25.フェアリー
第一階層のアシッドスライムで、レベル7になった『盗む』はレベルが盗めるようになったことを確認し、第二階層へと進む。
第二階層ではアルラウネからアルラウネの蜜と魔力の丸薬を盗むと、クズハさんとアネットがトドメを刺す。
この二人は本当に人型でも躊躇ないな……いや、この世界だと珍しいのは俺の方か……?
「なんならこやつらからも心を盗めば良いのではないか?」とクズハさんが言うが、だから心は盗めませんって。と思いつつも『敵対心』が盗めれば無力化できるのになあとも思う。
まあ、そんなに都合のいいスキルではないんだけど。
第三階層に入ると、今日はまだ討伐されていないタウロスが現れる。
ミノタウロスほどの脅威は感じられないが、やはり大きさによる威圧感は健在だ。
巨体ゆえに小回りが利かないのを利用し、懐へ入ってドロップ品を盗み出す。
そしてタウロスの気をこちらに引いたところで、後ろからクズハさんが魔法を命中させる。
「息の合った連携だな……」
アネットが言う。確かにクズハさんとは付き合いも長いし、特に何も言わなくても合わせてくれる。
息が合っているというよりは、クズハさんのサポート能力が凄いだけとは思うんだけども。
「さて、レアドロップ品はなんじゃ?」
「これですね……これはいったい……?」
ノーマルドロップ品は鋼鉄、そしてレアドロップ品は……。
「ほほう……これは力の指輪じゃな」
「石の指輪みたいなものなんです?」
「うむ、これは力を20上げてくれる指輪じゃ。お主が付けておくとよかろう」
足りない力を補う装備!これはありがたい……。
しかし、まさかミノタウロスの下位種がこんな装備を持っているなんて。
「いいな……オレも欲しい……」
力の指輪を見て羨ましそうにこちらを見るアネット。
それじゃまた潜った時に盗もうと言うと、「いいのか!?」と尻尾をぶんぶん振って喜んでいた。
そんなアネットを見て、結構かわいい一面もあるなと思ってしまう。
……いかんいかん、クズハさんに何を言われるか分からないから気を緩めないようにしないと。
**********
そして問題のフェアリーが出るという第四階層。
まずは普通に三手に分かれて捜索をしてみる。
しかし、やはり赤く光る空間が時々見えるだけで、フェアリーと出会う事はできない。
「ということで、クズハさんお願いします。赤く光る空間が時々出現しているので、存在してるのは確かなんですが」
「うむ……索敵魔法!」
クズハさんが索敵魔法を唱える。
「……確かにいるようじゃな……拘束魔法!」
続いて拘束魔法を唱えると、近くの木がガサガサと揺れる。
「ひゃあっ!?」
小さな女の子のような声。フェアリーだろうか。
クズハさんは目標を捕まえたツタをこちらに引き寄せる。
すると、人形サイズの女の子がツタに縛られていた。……なんでちょっとえっちな縛り方してるんですかクズハさん。
「や、やだやだ!ボク何もしてないのに!殺さないで!」
これ、明らかに俺たちが悪者じゃないか……。
フェアリーの女の子はジタバタもがくが、ツタは全く解けない。
「いや、殺したりはしないから安心して。……ですよね、クズハさん」
「うむ、頂くものを頂いたら解放してやろう」
「うう……頂くものってなによぉ……」
「ほれ、ゴウ。さっさとせんか」
俺はクズハさんに促されると、ノーマルドロップとレアドロップを盗んだ。
それをクズハさんに渡して鑑定してもらう。
「ふむ……ノーマルドロップは妖精の鱗粉じゃな。妖精が棲み付いた木にも時々付着しておる。幻惑効果をもたらすアイテムの素材にもなるものじゃ」
幻惑効果か……戦場にまき散らしたらかなり厄介なことになりそうだ。
「そしてレアドロップは……ほう、魔導書か!」
「魔導書?そんなものがあるのか」
アネットが食いつく。魔法が使えないっぽい戦闘職だし、興味があるのだろう。
「これはマジックアローの魔導書じゃな。これを読むことで魔法が使えるようになる代物じゃ。魔法職でなくとも魔法が使えるようになるから、かなりの高値で取引されるものじゃ。……少なく見積もっても二百万はするじゃろう」
「二百万……!?」
おいおいおい、いったいどれだけ高価なんだ……魔法職以外も魔法が使えるから確かに貴重なものなんだけどさ。
「でも、魔法職以外が魔法を使えても、魔力の関係であんまり意味はないですよね?」
「うむ、普通はな。だがお主は普通ではあるまい?」
ごもっとも。俺の魔力は盗賊なのに255あるわけで……。
一回ドリアードから魔法を盗んで使ってみたけど、あの時の威力は凄まじかった。
それが今度は何回も使えるようになるなんて……魔法職に転職したようなものじゃないか。
「ちょっとー!用が済んだなら放してよー!」
「おっとすまんすまん……ほれ」
クズハさんが印を結ぶと、拘束魔法がスーッと消えていく。
フェアリーはやれやれと言った感じで地面にへたり込む。
「ごめんね、良かったらこれを使って」
俺はフェアリーにポーションを渡……サイズが違い過ぎるからどうしようこれ。
「……そのままかけてくれればいいわ」
いいのかな……まあ本人がいいならいいのか。
俺はフェアリーにポーションをかけると、フェアリーがツタで縛られた跡が治っていく。
というかポーションって飲まなくてもいいんだ。
「飲んだ方が効きはいいのじゃが、傷口に直接かけても良いのじゃ。自己回復力を高めることで傷を治しておるからのう」
なるほど……ポーションってそういうものなんだな。
「ふー、さっぱりしたわ、ありがと」
「まあ元々傷つけちゃったのは俺たちだし……」
「こいつを倒せばもう一つアイテムをドロップするんだけどいいのか?」
「ひっ!?」
「アネット……怖がらせないであげて」
アネットの言葉にフェアリーがびくっと身体を縮こまらせる。
まあ、これは価値観の違いなんだろうな。
「ところでどうして君はこんなところに?ダンジョンだと冒険者が多く来るだろうし、これから先もこういうことがないとは限らないだろうし……」
「うーん……そういう人を観察するのが楽しいんだと思うの。同族のフェアリーは悪戯好きな子も多いんだけど、ボクは観察するのが好きなんだ。キミのこともこの前見てたよ、ワーウルフの子をお持ち帰りしてたのも……」
なるほど、あの時の赤く光る空間もこの子のだったのか。
……お持ち帰りはその通りではあるんだけど、別な意味に取られかねないのでやめて。
「でも、今回のこれで危ないこともあるって分かったから移動しようかな。……命まで取らないでくれてありがとう、お礼に……」
フェアリーは地面から飛び立つと、俺の顔に近寄り、そして……。
「ほーう……」
クズハさんがニヤニヤしながらこちらを見る。
軽く頬に柔らかい物が当たる。これって……。
「……ボクからの祝福。ボクたちは他の誰かに加護……スキルみたいなものを付与することができるの。何が付くかは分からないんだけど……良い物だといいね、それじゃ!」
ちょっとだけ顔を赤らめた妖精は、第三階層への階段へと一直線に飛んで行った。
「……羨ましい」
アネットが小声で呟く。確かにスキルをもらえるのは凄いことだからな……。
「……たぶん、そういう意味ではないと思うぞ……」
クズハさんが呆れたような顔で言う。どういうことなんだ……?
まあそれはさておき、どんなスキルが付いたのかが気になる。
早速クズハさんに鑑定をお願いする。
「ふむ……これは『妖精の加護』と呼ばれるものじゃな。素早さと運が1.2倍になるようじゃ……だからお主の素早さが319……んん?」
クズハさんが首を傾げる。カンストの255を1.2倍しても306だからだ。
「お主……素早さのステータスが限界を突破しておるのか……」
「ステータスの限界突破……聞いたことはあるけど、オレも初めて見るな」
二人がこちらを見る。
……白状しよう、ステータスが三つカンストで突破できるようになったと。
「なるほどな……そういう方法での限界突破もあるのじゃのう」
ん?そういう方法で、ということはもしかして他にも方法が?
「ワシが知っておるのは限界突破をできるアイテムを使う方法じゃな。……もっとも、どうやって入手するのか、本当にあるのかすら定かではない。様々な文献を調べて見つけたのじゃが……お主だとステータスを三つ限界まで上げる方が楽ではあるな」
なるほど、そういうアイテムもあるんだ。
……でも、あるかどうか分からないから幻のアイテムみたいなものか。
「これで四つを限界まで上げたら、もう一つ限界突破できるのか気になりますね」
「うむ、そのためにも丸薬を盗めるモンスターを見つけねばならぬのう」
「なら第五階層に行ってみるのがいいんじゃないか?オレがいなくなったから別のモンスターがいるだろうしな」
そうだな、アネットの言う通り、モンスターが変わっていたら盗めるアイテムも変わる。
俺は期待をして第五階層へと降りていった。
……が、第五階層にいたのはガーゴイルという石像のモンスターで、ノーマルドロップは硬化の実(1つだけ)、レアドロップは守備の丸薬だった。
守備の丸薬ならスライムからいくらでも盗れるんだよなあ……というかスライムから盗れるのがイレギュラーなのかもしれないが……。
こうなると一番難易度の高い北のダンジョンに期待するしかないか。
俺たちは冒険を早めに切り上げ、拠点へと戻ったのだった。