11.魔力カンスト、レベル4盗む
マジックゴーレムとの戦いの後、冒険者ギルドに行って討伐報告をしてからクズハさんのお店に戻る。
シィルさんは「ゴウさんはミノタウロスの件もありますし、今回も補助をされていたとの事ですので、その経験と功績でEランクに昇格できますよ」と言っていた。
Eランクになると今よりもランクの高い依頼を受けられるようになるのだが……正直今の依頼でも充分食べていけるんだけどなあ。
それに難易度の高い依頼を受ければ、それだけ俺の能力が知れ渡る可能性があるわけで……。
「そういえば、よく考えたら魔力障壁さえなければクズハさんの魔法でも倒せたような……」
「なんじゃ、今頃気づいたか」
「ええ……たぶん、ティアさんの自信を付けるためにわざとクズハさんの魔法は効かない、と言ったんですよね」
「そうじゃ、それにティア自身が倒すことで他のエルフもティアのことを見直すじゃろう?」
そこまで込みでティアに倒させたんだな。これでエルフたちのティアの扱いも変わるといいんだけど……。
「さて、残った魔力の丸薬はワシらで山分けじゃぞ」
「あ、そういえばそうでしたね」
残った丸薬は百二十。とりあえず半々に分けて、俺は六十個の丸薬を使うことにした。
使う前は48だった魔力が237まで上がる。一個平均3以上上がっていることになるな……やっぱり相性がいいのだろうか。
「そこまで上がったのなら255まで上げておけ」とクズハさんに言われ、最終的に255になる。
これでステータスカンストが二つ目だ。盗賊なのに魔力と守備力がカンストしてるのもおかしい話だが。
「うむ、それだけあれば指輪の隠蔽魔法の補充も楽々じゃぞ」
「そうですね、これで平穏に過ごせそうです」
「さて、ワシはワシで残った丸薬で研究するとしよう。くふふふふふふ……」
クズハさんが怪しく笑う。研究のことになると別人のようだ。
さて、俺はどうしようかな……レベルが上がった『盗む』を試しに行くか……。
レベル1でノーマルドロップ。
レベル2でレアドロップ。
レベル3でステータス。
これ以上盗むものがあるのかと思うのだが、レベルが上がるということはあるのだろう。
ちょっと近場で試してみるか、草原へ向かおう。
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最近ドリアードばかりでスライムなんて久しぶりだ。
俺が大量に納品したこともあって薬草の需要も落ち着き、守備の丸薬も自分ではもう使わないから盗む必要もなかったもんな。
「……おっと」
草原を風が吹き抜け、草を揺らす。
心地良い風を身体に受けながら、たまにはこういったのんびりした時間もいいなと思う。
この一週間は森に籠ってドリアード狩りだったもんなあ……急ぎの依頼とはいえ大変だった。
そうだ、早めに帰って屋台の食べ歩きもいいな……お金にも余裕があるし、町の活性化にもちょっとだけ貢献できる。
よし、そう決めたなら早くスキルの検証をしないと。
「お、いたいた」
すぐにスライムが見つかる。
早速盗むを実行してウィンドウを開く。
【ノーマルドロップ/レアドロップ/ステータス/スキル・魔法】
マジか!
新しく増えた項目は『スキル・魔法』……あれ、これってカンストした魔力も意味が出てくる……?
何が盗めるのかワクワクしながら『スキル・魔法』をウィンドウから選択する。
【対象はスキル・魔法を持っていません】
ええ……。
ちょっと肩透かしだなと思いつつも、最弱のモンスターだからしょうがないか。
とりあえず守備の丸薬を盗み、倒してから町に戻ることにする。
確定でスキルや魔法を持ってそうなのは……ドリアードか、詠唱もしてたし。
スキルの実践は後日に回し、予定通り今日はもうのんびりしよう。
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「ありがとうございますゴウさん、また守備の丸薬を納品して頂けるなんて」
「運が良かっただけかな。ところで今回は全額現金で支払いはできるだろうか?」
「はい、それは大丈夫ですが……珍しいですね」
「最近は貯金もできてきたので今日はパーッと使ってしまおうかと。普段お世話になっている人たちにも還元したいので」
「分かりました、それでは用意してきますね」
数分後、二十万ガルドが入った袋を渡され、それを持って屋台へと向かう。
「んー、美味しいなあ……」
屋台の名物である肉の串焼きを頬張りながら、のんびりと商店街を見て回る。
商店街では新しい服を買い、在庫が少なくなってきた鑑定の鏡も補充する。
荷物が多くなってきたので一旦宿屋に置きに戻り、散策を再開し……そうえいば広いからまだ行ったことのない区画も存在するんだよな、せっかくだから行ってみようか。
……ん?人だかりができてるようだけど……。
どうやら町の掲示板のようだった。
皆が食い入るように見ているのは……。
「勇者様、どうやら四天王の一人を倒したようだ」
「本当か!?なら平和に一歩近づいたな」
「一体どんな方なのかしら……一目お会いしたいわ」
どうやら勇斗たちが四天王のうちの一人を倒したという号外のようだ。
四天王ともなればその辺のモンスターとは一線を画した強さなんだろう。
それを倒したとなれば、魔王に大きな損失が出たと考えられる。
(勇斗たちもがんばってるんだな……また一緒に遊べる日が来ればいいんだけど)
幼馴染たちの活躍を誇らしく思いながらも、同時に雲の上の存在になってるな……と思いながら、今日は宿屋へ帰ることにした。
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「さて、今日こそ盗むの新しい効果を試そう」
次の日、森にやってきた俺はドリアードを探していた。
ドリアードが詠唱して魔法を使っていたので、それを盗めないか試しにきたのだ。
「よし、いるな……」
木の傍にある赤く光る空間、それは盗むの当たり判定。つまりドリアードが擬態しているとすぐに分かる。
早速盗むを発動し、選択肢から『スキル・魔法』を選ぶ。
するとウィンドウが更に開き、選択肢に『岩石』と表示された。割とまんまだ。
しかし、すぐに盗むことはせず、ドリアードの詠唱が始まるのを待つ。
そして、始まったと同時に魔法を盗んだ。
するとどうだろう、ドリアードの詠唱は途中で止まり、焦りを見せ始める。
思っていた通り、ステータスと同様、盗んだものは相手の元から消え去るようだ。
つまり、どんな強力な魔法を持っていたとしても、それを盗めば無力化できる。
ステータスと同時に盗めないとはいえ、とんだチートスキルだ。
それと、盗むと同時に頭に何かが入ってきた。これはおそらく……。
俺はドリアードの方に手を伸ばし、それを復唱する。
「土の精霊よ……我が呼びかけに応え、その力を以って仇成す者を打ち砕け!岩石!」
詠唱が終わると同時に岩石が生成され、ドリアードに向かって射出される。
……それはドリアードだけでなく、後方にあった木も巻き込んで5メートルほど飛んで行った。
ドリアードが使ってきた時よりも数段威力があるせいで自然破壊しちゃった……ごめんなさい。
そういえば魔力255あるんだった。手加減の仕方も知らないからたぶん全力で撃っちゃったんだろう。
「……できるだけ使わないようにしよう」
そう俺は心に決め、普通にドリアードやバトルビートルを狩って町に戻ることにしたのだった。
……決して、詠唱が恥ずかしいからではないからな。
ちなみに、盗んだ対象を倒すとステータス同様に元の状態……魔法を盗む前に戻るようだ。
そこだけは少し残念だった。俺も自由に魔法が使えるようになると思ったのに……。