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18.ドワーフとの邂逅

 今日も鳥のさえずりで目が覚める。

 そして、昨日少し残しておいた果物を手に取り、齧りつく。


 美味しい。

 一日経ってもみずみずしさはそのままで、とても甘い。

 元居た世界でもこのレベルの品質の物はなかなかないだろう。

 冷蔵庫がない世界なので、早く食べないと腐ってしまうのが問題ではあるが、腐る前に全て食べきってしまうほどの美味しさだ。

 

 残しておいた果物を食べきると、クズハさんのお店に向かうことにした。




**********




「おお、ゴウか。くふふふふふ……」


 入るなり凄い笑いだ。尻尾も昨日の比ではないほどぶんぶんと振っている。


「もしかして本当にレアな実が……」

「そうじゃ、これを見るがいい」


 クズハさんが懐から取り出したのは虹色の実。

 ……色だけ見るとヤバいやつなんだけど、効能が凄いんだろうか。


「これは『神秘の実』と言ってな。全てのステータスが二倍になる能力上昇(バフ)アイテムなのじゃが、今までは秘境で微量しか採れないとされてきた代物じゃ」

「一個で全てが二倍に……!?」


 壊れアイテムじゃん。こんなものが普通に手に入っていいのか……!?

 まあレアドロップの不思議な枝から成長するレアな植物だから、普通じゃまず手に入らないのだが。

 改めてレアドロップが盗めるこの『盗む』がチートだと感じる。


「ただ、これ一つしか生ってなくてのう……他の実は数個から十個程度、普通の果物は鈴生りじゃから、貴重品かどうかによって収穫量も変わるかもしれん」

「毎日収穫できるだけでも凄い事なんですけどね……」

「それはそうじゃ。硬化の実が毎日は普通はあり得ん……というか、能力上昇(バフ)アイテムが普通に実る時点であり得ないのじゃが……」


 それもそうだ。レアドロップでしか見たことないし、そんなに実を付けたらレアアイテムとして高額で取引されていないだろうし。

 ……流通価格を破壊して迷惑をかけなければいいんだけど。


「さて、お主のことじゃからまた森へ行くのじゃろう?万能薬の材料がまた尽きたのでトレントだけでなく、マジックマッシュの方のドロップも頼みたいのじゃが……」

「分かりました、報酬ははずんでくださいね?」

「むぅ……言うようになったのう。まあよかろう、ギルドに依頼も出しておくから行ってくるが良い」

「分かりました……ああそうだ、森に植えたものからは技術の実が採れるそうです。ドワーフに交換条件で渡しているそうですが、必要ならもらって帰りましょうか?」

「おお、それは良いのう。できればうちにもその木が欲しかったが、何が生るかは植えるまで分からぬからのう……まあよい、仕入先が確保できただけでも良しとしよう」

「では行ってきます」


 俺はクズハさんのお店を出て、森へ向かった。




**********




「ゴウさん!今日も来てくれたんですね!」


 森へ入ると、不思議な枝から育った木の収穫をしているティアが出迎えてくれる。

 木の方を見ると果物が鈴生りで、籠もたくさん置いてある。


「これ、全部ティアが?」

「はい、これぐらいなら軽いものですし」


 そう言うとティアが果物が山盛りに入った籠を、まるで何も入っていないかのように持ち上げる。

 あの……籠が四つほどあるんですけど、それを全部一気に……?

 流石は力があるなあ……俺も力の丸薬があればああなれるんだろうか。


「では一旦集落に届けてきますので、果物を食べてお待ちください」

「ああ、ありがとう」


 ティアを見送ると、俺はリンゴの木から一つ拝借し、齧り付いた。

 うん、やっぱり甘くて美味しい。

 これはこの森の名産品にしても問題ないぐらいの美味しさだ。


 


 リンゴを食べて待っていると、森からティアが帰ってくる……が、誰かが一緒のようだ。

 ティアと同じぐらいの背丈で、長く白い髭を蓄えているのだが……もしかして。


「あっ、ゴウさん、丁度良かったです。ドワーフの族長さんがこちらに来られてまして……」

「話は聞いているぞ。技術の実が生る木は主のおかげだと」

「はい、万能薬の材料を集めている時に拾った不思議な枝ですね」

「うむ。そのおかげで我らの技術力が上がり、今まで以上の物を製造できるようになったのだ」


 ドワーフの族長が頭を下げる。

 ドワーフたちは同族で技術を競い合い、高めあっていく種族だ。だからその技術を一歩先に進めることのできる技術の実がありがたかったのだろう。

 ただ、実は一時的に技が上がるだけで、永続はしないから数が必要なのだが……。


「でも、実は一時的なものであって、技を高めるなら丸薬の方を求めそうなものなのですが」

「いや、そうでもないのだ。実で一時的に上がった技で物を作れば、その感覚を手に覚えることができる。そうやって徐々に技術を養っていけるのだ」


 うーん職人気質。

 実はそういう使い方もできるんだな。


「ところでゴウ殿、相談なのだが……。我らドワーフが物を作る際に必要なステータスは力と技だ。更に装備に属性を乗せるなら、そこに魔力が必要になってくる。……力と技は充分にあるのだが、どうしても魔力だけは低い者が多いのだ。そこで、ゴウ殿にその魔力の補助ができるアイテムをお願いしたいのだ」


 なるほど、魔力さえあれば属性装備が作れるのか……つまり魔力の丸薬さえあれば……。


「分かりました、あてはあります。その代わりなのですが、俺のダガーの作成をお願いできないでしょうか?」

「用意さえしてもらえれば、この儂が本気を出して打とう」

「ゴウさん、ドワーフの族長さんは今でもAランクの武具の作製が可能なんです。なので、もし用意できればSランクも夢じゃありませんよ」


 それは俺にとってもありがたい。

 唯一ステータスが三桁に届かない力を補える武器は不可欠だ。


「分かりました、全面的に協力することを誓います。一週間ほど時間を頂ければある程度の数は集まると思います」

「おお、やってくれるか!これは儂も気合を入れねばな!」


 俺はドワーフの族長とがっしり握手を交わした。

 ……よし!まずは魔力の丸薬を集めよう!




**********




「ゴウさん、結構集まりましたね」

「そうだな、ティアのおかげだよ」


 エルフであるティアの導きでドリアードを迅速に発見でき、既に二十個の魔力の丸薬を確保できた。

 そのままトレント狩りも行い、不思議な枝と万能薬の材料を確保。マジックマッシュもついでに狩ってこちらからも万能薬の材料を手に入れる。


「俺の用事に付き合わせちゃって悪いね……」

「いえっ、私もゴウさんに助けてもらった恩が返せていませんし、お付き合いさせて頂きます!」


 うーん、良い子だ。流石は長の娘。


「それじゃあこの一週間、手伝ってくれるかな?」

「もちろんです、ゴウさんのおかげで森も元に戻りつつありますし……なんだか恩を返すどころか、まだもらってる感じです」

「まあ困ってる時は助け合うのが普通だし、俺にできることならしてあげたいと思うよ」

「ふふ、やっぱりゴウさんはお優しいですね」


 そこまで素直に言われるとちょっと照れる。

 この『盗む』だからこそできることではあるけど、俺にできることでなら助けてあげたいと思っている。

 ……最初はひっそりと目立たず暮らせればいいかなと思っていたけど、こうやって人助けするのもいいなとは思い始めている。

 幸い、面倒なことに巻き込まれても、スキルとステータスでなんとかなりそうではあるし。


「さて、それじゃ今日は枝を植えて終わりにしようか」

「はい、もうそろそろ充分な数になりそうですね」


 マジックゴーレムが破壊した森も、成長の早い不思議な枝のおかげで元に戻りつつある。

 そういえば、以前俺がドリアードに撃った魔法で破壊した所もあったな……あれもこっそり直しておきたい……。




**********


 一週間後。

 クズハさんの植えた枝から収穫したり、盗むでモンスターから盗ったりで集まったアイテムは……。

 魔力の丸薬(ステータスアップ)×90。

 強撃の実(力二倍)×30。

 技術の実(技二倍)×50。

 精神の実(魔力二倍)×60。


 これならドワーフの族長も喜んでくれるだろう。


「おお、ゴウ殿。その大きな袋が例のアイテムか?」

「はい、それでは順にお出しますのでお待ちください」


「これが技術の実」

「おお」


「これが強撃の実」

「おお……」


「これが精神の実」

「おおおおおお……!?」


「これが魔力の丸薬」

「な、なっ……!?」


 バターンと大きな音を立ててドワーフの族長が地面に倒れる。


「だ、大丈夫ですかっ!?」


 慌ててティアが駆け寄るが、族長は起き上がらない。


「信じられん……精神の実だけでも魔力を補うのに充分な物なのだが、更に魔力の丸薬まで……」


 遠く、空を見上げながら族長が呟く。


「ゴウ殿……いえ、ゴウ様。儂はこれらを使い、貴方様の武器のために全ての力を使う事を約束しましょう」


 ええ。

 ちょっと待って、族長に様付けされるのとかちょっと待って!?


「い、いえ。そんなに畏まらなくても」

「いえ、このような最高のアイテムを用意して頂いたのです。こちらもそれに応えねば……」


 なんだか大変なことになってきたぞ……。


「と、とりあえず鑑定の鏡を持ってきましたので、これを使いながら魔力を上げていきましょう」




 結果。

 ドワーフの族長の魔力は255…つまりカンストになり、力と技を上回ることになった。

 元々レベルも魔力も高かったので、余った丸薬はティアにあげることにしよう。


「魔力が満ちています……これなら生涯で最高の武器を作れます」

「え、ええ……がんばってください……」


 族長のあまりの変わりように少し引きながらも、どんな武器が作られるのか楽しみでもある。


「それでは一週間後に儂の魂を込めた武器をお持ちします。それまでお待ちください」

「あっはい。無理だけはしないでくださいね」

「心遣い感謝いたします。それではこれから集落に戻り、作業に取り掛かることにします」


 ドワーフの族長は深くお辞儀をすると、森の中へと去って行った。


 ……なんか、相当ヤバい武器ができる予感がする……。

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