。
「あまりにも持ち込み過ぎると怪しまれるよなあ……」
確率が一万分の一のアイテムを大量に持ち込もうものなら出所を怪しまれそうだし、『盗む』スキルが特別だと知られたら面倒なことに巻き込まれそうではある……。
ここは他のモンスターからいろいろ盗んでみるのが良さそうかな。守備力がここまで上がれば怖くないだろうし。
明日、冒険者ギルドに行って依頼を見てみよう。
……しかし、この余った守備の丸薬10個はどうするか……。
こういう異世界によくあるアイテムボックス的なものも無いんだよなあ。
勇斗に渡せれば助けになるんだろうけど……会えた時のためにとりあえず持ち歩いておこうか。
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「ポーションの納品……こういうのもあるのか」
回復薬の代名詞、ポーション。
よく店売りもしてあるけど、納品依頼があるという事はモンスターからもドロップするのかな。
受付嬢のシィルさんに確認してみようか。
「そうですね、スライムが薬草をドロップするように、ポーションをドロップするモンスターもいます。そのモンスターはゴブリンなんですけど、ダガーだと致命傷を与えるのには向かないかと思います」
「確かにそれもそうか……俺のダガーで致命傷を与えることのできるモンスターにはどんなやつが?」
「小さい虫系統のモンスターが良さそうですね。近くの森に出てくるバトルビートルというモンスターは、武器の素材となる『バトルビートルの角』をドロップします」
「角が素材になるのか……あれ?もしかして『盗む』を使うと角が二本……?」
「そうなりますね。一匹の個体から角が二本取れるのは謎ですが……」
ドロップアイテムを盗めるスキルとはいえ、一本しか角を持たないのに一匹で二本取れるのはちょっと笑ってしまう。
どういう仕組みなんだ……。
「バトルビートルはダガーでも充分倒せる相手ではあるのですが、かなり素早く、武器の素材にもなるだけあってその速度を乗せた角による突進はかなりの攻撃力になります。ゴウさんも盗賊なので素早さでは負けてはいませんが、充分に注意してください」
「わかった、ありがとう……ところで、バトルビートルも何かレアドロップするんだろうか」
「そうですね……どのモンスターも何かしらレアドロップがあるとされていますが、今のところは確認されていません」
「なるほど……スライムの時みたいに万が一レアドロップしたらまた持ってくるよ」
「ありがとうございます!この前のレアドロップ品もギルドマスターがとても満足していまして……国からも感謝されて嬉しかったのか、宴会まで開いてくれたんですよ」
あの守備の丸薬二つでそこまで……シィルさんも嬉しそうだし、スキルのおかげで人の役に立てるのは嬉しいな。
……そうだな、勇者みたいに大きいことを成し遂げなくても、俺は俺のできることで人の役に立てばいいんだ。
…そしてバトルビートルか。素早さも負けてはいないだろうし、守備の丸薬のおかげでダメージも抑えられるだろう。
レアドロップ品も気になるし、今日は森へと狩りに出かけよう。
「あ、そうだ。その『バトルビートルの角』を納品する依頼はあるんだろうか?」
「はい、町の錬金術師の人が素材として使いたいそうで……10本の納品依頼が来ていますね」
「ありがとう、できるだけ集めてくるよ」
俺はそう言うと冒険者ギルドを出て、森へと向かった。