16.素材を求めて
「おめでとうございますゴウさん、これでランクEの依頼も受けられるようになりますよ」
今日は朝一で冒険者ギルドに来て、ランクの昇格を受けた。
Fランクだとどうしても依頼の数が少なく、依頼ついでに相手ができるモンスターも限られてしまう。
Eランクになれば依頼の幅が広がり、より多くのモンスターから盗めるようになる。
……と言っても、今日はクズハさんの依頼を受けるんだけどね。
「それで、今日はクズハさんの依頼を受けようと思うんだけど」
「はい、確かにご指名で依頼が来ていますね。『万能薬の素材集め』です。現在、万能薬が不足しておりまして……できるだけ素材が集まると皆様の助けとなります」
「そうだな、まさか隣国で大変なことが起きてるとは知らず……人助けできるように頑張るよ」
「はい、行ってらっしゃいませ。お気をつけて」
依頼を受注すると冒険者ギルドを出て、準備のために一旦宿屋へと戻る。
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……そういえば今のレベル、確かめてなかったな。
薬指に付けた隠蔽魔法が籠められている指輪を外し、鑑定の鏡でステータスを鑑定する。
レベル:60
体 力:182
力 :77
技 :155
素早さ:212
守備力:255
魔 力:255
運 :178
……???
レベル……60……?
ダンジョンで相手をしたのはオーク、コボルド、オーガ、ミノタウロス、マジックゴーレム、そしてあの悪魔だ。
オーク、コボルド、オーガは格下だったからほぼ経験値になっていないと思う。
となるとミノタウロス、マジックゴーレム、悪魔の三体で30も上がったってことだよな……。
悪魔がだいぶ格上だったからそれで一気に入ったんだろうか。
……そういえばあの悪魔、四天王とは言ってたけど名乗ってなかったよなあ。
名前も出さずに倒される四天王にちょっとだけ同情する。名乗らないのが悪いんだけど。
それはさておき。
相変わらず力が飛び抜けて低い。一つだけ二桁とか、僧侶か魔法使いかとかいうレベルじゃないだろうか。
鬼神の実などで能力上昇するにしても、基礎能力が高ければそれだけ効果も高くなるわけで……力の丸薬、欲しいなあ。
それにしても、始まりの町でレベル60って……普通レベル5ぐらいで旅立つだろ。スキルレベルも6になってるし……誰かにステータスを見られたらお前こんなとこで何やってるんだと思われそうだ。
おっと、そんなこと考えていないでそろそろクズハさんのところに行かないと。
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「おお、来たな」
「はい。ちょっとステータスを鑑定していたら遅くなりました」
「ほう……ちなみに今レベルはいくつじゃ?」
「60でした」
「60か……普通はおらぬぞ、適正レベルが5前後のこの辺でそこまで上げる者は」
予想通りツッコまれる。
まあ実際もっと別の場所に行くのが普通ですよね。
「まあよい、隠蔽はしておるので他人には気づかれんじゃろう」
「そうですね、クズハさんに感謝しないとです」
「崇め奉るが良い。……さておき、万能薬の素材の調達なのじゃが……」
「なるほど、エルフの集落よりも更に奥にいるモンスターが……」
今回の狩場はエルフの集落よりも更に奥地。
キノコのモンスターや木のモンスターなどから素材が手に入るようだ。なんだか漢方みたいだな……。
「エルフの集落といえば、ティアさんたちは元気にしていますかね」
「うむ、実はそれなんじゃがな……今回は奥地に行くという事で、案内を頼んでおる」
思いがけない再会。ティアも他のエルフと仲良くなれてるといいんだけど。
あれ、でもティアって長の娘なんだけど……そんな雑用頼んでいいんだろうか。
「相談をしたところ、実はティアが率先して役目を買って出てくれてのう。『以前は自分が助けられたので、少しでも恩返しをしたい』とな」
「良い子ですね……」
「そうじゃな。……そしてティアなんじゃが、魔法剣だけではなく、魔法を身に纏うなど補助的な魔法も身につけておるらしい。魔力はなかったが、才能はあったようじゃな」
魔力の実でステータスを上げるまで、魔力が1だったティア。
そんなティアが魔法で活躍できるようになったのは、実を提供した一人として素直に嬉しい。
実を使えば、同じようにステータスで苦しんでいる人を救えそうだなと思った。
「……さて、そろそろ出ぬと帰るころには日が暮れるのう」
「そうですね、それではそろそろ出発しましょう」
店の看板を準備中にかけ替え、俺たちは森へと向かった。
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「ゴウさん、クズハさん、お久しぶりです!」
森に入ろうとすると声をかけられる。
背中に身長には不釣り合いな大剣を背負っている、メカクレのエルフ……ティアだ。
「お二人のおかげで私、自分に自信が持てるようになりました……ありがとうございます」
マジックゴーレムを倒せたという事実が、ティアの中で自信に変わったらしい。
喋り方も前とは違いはきはきとしていて、おそらくこちらが本来の彼女なんだろうと思わせられる。
「うむ、良い事じゃ。さて、今日は案内を頼むぞ」
「はい、奥地に入ることになりますので、この辺よりも強いモンスターが出てきます。気を付けてくださいね」
「大丈夫じゃ。強いと言ってもせいぜいレベル20程度じゃしのう。問題は見つかるかどうか……じゃな」
見つかるかどうか?レアなモンスターなんだろうか。
「最近万能薬が手に入りづらくなったじゃろう?だからモンスターが大量に狩られて、数が少なくなっておらぬかと思うてな」
「そうですね……最近、奥地でも冒険者をよく見かけるようになりましたし。でも、奥地でモンスターを見つけようとすると、私たちエルフか索敵魔法がないとなかなか見つからないんです」
「それならそんなに狩られていない可能性はあるのう……それと、もしモンスターを見つけてもこやつの盗むが終わるまで待ってから狩って欲しいのじゃ。……ゴウよ、ティアには説明しておいても良いな?」
説明する、というのは俺の盗むについてだ。
二回盗めるのでノーマルドロップとレアドロップを盗み、その後にモンスターを倒すという段取り。
これを共有しておかないと、一回目の後にすぐに倒してしまうのが普通だろうし。
ティアは純真な子みたいだし他の人に情報を漏らすことはないだろうし、俺は了承するとクズハさんに返す。
「――ということじゃ」
「ゴウさんってすごいんですね……あれ?じゃあもしかしてあの魔力の丸薬って……」
「そうじゃな、実際はゴウが用意したものじゃ。……他言無用で頼むぞ?」
クズハさんがティアに何かしらを耳打ちする。
おそらく、注意点について教えてあげてるんだろうなと思ったら――。
「あっ……あのっ。わ、私を魔力の丸薬で助けてくれてありがとうございます……!だ、だからその……お礼は身体で払いますっ……!」
……なに吹き込んでやがりますかこの女狐ー!?
「そうじゃ、もっとじゃ、もっと押せ。ゴウは押しに弱いぞ……」
クズハさん、傾国か何かやっておられます?
その後もクズハさんに乗せられたティアの猛攻を振り払いつつ、結局は自分が危なくなった時に助けてくれればいいという結論にした。
「なんじゃ、面白くないのう」
「クズハさん、俺があなたより強かったらお仕置きしてますよ?」
「おお、怖い怖い。手籠めにされてしまう」
「……手籠めって何ですか?」
「はいはいそこまで。早く素材を集めましょうね」
どんどん話が逸れて行きそうなので、無理矢理打ち切って本来の目的を成し遂げるように気持ちを切り替えることにした。
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「ふむ、なかなか集まったのう」
「本当に凄いですね、ゴウさんの盗む……」
奥地でモンスターを狩る事、二時間程度。
キノコのモンスター、マジックマッシュはノーマルドロップが魔法の粉、レアドロップが精神の実。
木のモンスター、トレントはノーマルドロップが赤い樹液、レアドロップが不思議な枝。
魔法の粉と赤い樹液は万能薬の基になるアイテムで、精神の実は魔力が二倍になる、実シリーズの一つ。
不思議な枝は、これを地面に植えると一日後には木になるという本当に不思議なアイテム。
どんな木になるのかはランダムらしく、レアな果実を実らせる木になることもあるらしい。
合計で五十体ほど狩り、大量のアイテムが手に入った。
その一部をティアに依頼補助の報酬として渡し、残った分を町に持ち帰ることにした。
「この枝を使えば、マジックゴーレムに破壊された森も少しだけ再生できます。ありがとうございます、ゴウさん」
……なるほど、確かにマジックゴーレムが破壊した範囲は広く、元に戻るには時間がかかり過ぎるな。
「じゃあさ、今度暇があったらトレントを一緒に狩って森を元に戻すのを手伝うよ」
「本当ですか!?ありがとうございますっ……」
ティアが喜びのあまり抱き着いてくる。
「ほーう、昼間っからお盛んじゃのう」などとのたまうクズハさんの戯言を聞き流しつつ、ティアの頭を撫でて落ち着かせ、離れてもらう。
……守備力255でよかった。200近い力でハグなんて下手すると骨が折れるし。
「それではお待ちしてますね、ゴウさん」
「ああ、近いうちに森にお邪魔するよ」
そう言って俺たちは森を後にする。
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町に帰ると冒険者ギルドに寄り、依頼の達成を報告する。
「森の奥地まで行くようになるなんて、ゴウさんもかなりレベルが上がったのではないですか?」
受付嬢のシィルさんが言う。
かなりというレベルじゃないぐらいに上がってるけど、それは伏せておこう。
「確かにクズハさんの手伝いでかなりレベルが上がったね。最初は盗賊なんて役に立たないだろうと思ってたけど、割と仕事があって安心したよ」
「モンスターからの報酬が倍になりますからね、それを狙う人にはとても助かるスキルなんですよ。……ところで、その袋からはみ出ている枝は何ですか?」
「ああ、これはトレントがドロップしたもので依頼のおまけにもらったんだ」
……ということにしておく。
枝はこれ一本を除き、クズハさんが庭で育てることにしたらしい。
で、俺にも一本くれたんだけど、宿屋だから育てられないんだよな。
「これは……ちょっとギルドマスターを呼んできます!」
……あれ?俺もしかして余計なこと言っちゃった?
「ふーむ、これは不思議な枝じゃな。トレントがドロップしたと聞いたが……」
「ええ、万能薬の素材を集めて狩っていた時に」
「なるほど……ゴウ殿はこれを育てるのか?」
「育てたいのもやまやまですが、宿屋暮らしをしてるので庭がないんですよね」
「ふむ、それならこのギルドの庭に植えてみるかね?もちろん、生った果実は全てゴウ殿のものじゃ」
それはありがたいんだけど、ギルド側に利益がないような……ということを伝える。
「我々としてはこれがどのようにして一日で成長するのか、というのを研究したいのじゃよ。それをどうにかして再現できれば利益にもつながるじゃろう?」
なるほど、確かに成長の現象を解明できれば応用で色々できるようになりそうだ。
俺は不思議な枝を冒険者ギルドの庭の一角に植えさせてもらい、ギルドを後にした。
ギルドマスターは魔術師ギルドにも連絡して、魔力関係の方面からも調査をするとか言っていたが、まあ俺には関係ないことだろう……。
そして調査の協力の謝礼として五千ガルドをもらってしまった。
クズハさんからもらった依頼金もあるので、これはパーッと使ってしまおう。
そう俺は思いながら、人で賑わう屋台へと足を運んだ。




