13.ダンジョンで荒稼ぎ
ダンジョンの第一階層。
石でできた部屋が続く、一本道のダンジョンだった。
敵にはオーク、コボルドのレベル5~10程度の低級なモンスターが多く存在する。
オークのノーマルドロップはポーション、レアドロップは強撃の実。
コボルドのノーマルドロップは毒消し草、レアドロップは疾風の実。
強撃の実は力を、疾風の実は素早さを倍に上げる能力上昇アイテムで、クズハさんに盗れるだけ盗れと言われてかき集めた。
どちらのモンスターもレベル30になった今なら手玉に取れる。
俺が足で相手をかき回しながら盗み、終わったところでクズハさんの魔法で殲滅する。
これを繰り返し、第一階層が終わるころにはどちらの実も二百を超える収穫があり、「これだけでもう依頼金を上回ってしまったのう……」とクズハさんが呟く。
そういえば十万でしたね依頼金。高くし過ぎると冒険者ギルドから怪しまれるから、身体で払おうとしたのはそれを踏まえた上での発言だったようだ。
代わりに俺も経験値が稼げるので十万以上の収入はあるからいいんだけど。
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続いて第二階層。
レベル20程度のオーガが徘徊しているフロアだ。
ノーマルドロップはハイポーション、レアドロップは鬼神の実。
これは強撃の実よりも効果が高く、力が2.5倍に跳ね上がる実だ。
もちろんこれも盗れるだけ盗って、終わるころには八十ちょっとの実が集まる。
「まさかこんなところで実が大量に手に入るとは……ちょっとダンジョンを消滅させるのがもったいないのう」とはクズハさんの談。
いや、町の脅威になるんでそこは消滅させましょうよ。
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そして第三階層。
ここは闘技場のようなフロアで、モンスターは一匹だけ。
そう、あのミノタウロスだ。
「なるほど、あやつはここから這い出てきたのか……」
「第三階層でレベル50の敵が出てくるということは、ここから先はもっと高レベルの敵が……」
「そうじゃな。恐らく次はマジックゴーレムじゃろう。あやつはレベル60じゃ」
そんなレベルだったのかマジックゴーレム……それを一刀両断したティアの凄さを今更ながら実感する。
「む、来るようじゃぞ。前衛は任せた」
「はい、あの時より成長していますし、今回はヘマはしませんよ」
俺はミノタウロスの正面に陣取り、わざと斧の射程に入る。
そして振り被ると同時に一気に間合いを詰め、足の裏側に回り、腱を切る。
ここならダガーでも充分なダメージになるだろう。
「ふむ、確かに成長しておるのう……くふふ、今後が楽しみじゃ」
ミノタウロスが膝をつくのを見て俺はレアドロップを盗み出し、離脱する。
そこにクズハさんの炎魔法が飛んできて、ミノタウロスを丸焼きにする。
「一回戦ったのもあって、以前のような怖さは感じませんでしたね」
「なかなか肝が据わっておるのう……あやつの攻撃力を見たことがある者は逃げ腰になることも多いのじゃが」
そうだったのか……どんなに力が強くても当たらなければいいと思って距離を詰めたんだけど。
「しかしこの階層はこやつだけか。稼げるのは序盤だけじゃったようじゃの」
「次の階層も恐らく同じ造りでしょうしね」
「うむ。……まあ、お主の経験値稼ぎにはいいじゃろう」
「でも、できることならもっと新しいレアドロップが欲しいですよね」
「分かるぞ。新しいアイテムに出会えた時の感動はいいものじゃ」
そんな雑談をしながら、俺たちは第四階層へと突入した。
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第四階層も同じく闘技場のようなフロアで、モンスターは予想通りマジックゴーレム一匹だけ。
「こやつがここを出て森を襲いに行ったのか……しかし、深層にいるはずのミノタウロスが三層に、マジックゴーレムが四層にいるのは不思議じゃのう」
「普通はどのぐらいの層にいるんですか?」
「そうじゃの……だいたい三十層から四十層じゃ。一層から二層の敵のレベルの上がり具合も普通ではないし、ここには何かがあるのかもしれぬ」
普通の十分の一の階層で同じモンスターが出てくる。
それがなぜ町のこんな近くにできたのか。
「……謎は深まるばかりですが、とにかく倒さないと町に被害が出る恐れがありますね」
「うむ。さて、マジックゴーレムじゃが……まず魔力を盗んで魔法で瀕死にする、そしてレアドロップを盗んだ後に倒すようにするぞ」
「レアドロップを盗むとなると魔力が元に戻りますが……大丈夫なんですか?」
「ちゃんと策はあるので安心せい。ワシ特製のポーションがあるでの……くふふ」
ミノタウロスの時に使った守備力四倍のようなものか……なるほど、それならいける。
「……来るぞ」
「はい……では!」
俺はマジックゴーレムに近寄って相手の攻撃を誘い、ギリギリで避けてからステータスを盗む。
マジックゴーレムの魔力障壁を無効化し離脱すると、クズハさんの魔法がゴーレムの脚部に直撃する。
足を失い動けないゴーレムから距離を取り、ステータスが元に戻るのを待つ。
そして赤く光る空間が復活するとレアドロップを盗み取る。
さて、クズハさんはどうやってマジックゴーレムの魔力障壁を突破するんだろうか。
「さあ、実践じゃな……」
クズハさんはポーションを飲み干すと、魔法の詠唱を始める。
……空気がビリビリと波打ち、いつもよりも強力な魔法が放たれるのが肌で分かる。
「――焼き尽くせ、上級炎魔法!」
これは、さっきミノタウロスを倒した……でも、威力が段違いだ!
マジックゴーレムの魔力障壁が炎で焼き切れると、ゴーレムの身体を炎が包み、溶かしていく。
「クズハさん、これは……」
「くふふ、ミノタウロスの時に手に入れた狂化薬、それを改良したものじゃ」
狂化薬。
確か正気を失う代わりに力と魔力を三倍に高める……。
「正気を保ったまま使えないかと色々と試してのう……代償に2.8倍に倍率は落ちたが、それでも充分な効果じゃの」
欠点を補う調合、か。
どれだけ苦心して創り出したんだろうか……クズハさんの探究心は留まるところを知らないな、だからこそ錬金術師になったんだろう。
「さて、マジックゴーレムのレアドロップは何じゃ?見せてみい」
「あ、そうでしたね」
マジックゴーレムのレアドロップをクズハさんに渡す。
いったいどんなレアアイテムを持っていたんだろうか。
「これは……魔力結界か……!」
魔力結界?マジックゴーレムの使っていた魔力障壁のようなものだろうか。
「これを使うと使用者の周りに魔力による結界が張られる。それは魔力が高いほど強固になり、物理攻撃、魔法攻撃どちらも防ぐという代物じゃ」
「つまり魔力255の俺やクズハさんが使えば……」
「うむ、それ以上の威力を持つ一撃か、複数回の攻撃でないと砕くことはできん。……ただし、結界を張る時に魔力を全て使ってしまうため、マジックポーションがないと使いづらいのじゃ」
ああそうか、魔法と一緒で魔力を消費するんだな……一長一短か。
「しかしこれをマジックゴーレムが持っておったとは……やはりこのダンジョンを消滅させるのは惜しいのう……」
「町が危険ですから、また別のダンジョンの深層に挑戦しましょう、ね?」
「分かっておるわ。……しかし今の言葉、覚えておくぞ?」
……あっ、これまた連れまわされるやつだ。
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「さて、残るは第五階層のみじゃが……おそらくダンジョンの主がおるじゃろう」
「今までのモンスターの傾向からすると、パワー系のボスですかね?」
オーク、コボルド、オーガ、ミノタウロス、マジックゴーレム。
ほぼ全てが魔法を使わず力で相手を制圧する、力こそ正義なモンスターたちだ。
これらを従えているということは、おそらくボスも……。
「うむ、そういう可能性はあるじゃろう。ただ、まったく逆の魔法系ということもある。お互いに補い合う感じじゃな」
「なるほど、今までの傾向はこれだからと決めつけた冒険者を罠にかけるような……」
「そういうことじゃ。だがステータスを盗めるなら、相手が特化したステータスであればあるほどお主の盗むは効くからのう……」
そう、相手が力特化なら力を盗めば、俺が逆に力特化になる。
魔力特化なら魔力を盗めば、俺が逆に魔力特化になる。
一番苦手なのは力も魔力もどちらも持つ相手か。どちらかを盗んでももう片方で抵抗してくるからだ。
盗めるものが一つに限られると、そういうところが弱点になる。……まあステータスを盗めちゃう時点でチートにも程があるんだけど……。
「さて、ワシも魔力を回復したし、行くとするかのう」
「はい、町の脅威を取り除くために……」
第五階層の扉を開ける。
すると、そこには大剣を持った、悪魔のような姿のモンスターがいた。
全身は四メートルを超え、角と翼、尻尾を持ち、全身は青黒く、目は血で染まったかのように紅い。
「ほう、まさか勇者以外にここまで来られる人間がいるとはな……」
悪魔が口を開く。どうやら意思疎通が可能なようだ。
「これ以上勇者を呼びだされても敵わんからな……密かにダンジョンを造り、城を落とすために奴らを育ててきたが……。もしや、ミノタウロスもマジックゴーレムも倒されたのは……お前たちの仕業か」
町を襲おうとしたミノタウロスも、森を破壊したマジックゴーレムも、こいつが原因だったのか。
最初は町を襲撃しようとして失敗し、まずは周りから支配を広めて行こうと森を破壊したのだろう。
そしてこの国の王が勇者を呼びだしたことを知っているということは……モンスターの中でも情報収集に長けている……それこそ上位のモンスター。
「ふん、こそこそとしおって。この臆病者が」
「口だけは達者だな。だが何とでも言うがいい、魔王様のために障害は取り除く。それが我ら四天王の役目だ」
……えっ。
俺、始まりの町のすぐそばで魔王軍の四天王とエンカウントしちゃったの!?
「……さて、ここまで来られたのなら相応の実力は持っているようだな。殺す前にお前たちのことを聞いておいてやろう」
「……クズハ。錬金術師じゃ」
「俺はゴウ、盗賊だ」
「ハハハハハハ!面白い冗談だ!最弱の職業の盗賊と、後方支援しかできぬ錬金術師が!?……まあよい。まぐれにせよここまで来られたのだ……さあ、愉しませろ!」
悪魔が大剣を構える。今までにないプレッシャーから殺意が溢れているのが分かる。
……本当に俺とクズハさんでこいつを相手にできるんだろうか。
俺は、もしもの時のために持っていた硬化の実と、このダンジョンで手に入れた疾風と鬼神の実を齧り、盾を構えた。