17.実が生りました
「うん、今日は寝覚めスッキリだな……」
昨日は謝礼金で好きなだけ飲み食いをして、早めにお風呂に入り就寝した。
そして今日は日が昇るころに、鳥のさえずりで目を覚ます。
理想のゆったりとした生活だなあ。
「さて、今日は何をしようか……」
依頼をたくさんこなして、しばらく何もしなくても大丈夫なぐらいに貯金はある。
たまには何もしない日があってもいいとは思うが、身体を動かさないと鈍るしなあ。
「とりあえず、昨日植えた不思議な枝を見に行こうかな」
一日で実が生るまでに成長する不思議な枝。
何の果実が収穫できるかは育ってからのお楽しみだから、ワクワクする。
クズハさんも十本ほど植えてたから、冒険者ギルドの後にクズハさんのお店かな。
もし良い物が実っていたらトレントを狩って集めるのもいいかもしれない。
ティアの森の復興も手伝えるし……よし、そうするか。
俺は支度をすると、冒険者ギルドへと向かった。
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「あっ、ゴウさん!大変!大変なんです!」
ギルドに入ると突然、シィルさんに呼ばれる。
大変なことってなんだろうか……?
「落ち着いて。いったい何が?」
「こ、こちらに来てください!」
案内されて向かった先は、冒険者ギルドの庭。
もしかして、大変なことって……。
「お、おお。来てくれたのかゴウ殿。大変なことになった……」
ギルドマスターまで慌てている。
一体何が……と、昨日不思議な枝を植えた方を見てみる。
「うわ……もうあんなに大きく」
既に背丈は三メートルを超え、果実を十ほど実らせている。
あれ?でもあの実、どこかで見たことがあるような……?
「ゴウ殿、これを見て欲しいのだが……」
ギルドマスターが収穫した実を見せてくれる。あれ、これって……。
「硬化の実じゃ。食べると守備力が一時的に二倍になる実でな……」
あっはい、知ってます。バトルビートルから盗んでるので。
えっでもそれって木に生るものなの?しかも割と大量に?
「以前は五万だったのじゃが需要が高まっており、一個六万ガルドを超えることも出てきておってな……」
「六万……」
一個六万の実が……十個以上生ってる……。
あれ?これってやばいぐらいの不労所得じゃ……。
「これはゴウ殿の物ではあるが……こんなものを所有していると分かると命を狙われる恐れがある」
でしょうね。まさに金の生る木だし。
「そのため冒険者ギルドで管理し、売却して得られた利益はゴウ殿に振り込む形ではいかがじゃろうか。もちろん、自身で使いたい場合はいつでも渡せるようにしておく」
「そうですね、流石に自分の命が危険に晒されるのは避けたいので……お願いします」
ということで、この木の管理は冒険者ギルドに任せることにした。
しかし……とんでもない不労所得もあったもんだ。
ちなみに枝が木に一夜にして成長する仕組みは解明できなかったらしい。
魔術師ギルドの人たちもがっかりしてたと同時に、「また手に入ったら是非見せてください!」と言っていたそうだ。
……やろうと思えば何個でも手に入るけど、連続だと怪しいし月一ぐらいにしよう。
さて、ちょっと手間取ったけどクズハさんのお店に行ってみようか。
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「おお、来たかゴウよ」
店に入るとクズハさんが笑みを浮かべてこちらを見る。
尻尾も揺れているので、上機嫌な証だ。
つまり……。
「良い物が実りましたか?」
「そうじゃそうじゃ。ついてくるが良い」
案内されたのはお店の裏にある庭。
クズハさんが手入れを行っている庭で、様々な木が立ち並ぶ。
基本的に錬金術で使う素材のために植えているようだ。
……錬金術師って儲かるんだなあ。
「ほれ、これを見てみい」
クズハさんが指し示すのは籠に入った果実。
どれもこれも見たことがある果実ばかりなのだが……。
「筋力の実、強撃の実、硬化の実……じゃな。あとは普通の果物がたくさん生っておる」
「こっちでも硬化の実が生ったんですね」
「ふむ、ではお主の所もか」
「レアな果実って、強化の実だったんですね」
ティアのところはまだ分からないけど、十一植えてその内四つで強化の実が手に入った。
レアといえばレアなのかな。
「いや、もっとレアな果実が生ることもあるらしいが……噂にしか過ぎん。なにせ手に入る量が少なすぎたからのう」
もっとレアな果実が生ることもあるのか。どんどん植えて確かめてみたいが……。
「ワシはこれから万能薬の調合に入るが……もしティアの所に行くなら、お土産を期待しておるぞ」
「は、はあ……」
お土産。それは間違いなく不思議な枝だろう。
森の復興のために集めようと思ってはいたし、ちょっとぐらい持って帰ろうかな。
「では行ってきます」
「うむ、ティアによろしく言っておいてくれ」
こうして、今日は早めにエルフの集落に向かうことにした。
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「ゴウさん!もう来てくれたんですね」
「ちょっと身体を動かしたいのもあってね。また奥地までの案内をお願いできるかな?」
「はい、大丈夫です……それと、昨日植えた枝はすぐに木になってくれました。本当に凄いですね」
「俺も一日で成長したのを見てびっくりしたよ。ところで、どんな果実が生ったか分かる?」
「ええと……リンゴや桃など、この森で採れるものがほとんどでした。ただ、一つだけ技術の実が生る木がありまして……ドワーフの人たちに譲って欲しいと頼まれました」
技術の実……たぶん、その名の通り技が上がる実かな。
ドワーフという事はおそらく鍛冶技術を高めるために欲しがっているのだろう。
「譲ってあげたの?」
「はい、代わりに私たちの使う武具を作ってもらえることになりました。楽しみです」
なるほど実の代わりに技術を提供してもらうのか。
……俺もドワーフ特製のダガーとか欲しいな。
「それでは案内しますね。できるだけトレントのいそうな所を回りましょう」
「それじゃよろしくお願いするよ」
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三時間後。
「ふぅ。こんなものかな」
「そうですね、もう気配がしなくなりました」
トレントから奪った不思議な枝の数は五十を超える。
クズハさんへのお土産は五個でいいかな。あとはティアにあげよう。
「じゃあこれ。森が早く復活するといいね」
「はい……!やっぱりゴウさんはお優しいですね……それと、これは結構な値が付くと聞いたので……あの、やっぱり身体でお支払いした方が……」
「はいストップ。あのクズハさんのいう事は話半分で聞いておいた方がいいから。変なことしか言わないから」
長の娘に変なこと吹き込んでどう責任取るつもりですかクズハさん。
まあ怒られるのはクズハさんだし、スルーしとこう。
「でも、やっぱりタダで頂くわけには……」
「そうだ、それじゃドワーフに俺のダガーを作ってもらう事はできるかな?」
「はい、それでしたら可能です。今使っているダガーを見せてもらえますか?」
俺は腰に差しているダガーをティアに手渡す。
大きさや持ち手の部分をじっくりと観察し、記憶しているようだ。
「分かりました、ドワーフの技術力ならおそらく一週間もあれば作れると思いますので、またいらしてください」
「分かった、ありがとうティア」
俺はティアの頭を撫でる。
ちょっとだけ顔を赤らめながら、嬉しそうにしているティアはかわいらしかった。
「それじゃ、ちょっと枝を受けるのを手伝ってから帰るよ」
「はい、私もご一緒しますね」
俺たちは四十五の枝を植え、夕方前に町へと戻った。
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「ほう、更に五本か……くふふ、明日が楽しみじゃのう」
不思議な枝をクズハさんに手渡すと、嬉しそうにほほ笑む。
まあちょっと怪しい笑いも含まれているが……レアな果実が生るといいんだけど。
ついでに万能薬の素材も渡しておく。多いに越したことはないだろう。
「ありがたいのう、今日作った分も全て売れてしもうたし……まだまだ盗ってきてもらっても構わんぞ」
「そんなに早く……いったいいつまで続くんでしょうね」
「さあのう……隣国での石化を解除した後も国内分は不足するじゃろうし、しばらく需要はなくならんと思って良いぞ」
それならまた明日も狩りに行こうかな。万能薬がなくて困っている人の助けにもなるし。
「それでは植えて来るかのう……おっと、普通の果物も実も適当に持って帰るといいぞ。特に果物は甘くて美味じゃった」
それを聞いてゴクリと唾をのみ込む。
リンゴや桃、元の世界でも好きだったんだよな。
「では自分用に三個ずつ頂きますね」
「うむ、多いから籠も使うといい。また明日も来るじゃろう?」
「はい、その枝の結果も知りたいですしね」
俺は籠を借りて果物を詰め込むと、宿屋へと帰った。
お世話になっている宿屋の主人に差し入れしたが、今まで食べたことがない美味しさと言われた。
実際に俺も部屋で食べると、元の世界と遜色がないぐらいの甘さだった。
こっちの世界だと品種改良が進んでいないからか、甘さ控えめだったんだよね。
もしかして、普通の果物も最高級品質のものが採れたりするんだろうか。
……トレントをもっと狩って検証しようと思った瞬間だった。