27.二度目の魔力カンスト
魔力の限界突破をした翌日、俺は西のダンジョンへと来ていた。
森をドリアードを探しながら歩くよりも、階層固定のアルラウネから盗んだ方が楽に集まると判断したからだ。
問題があるとすれば、アルラウネが裸なせいで集中し辛いこと。
しかも盗むの当たり判定が胸の前にあるせいで、素早さが高すぎてスピードが出過ぎたせいで勢い余って胸を触ってしまったこともある。
そのあと凄く恥ずかしそうにしながらこちらを睨んでいたので、罪悪感が半端ない。
じゃあせめて隠してくださいよ!などとこの世界の生物を作り出した神様に文句を言いたくなる。
……さておき。
実際にアルラウネ階層を繰り返し攻略するうちに魔力の丸薬がどんどん貯まっていく。
その数、一日に五十個程度。
一人でドリアードを狩っていた時はこうはいかなかったな。
手に入った分はその日のうちに全て使い、ステータスを鑑定するを繰り返した。
そして数日後、ついに魔力がカンストする。
「ふむ、魔力が510になっておるな……」
「ではもう一個食べてみます」
「…………変動はないようじゃな」
鑑定の鏡の在庫が尽きたため、クズハさんに鑑定してもらいながら丸薬を使用していた。
どうも限界突破後のカンストは510のようだ。元々の二倍まで伸びるのか。
「魔力510か……恐ろしいな」
後ろで見ていたアネットが呟く。
素早さが一番高い盗賊でもレベル60で255には届かなかった。
おそらく一番成長率が高いステータスでもカンストするのはレベル70前後で、そのカンストの二倍のステータス……レベル換算すれば140のステータスだからそれは恐ろしいと思う。
ちなみに今回のカンストでは限界突破するステータスを選ぶウィンドウは表示されなかった。
おそらくステータスが255になった数で判断されているのだろう。となると次は体力か力か技をカンストさせなければ限界突破はできないわけだ。
なら次にやるべきことは北のダンジョンに……。
「ところでゴウよ」
「はい?」
北のダンジョンへと向かおうとしたところをクズハさんが止める。一体何だろう?
「プレゼント箱、ワシ気になってるんじゃがのう……」
あ、忘れてた。
運の丸薬を集めるついでに回収し、運がカンストしたら開けようと思っていたものだが、魔力を限界突破してカンストさせようとしてたら、頭から存在がすっかり消え失せていた。
「すいません、すぐに持ってきます」
「オレも開けるのを手伝おうか?」
アネットが提案してくれる。気持ちは嬉しいんだけど、検証をまずはしてみたい。
「運で中身が変わるか検証したいので、最初は俺が開けてみるよ」
「なるほど、ある程度開けたらオレたちも開けて、運の違いでどうなるか見るってことか」
「そういうこと、見てるだけだと暇かもしれないけど……」
「いや、ゴウが見せてくれるものは面白いからな。盗むに続いて箱も驚かせてくれるだろうよ」
「はは……善処するよ」
……これで何も出なかったらガッカリさせちゃうな。
この時はそう思っていたのだが……。
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1箱目……魔力の丸薬×2
2箱目……風の指輪(素早さ+20)
3箱目……EXポーション(ハイポーションより上位のポーション)
4箱目……プレゼント箱×2
5箱目……不思議な枝×2
その後もどんどんと上位アイテムや丸薬、レア装備が出てくる。
試しにアネットにも開けてみてもらったが、薬草が出て本人は凄く落ち込んでいた。
これが運の効果なのか……いろんなゲームで影響が分かりづらいステータスなのに、この世界だとここまで有効だなんて……。
「これはこれは……なんという収穫じゃ……」
最終的にはほぼレアアイテムで部屋が埋め尽くされるほどになってしまった。
これはミミックで稼ぐのも一つの手じゃないか?
……しかし、丸薬は体力も力も技も出てこなかったので、更に奥に潜るのもありか……。
何にせよ、北のダンジョンに潜った時には見逃さず集めておこうと思ったのだった。
「さてと、それじゃ余った丸薬はクズハさんとアネットが使う?」
「うむ、ありがたく研究に使わせてもらうぞ」
「お、オレももらっていいのか……?」
「もちろん。俺はもうカンストしちゃって使い道がないからね」
守備、魔力、運はカンストしてしまった今、使える人が使うのが一番だろう。
下手に自由市で売り出すと妙な噂が立つかもしれないし。
「でも、返せるものがオレにはないんだが……」
「くふふ、それなら風呂に入ってる所に乱入して背中を流してやると良い。ゴウは助平じゃから悦ぶぞ」
「クズハさん、何変なこと吹き込んでるんですか!?」
「そうか……それならオレにも……」
アネットが信じ込んでる。何やってるんですかクズハさん。
「アネット、真に受けない。クズハさんの言葉は話半分どころか四分の一ぐらいで聞くのがいいよ」
「そ、そうなのか……?」
……そう釘を刺したのだが。
結局その夜、風呂に乱入されてひと悶着あったのだった。
人とモンスターって、羞恥心も違うんですね。アルラウネは恥ずかしがったのに。
**********
……さて、その翌日。
更なるレアアイテムを求めて北のダンジョンの二階層から下に向かうことにした。
しかし、階段の所で他の冒険者に呼び止められる。
「驚いた、まさかソロでこの先に進もうとする人がいるなんて。ここから先はパーティーを組んで潜った方がいい。二階層は入った瞬間に部屋に閉じ込められる仕掛けがあるんだ」
「なるほど、倒さない限り出られない部屋なんですね。ご忠告ありがとうございます」
冒険者にお礼を言うと、一旦その場を離れる。
閉じ込められる、ということは他の冒険者のことを気にしなくてもいいと言うこと。
でも、倒した後に入ってきた冒険者には怪しまれるか……忠告されるぐらいに強いモンスターだから、どうやって一人で倒したんだと詰め寄られるかもしれない。
「……アネットに同行してもらうか」
とりあえずその日はプレゼント箱の回収に精を出すことにした。
翌日、アネットに同行してもらい、第二階層へと歩を進める。
「ふーん、しかしそんなに強いモンスターが二階層という浅い所にいるのかね」
「分からないけど、できるだけ怪しまれることは避けたいしね。ソロで一番難易度高い所にきて今頃かもしれないけど……」
まあ第一階層はミミックしかいないから、一攫千金を夢見る冒険者も多いみたいだけど。
第二階層に入って部屋の途中まで進むと、急に背後の階段が岩で封鎖される。
「お出ましのようだな」
「ああ、気を付けてアネット」
部屋の側面の岩肌が動き出す。
いや、これは岩肌ではなくて……。
「ロックゴーレムか、確かに厄介な相手だな」
「ロックゴーレム?」
「ああ、ゴーレムは土で作られているんだが、こいつらは名前の通り岩で作られている。その分守備力が普通のゴーレムより高く、良質な武器でなければ傷一つ付けられないだろう」
「なるほど、俺が先に行くのを止められるわけだ」
俺の装備はダガーが二本あるだけ。
そんな状態でロックゴーレムに挑もうなんて、素手で岩を砕こうとしてるようなものだ。
「だが、ゴウは違うんだろう?」
「ああ、マジックアローの練習台にさせてもらうよ」
ゴーレムと同じでロックゴーレムも動きは遅い。
そのため、アイテムを盗むのは楽で、戦闘開始と同時に二回盗むことに成功した。
「さすがの手際だな、ゴウ」
「素早さも上がってるから、ゴーレムの攻撃なら見てからでも充分に回避できるからね……よし、それじゃ……」
俺は意識を指先に集中する。
「魔の力よ、鋭き光の矢と成りて我が敵を貫け、マジックアロー!」
……相変わらず詠唱は恥ずかしいが、そういう規則だからしょうがない。
マジックアローは指先から射出され、魔力で推進力を得て敵を貫く魔法だ。
魔力を籠める量が多いほど速度が速く、威力も高くなる。
ロックゴーレムの身体の中心部……動力の核となる部分を狙って射出された矢は、ロックゴーレムの硬い身体をものともせず、そのまま貫く。
ドリアードのストーンと同じく、マジックアローは魔法だから防御するのも魔力依存だ。
ロックゴーレムの魔力は他のゴーレム同様に低い。そのため、ゴーレム系は魔法が弱点とされている。
マジックアローに核を貫かれたロックゴーレムはその場に崩れ落ち、ドロップアイテムとなる。
「凄いな……オレの攻撃なんて全く効きそうにないゴーレムが一撃か……」
「アネットも魔力を鍛えて、魔導書で魔法を使えるようになったらできるようになるかもね」
「うーん、オレには似合わない気もするけど、攻め手は複数持ってると有利に進められそうだな」
俺もそう思う。
俺の場合はいつも使っているダガー、マジックアロー、そして最終兵器の大地のダガーだ。
あとは相手のスキルや魔法を盗んで使えるけど、安定して同じものを使えるわけではないので、メインにはなりづらい。
「もし今度魔導書が手に入ったら、アネットに使ってもらおうかな」
「いいのか?……それじゃ今夜も風呂に……」
「いやいいから。クズハさんの言葉は信じなくていいからね?」
そんな話をしながら、第三階層へと進んでいくのだった。
……そういえば、二人で来たとはいえ、物理職だけでロックゴーレム倒したのはそれはそれで怪しい気もするが……まあ、もうやっちゃったしいいか……。