12.ダンジョンへのお誘い
「あっ、ゴウさん。クズハさんから依頼が来ていますよ」
久々にスライムを狩って薬草を納品した際に、シィルさんから言われる。
……なんだろう、ちょっと嫌な予感がするが……。
「成功報酬は十万ガルドです。ダンジョンへの同行依頼ですね。アイテムを盗めるスキル持ちが欲しいとのことなんですが……指名依頼とは相当クズハさんに気に入られていますね」
「は、はは……そうかな……」
『盗む』スキル持ちと表向きは言っているけど、おそらくレアドロップが欲しいんだろうな。
何か新しいモンスターでも見つかったのだろうか。
「どうされます?受ける受けないはゴウさん次第で大丈夫と言われていますが……」
「そうだな、受けようか」
「分かりました、詳細はお店でお話するとのことでしたので、時間があるときにどうぞ」
「ああ、ありがとう」
それにしてもダンジョンか……この辺にあったかな?
とりあえず話を聞くために、錬金術の館へと向かうことにした。
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「おお、来たか。……ということは依頼を受ける気になったか」
「ええ、おそらくレアドロップが欲しいということでしょうし」
「理解が早くて助かるのう。ちなみに報酬は十万ガルドじゃが……よければ身体で払ってや……」
「いえ、十万ガルドで充分です」
咄嗟にクズハさんの言葉を遮る。
……このやりとり、クズハさんのお決まりの文句か何かなんだろうか。
さておき、俺は続ける。
「それとよければなのですが、道中で手に入ったレアドロップで不要な物があったら分けて欲しいのですが」
「うむ、よかろう。ちなみにダンジョンなのじゃが……この町のすぐ近くの草原にある」
……草原?俺がスライムを狩っていた時にはそんなもの見当たらなかったけど……。
「魔法で隠蔽されておるのじゃよ。そして、ミノタウロスもマジックゴーレムも、そこから出てきたものと思われるのじゃ」
「えっ……」
あんな高レベルモンスターたちが……すぐ近くの草原で……?
そんなことを思っていると、クズハさんが続ける。
「レアドロップもじゃが、本当の目的はダンジョンを消滅させることじゃ。なに、ワシとお主なら簡単なことじゃ」
「か、簡単なことと言われましても……あのレベルのモンスターがゴロゴロいることになるんですよね?」
「ワシの魔法さえ通れば簡単じゃ。それにお主はステータス……魔力を盗めるのじゃろう?」
「なるほど、マジックゴーレムのように魔法が効かないような相手は魔力を盗めばいいんですね」
それなら確かに二人でも行けそうだ。
「それに脱出魔法もあるから、いつでも帰還はできる。攻略に足りないものがあればすぐに取りに帰れるしのう」
うーん、相変わらずチートな人だ。
こんな危険なダンジョンを放置していたら町にも危険が及ぶし、皆に知られると不安にさせてしまうだろう。
それなら早いうちに潰すのが得策か。
「分かりました、出発はいつにしましょう?」
「そうじゃな、お主さえよければすぐに行くかのう。……いつミノタウロスのような者が這い出てくるやも分からん」
「そうですね、俺は大丈夫ですので出発しましょうか」
「よし、では行くとするかの」
俺たちはハイポーションと、魔力回復のためのマジックポーションを詰め込み、草原へと赴くことにした。
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「ここじゃ」
クズハさんが窪んだ丘の、何もない空間を指さす。
「俺には何も見えませんが……」
「隠蔽魔法じゃ。ワシの索敵魔法で内部のモンスターが引っかかったのがここじゃ……ちょっと待っておれ」
クズハさんが何かを詠唱すると、俺の身体が光る。
そして視界にはダンジョンの入り口がハッキリと映った。
「隠蔽を看破する魔法をお主にかけた。これでわかるじゃろう?」
「はい……まさかこんな場所にあるなんて……」
町からおよそ5分ぐらいの場所。
そこに高レベルモンスターがいるダンジョンがあるなんて、町の人たちがいつ危険に晒されるか……。
「よし、それでは入るぞ」
「明かりはいいんですか?」
ダンジョンともなれば中は暗いはずだが……。
「うむ、こういったダンジョンのほとんどは内部も明るくなっておる。光る苔が生えていたり、魔法で内部が照らされていたりするのじゃ。理由は不明じゃがの」
そういえばゲームのダンジョンも何故か内部が明るいことがあるが、そういう理屈だったのか。
もちろん、内部も暗くて松明や魔法で照らさなければならないダンジョンもあるが。
「もし内部が暗くても照明魔法を使えば明るくなる。心配は要らぬぞ」
「分かりました。それでは行きましょうか」
「うむ。高レベルモンスターのレアドロップざっくざくじゃのう……くふふふふふ……」
……やっぱりレアアイテムが絡むとちょっと変わるなあクズハさん。
まあ、俺も盗賊だし、運が良ければ他の丸薬が手に入るかもしれないしで、気持ちは分かるけど。
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「ふーむ、このダンジョンは五階層程度になっておるようじゃな」
「そんなことまで分かるんですか?」
「うむ、索敵魔法の範囲を最大限まで広げるのじゃ。それで一番遠いモンスターはどれか分かればだいたいの階層が分かる」
索敵魔法は便利だなあ……。位置を把握できれば先制攻撃だって可能だし、奇襲を受ける可能性も減らせる。
情報は武器だというが、正にその通りだ。
「さてさて、どんなモンスターが出てくるか楽しみじゃのう」
「俺が相手できるようなモンスターもいれば経験値稼ぎにもなりそうですね」
「そうじゃな……そういえば今のお主のレベルはどんなものか、一応見ておくか?」
「そういえば最近鑑定してませんでしたね。お願いします」
「うむ、任せるが良い」
俺は隠蔽魔法のかかった指輪を外すと、クズハさんの鑑定魔法でステータスを鑑定してもらう。
確か前回はレベル25だったかな。
「ふむ、こんな感じじゃな」
レベル:30
体 力:140
力 :42
技 :98
素早さ:132
守備力:255
魔 力:255
運 :108
「相変わらず力が低いですね……」
「体力もじゃな。前衛職であればこのレベルなら200は超えておる。ちなみに体力だけは510まで上がるぞ」
あ、体力は255が上限じゃないのか。まあHPとMPだけは高めなゲームも多いしそんなものか。
となると俺の体力は相当低いような……盗賊が前衛かと言われるとうーん、って感じだけども。
「体力の丸薬や力の丸薬を持つモンスターがいれば良いのじゃがのう」
「もしそういうモンスターがいたらクズハさんも強化できますしね」
「いや、ワシはこれ以上成長せんぞ?」
クズハさんステータスカンストしてたのか。確かに妙に強いなとは思ってたけど……。
「だから丸薬が手に入ったらお主が使うが良い。……まあ研究用に少しはもらうがの」
「それはもちろん大丈夫ですよ」
「ふふふ……大量に手に入ることを期待しておるぞ。では参るとするか」
こうして、俺は初めてのダンジョンに挑戦することになる。
……レベル30で初めて、っていうのもアレだけど。