20.専用武器
流行り病の騒動から一週間、町には活気が戻ってきていた。
万能薬の在庫も復活し始め、感染が広がる危険は段々と減りつつある。
そういえば、そろそろ冒険者ギルドに報酬を受け取りに行かないと……。
「あっ、ゴウさん。あなたが万能薬の素材を集めてくださったおかげで、たくさんの人が助かりました。実は、私の母も病に罹っていたのですが、万能薬で助かりました。ありがとうございます。……それにしても、無償で人々の治療をしていたという回復術師の方、いったいどこへ行かれたのでしょうか?ぜひともお礼がしたいと様々な人がギルドに来て、探し出して欲しいという依頼まで出されています」
はい、それは目の前の盗賊です。
もし言ったとしても信じてはもらえないと思うけど。
「クズハさんと行動を共にしていたということなので、クズハさんの知り合いの方かと思ったのですが……マジックポーションを融通しただけとだけ言われました」
うん、クズハさんの目論見通りになってはいるな。まさか捜索願まで出されるとは思ってもいなかったけど。
「万能薬でしか治せない病気を治療するほどの腕なので、国からも探し出してお抱えにしたいとまで言われてまして……」
そこまで!?
あれ?これってバレたら結構ヤバいことになるやつ?
「あ、すみません、つい話し込んでしまいました。ゴウさんの報酬の件でしたね、こちらがクズハさんからの依頼料です。それと、今回の功績が評価されて、ランクDに上がれるようになりましたが、いかがされますか?」
「もちろん昇格でお願いするよ。もっと色々なモンスターから盗んでみたいからね」
「分かりました、それでは早速手続きを致します」
こうして俺は冒険者ランクD、ようやく一人前の冒険者として認められるレベルとなった。
……レベルは60もうを超えてて、ステータスもカンストがあるけど。
そうだ、そろそろ武器ができている頃かな。ティアに会って確かめたい事もあるし、森へ向かおう。
**********
「ほう、ドワーフの族長が作ったダガーか……」
いつの間にやらついて来ていたクズハさん。
冒険者ギルドの前でまるで待ち伏せでもしていたかのように、バッタリと出会ったのだ。
「それではゴウ様、こちらをお納めください」
「ありがとう、早速抜いてみても?」
「ええ、お確かめください」
鞘からダガーを抜くと、緑色を帯びた刀身に目が行く。
おそらく属性が付いているから、それの影響だろうか。
「属性は地となっております。まずはこちらの木で試し斬りをどうぞ」
差し出されたのはダガーの刀身よりも二倍以上は幅ある大きさの丸太。
これを……斬れと。
とりあえずダガーを構え、木を撫でるように斬る。
すると、丸太が音もなく斬れ、地面にズン……と音を立てて崩れる。
??????
なんで刀身よりも幅があるものが斬れるの?かまいたちとか出してるの?
「ではお次にこの岩を……」
ちょっと待って。
ダガーでそんなの斬ったら折れるから。せっかく作ってもらった武器なのに。
「大丈夫です。儂が保証しますので」
俺が躊躇っていると族長が声をかけてくる。
やらないという選択肢はないみたいだし俺は意を決し、岩へと刃を振り下ろす。
すると、今度は岩がミシッ……と音を立て、ヒビが入り、割れた。
「ほう、相当な業物じゃな」
「分かりますか」
「地属性の付与により、ダガーより硬いものを斬ろうとすると硬化し、刀身を守るのじゃろう」
「その通りです。ゴーレム程度の耐久力なら、この岩同様粉々になるでしょうな」
ええーーー……。
これ、実戦で使ったら絶対目立つやつだ。
「いかがでしたか、ゴウ様」
「う、うん。俺の秘密兵器にさせてもらうよ」
「そこまでの評価を頂けるとは……ドワーフ冥利に尽きます」
うん、秘密兵器にでもしないとヤバいやつなのは一目瞭然だし。
「それでは儂はこれ以上の物を作れるように鍛錬致します」
「あ、ああ……がんばって……」
これ以上の物になると山とかも真っ二つにしそうで怖い。
……とにかく、次はティアのところに行こう。
**********
「ゴウさん、ご用とは何でしょうか?」
「ああ、ちょっと試したいことがあって……ステータスを盗んでみてもいい?」
「はい、5分で戻ると聞きますし、大丈夫ですよ」
「それじゃちょっと失礼して……」
俺はティアから魔力のステータスを盗んだ。
するとティアの赤く光る空間は消滅し、ステータスは俺に加算された。
そして5分後、ステータスがティアに戻ると同時に、赤く光る空間は復活した。
「あ、魔力が戻った感覚がします。これで大丈夫でしたか?」
「ああ、ありがとう。試したいことは確認できたよ」
今の俺の盗める回数は2回。
ティアは以前に状態異常を盗んだので、1回はそれで消費した。
今回ステータスを盗み、戻った際には盗める回数が復活したので、相手に戻ることが盗める回数が元に戻るトリガーなのだろう。
つまり、状態異常を複数人から盗んで一気に治すのは、既に流行り病に罹った人にはあと1回しかできないわけだ。
これは使いどころを考えないとな……モンスター相手になら何回でも使えるのに。
「そういえばゴウさん、この前の差し入れありがとうございました。集落の皆さん喜んでましたよ」
「ああ、お口に合ったのならよかった。気に入ったなら時々持ってくるよ」
この前の流行り病の騒動でエルフの人たちにはお世話になったからね。
貯金も充分過ぎるほど貯まったし、また持ってきて配ろう。
「さて、ゴウよ。そろそろ次のレアドロップが欲しくなってくるころではないか?」
「それはクズハさんもでしょう?」
そう、この周辺のモンスターから手に入るレアドロップは把握できたし、そろそろ遠出もしてみたい。
まだカンストしていないステータスもあるから丸薬も欲しいし、まだ見ないレアアイテムもあるだろうし。
レベルもステータスも充分過ぎるほど上がったし、そろそろ冒険の拠点を変えてもいいかもしれない。
「もし拠点を変えるのであれば、この森の街道を抜けた先にある村が良いと思うぞ。その村の周りにはダンジョンがあり、ここらとは違うモンスターが出るからのう。……それに回復術師探しのほとぼりが冷めるのを待つのにも良い」
「なるほど……では準備ができたら拠点を移しましょうか」
「勿論、ワシもついていくぞ?」
「えっ……お店はどうするんですか?」
「しばらくは閉店じゃな。まあ、いつでも帰れる距離にあるから引き払うまではせん」
うーん、そこまでして新しいレアドロップを見たいのかクズハさん。
でも、ついて来てくれるならこれ以上ないぐらいに心強い。
「では町に戻って準備をしましょうか」
「うむ、ギルドなどへの挨拶も必要じゃろうし、出発は明後日ぐらいが良かろう」
お世話になった冒険者ギルドのシィルさんとギルドマスター、宿屋の人たち、顔馴染みになった屋台の人たちには挨拶をしておきたいな。
あと、召喚の後に追い出されはしたものの、装備や三十万ガルドをもらったので、これも返しておきたい……謁見できるかは分からないけど。
「宿は帰ってきた時のために借りたままにしておくのもよいぞ、余裕はあるんじゃろう?」
確かに。
帰って来られる距離なら町の味が恋しくなることもあるだろうし、それもいいかもしれない。
稼ごうと思えばレアドロップでいくらでも稼げるんだし。
「そうですね……お世話になったのもありますし、そうしましょうか」
俺たちは町に戻り、新天地への出発の準備を始めるのだった。