24.ステータス、限界突破
「ほう、それでダンジョンに潜って女子を連れ帰ってきたと、まったくこの誑しめ」
帰って早々、クズハさんの言葉が刺さる。
アイテムを稼ぎに行ったのに女の子を連れ帰ったのは事実だし、返す言葉もない。
「何でも盗むとは思っておったが、まさか女子の心まで盗むとはのう……くふふ」
いやいや、さすがにそこまでは盗めませんって。クズハさん冗談も大概に……。
【『盗む』のレベルが上がりました】
!?
ちょっと待って、俺今何も盗んでないんですけど……なんでこのタイミングで……?
しかしこの声は俺以外には聞こえないらしく、クズハさんは続ける。
「……まあ冗談はほどほどにして。どうすれば間違えて攻撃されないようにするか、じゃな」
「ああ、オレも迷惑をかけたくないから、よければ教えて欲しい」
「ふむ……簡単にするなら首輪などを付けておけば服従しておると思われるじゃろうな。あとはきちんと人間の服を着たりかのう」
首輪……はペットみたいで嫌だな。できれば同じ仲間として一緒にいたいし。
人間の服なら店に買いに行けばある程度は揃うだろうか。
……流石に今のビキニみたいな布面積の少ない恰好だと目のやり場にも困るし。……これが戦いやすい服装なのかもしれないけど。
「服を着るのはいいが、できれば動きやすい方がいいな」
「そうじゃな、お主は素早さを活かした戦闘スタイルじゃろうし、考えておこう」
「ああ、そうしてくれるとありがたい」
「さて、それではゴウよ、明日は北のダンジョンへ潜るのか?」
「そうですね、南も西も制覇しましたし……でも、西のダンジョンの第三階層と第四階層では戦闘ができませんでしたし、ちょっと気になりますね」
第三階層はミノタウロスの下位種、タウロスが出るらしいが、第四階層のモンスターの詳細は判明していない。
他の冒険者たちに聞いても、あの森でモンスターに遭遇したことはないらしい。
……赤く光る空間が見えたので、何かしらいるとは思うんだけど。
「……ああ、あそこにいるのはフェアリーだ」
アネットが言う。そういえば、同じモンスターだから油断して出てきてくれたんだろうか。
「あいつらは警戒心が強くてな。人の気配を感じたらすぐに隠れて近くから様子を伺うんだ。……もっとも、ただ見ているだけで戦おうとはしない臆病なやつらだ」
確かに一定の距離を保っていた感じはあったし、視線をやるとすぐに隠れていた。
第四階層は広いし、鬼ごっこをしたとしても相手が有利過ぎる。
となると、クズハさんの拘束魔法が有効か。
「ふむ……フェアリーか。滅多に人前には姿を現すことはないから、どんなアイテムを持っているかも分かっておらんのじゃ。となると……気になるのう。行くならワシもついていくぞ」
「ではお願いできますか?」
「うむ、では明日は西のダンジョンへ行くとするかの」
明日の予定を決めた所で今日の作戦会議は終了。
クズハさんの手料理を食べ、お風呂に入ってから就寝する。
アネットはクズハさんの手料理を「うまい、うますぎる……!」といたく感動しながら食べていた。
素直過ぎる誉め言葉にクズハさんも嬉しそうな顔をしていて、自分も思わず口角が上がる。
ワーウルフのアネットが仲間になった時はどうなることかと思っていたけど、これならうまくやっていけそうだ。
……さっきレベルが上がった『盗む』はまた明日にでも試そう。
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食事の後、アネットの部屋を決めて片づけをしたあと、俺は自室にいた。
ワーウルフの子たちから盗んだ素早さの丸薬を使うために。
数としては以前アネットから盗んだのも含めて7個しかないんだけど、どこまで上がるのか。
現在のステータスは、レベル62で素早さが220。255まで上げるには全部で5以上の数値が出ないといけない。
これはカンストはお預けかなと思っていたら、1個使った時点で227に上がる。
あれ?丸薬でそんなに上がったっけ?と思いながら2個目で235。
3個目で240、4個目で248、5個目で255とあっさりとカンストしてしまった。
元々適性があるステータスって上がりがいいのかなと思っていると……。
【3つのステータスが限界に達しました。限界を突破するステータスを選んでください】
スキルのレベルが上がった時と同じ声がする。限界を突破するって……!?
目の前にウィンドウが開き、選択できるのは『素早さ』『守備力』『魔力』だった。
なるほど、現在カンストしてるものしか選べないのか。
量産できるのは守備と魔力の丸薬だけど、戦闘を有利に進められそうなのは素早さだ。
もし素早さ255の敵が出たとしても、それを上回っておけばステータスを盗んで弱体化するのも楽にできるわけで……。
「よし、素早さにするか」
ウィンドウの素早さを選ぶとウィンドウが消失し、身体の奥底から力が湧いてくるのを感じた。
残った2個の素早さの丸薬を使い、ステータスを調べると266に上がっていた。
「それにしても限界突破の条件がステータスのカンスト数だなんて……こりゃみんな秘匿するわけだ」
素早さがステータス内で一番高い盗賊でもレベル60を超えてもカンストには至っていなかった。
つまり、ステータスをカンストさせるには丸薬が大量に必要なわけで……。
何かしら丸薬を手に入れられる伝手があるか、自分で手に入れられるかということになる。
そんな情報を他の人に流すだろうか?
もし流したら次のステータスをカンストさせるための丸薬が手に入りづらくなり、結果的に自分が損をすると簡単に予測できる。
「そう考えると簡単にカンストできるようになる俺の『盗む』はこれまで以上に隠し続けないとな……」
こんなスキルが知られてしまったら、ステータスカンスト目的にこき使われてしまう。
そんなのは勘弁だ。隠蔽の魔法がかかった指輪にもっと魔力を貯めておこう……。
指輪に魔力を補充して、俺は眠りについたのだった。
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「さて、では出かけるぞ」
次の日、朝食を食べ終わるとすぐに、西のダンジョンへと向かうことになった。
早い時間帯の方が冒険者も少ないからというクズハさんの判断だ。
「確かにアネットを見られると騒がれるかもしれないしな……」
「ダンジョンの主を仲間にしてると注目されるじゃろうな。それではやり辛かろう?」
「すまない、オレのせいで……でも、この格好はどうかと思うんだが……」
そう言ったアネットの格好は、シスター服。
フードとローブで耳と尻尾を隠すためだ。それに、後衛職なら戦闘に参加していなくても怪しまれない。
「まあしばらくは我慢せい。この町にはお主に煮え湯を飲まされた者も多いじゃろうからな」
「それは……そうだな……」
アネットがしゅんとする。
元々敵対していた人間とワーウルフだ。急に仲間になったと言っても信じてもらい辛いだろう。
「ちょっと気になってたんだけど、なんでダンジョンの主なのに最初に会った時は外に?」
「ああ、アレか。元々は主じゃなかったんだが、主が倒されてその代わりにオレが主になったんだ。外で自由に暮らしたかったのに、急にダンジョン住まいだからあそこは嫌だったな」
「ほう、主は倒しても復活する者もおるが、そうでない場合は強制的に任命されるのか。珍しい事例じゃな」
南のダンジョンの主であるゴーレムは、倒しても次の日には復活していた。
倒しても復活せずに、別のモンスターに権限が移行することもあるのか。
「ということは、今は新しいモンスターが最下層にいるのかな」
「ああ、おそらくそのはずだ。そいつは復活するかどうかは分からないがな」
なるほど、それなら新しいレアドロップも期待できるかもしれない。
「ところでゴウよ。お主のスキルを説明しておくべきではないか?でないと、盗む前に倒されるぞ」
「あ、そういえば……」
アネットももう仲間なんだし、隠し事はなしにしよう。
「そんな強力なスキルが……」
「ああ、だからこの事は秘密にしておいて欲しい」
「分かった。なるほど、だからそんなに強いのか……」
「良かったらアネットのステータスも上げてみる?モンスターが使えるかどうかは分からないけど」
俺は余っていた魔力の丸薬をアネットに手渡す。
クズハさんに使用前と使用後に鑑定してもらった結果、アネットのステータスが上がっているのが分かった。
「これならアネットにも丸薬を渡せるな」
「……いいのか?強くなったら寝首を掻くかもしれないぞ?」
「ううん、アネットはそんなことしないと思うよ。少なくとも俺はそう思ってる」
「……まったく、元々敵対していたやつを信用し過ぎだ。……そういうところも…きなんだが……」
後半は小声になっていて聞き取れなかったが、それを聞き返そうとすると「……バカッ!」と言われた。
「やれやれ、初々しいのう」
クズハさんは少し呆れていたが、俺には何のことだかさっぱり分からなかった。
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第一階層。
アシッドスライムにレベル7になった盗むを使用する。
すると、ウィンドウが開き――。
【ノーマルドロップ/レアドロップ/ステータス/スキル・魔法/レベル】
!?
レベルなんて盗めてもいいものなのか!?
盗むを発動させる前にクズハさんに鑑定してもらい、レベルが62であることを確認する。
アシッドスライムも鑑定してもらうと、レベルは15だった。
そして盗むを発動させると、俺のレベルは70に、アシッドスライムのレベルは7になっていた。
敵のレベルの半分を盗める感じか……しかもステータスは上がっていたし、敵のステータスは下がっていた。
しかし、その後アシッドスライムを倒すとレベルは元に戻ってしまう。
ステータスを盗むと0になるから、それよりも能力減少効果は緩やかだが、全てのステータスを一気に下げるのは強いな。
盗める回数も今は二回だし、平均的に能力が高い相手には使えそうだ。
さて、レベル7になった盗むの試運転も終わったし、今回の目標であるフェアリーのいる階層へ行こう。




