『美』なんて全く見い出せませんからー!
「この魔力に打ち勝つ方法を我々は見た!各々分かっているな!恥を捨てて踊るのだぁぁあぁぁ―――――!!!」
「「「「「「ぅおおぉぉぉぉぉぉ―――――――っっ!!!」」」」」」
再び隊長の鼓舞に呼応して、玄関ホール中から鬨の声が上がり、玄関ホールはダンスホール……いや、バブル時代のディスコを彷彿させる状態になった。
筋骨逞しい男たちが全身に纏わりつく魔力を払い除けるため、一心不乱にばらばらのテンポで手足を動かす。ちょっとした酩酊状態の様で、これはこれで怖い光景だ。
いや、踊った覚えはないし『恥を捨てて』って言ったね、隊長さん?
気持ちに引っ掛かるものはあるけど、この狂乱状態が悪くは無かったのか、先に浮かんでいた3人以外は魔力に取り込まれて動けなくなる事はなく、自我を保ちながらも踊り続けている。それでも、周囲の黄色い魔力は消えては行かないから、まず動ける警邏隊だけでも魔力から逃がさないと。
「みなさんっ、カッコいいですよっ!気持ちで負けちゃいけませんっ、そのまま踊り続けてわたしの後に続いてください!」
扇を振って手近なヘリオスとハディスから魔力を祓いつつ、警邏隊員の間を縫いながら進んで、魔力を祓うわたしの後ろに続くよう指示する。次々に隊員がわたしの背後に連なって行き、全ての隊員を拾う為に玄関ホール中を巡って外に出ると、外には黄色い魔力が及んでいない様だった。
列の最後尾は隊長さんで、彼は宙に浮かんでいた3人を仲間とともに救出しつつ、なんとか付いてこれたらしい。良かった。
と思ったのも束の間、外を守っていた警邏隊員が信じられないものを見る目でこちらを凝視していることに気付く。いや、隊員だけじゃなく、野次馬の面々も同様だ。彼らの視線はわたしとその後ろへ向かっている。
「魔力からも脱出したみたいだし、そろそろ踊るのを止めてもいいって教えてあげないと警邏隊が不憫だよー」
背後からハディスが小声で伝えて来た内容に、はっとして振り返って納得した。
扇を振ったわたしを先頭とした踊る屈強な男たちの行列が屋敷から伸びていたのだ。
あまりにシュールな光景に、一瞬頭の中がまっしろになったけど、先に魔力圏からの脱出に気付いていたヘリオスとハディスの呆れた視線に漸く我を取り戻して「踊り終了!」を告げた。
警邏隊員は無事魔力から避難できたけれど、占術館内には未だ大禰宜ムルキャンと占い師の女、案内役の男の3人が残っている。
避難してきた警邏隊とともに開け放たれている入り口を見遣ると、黄色で埋め尽くされたホールからムルキャンを中心とした3人の姿が現れた。
「ほぉ―――っほっほぉぅ!無様で面妖な術で私を驚かせ、まんまと逃げ果せるとは、それだけは誉めてやろう。しかし女神の怒りから完全に逃れることは不可能だ!」
案内役の男が足元に転がる錫杖を拾い上げ、ムルキャンヘ捧げ持つと、鷹揚な態度でそれを受け取ったムルキャンはわたしたちに向けて錫杖を振る。
「行け!あの愚か者共に身の程を思い知らせてやるがよいぞぉ。ほっほぉ」
黄色い魔力がまた襲い掛かって来るかと身構えたものの、予測に反して向かって来たのは占い師の女と案内役の男だった。2人は虚ろな表情で黄色い魔力を全身から立ち昇らせながら、小走りにこちらへ向かってくる。
2人は鍛え上げられた警邏隊員に叶うはずもなく呆気なく拘束されるけれど、焦点の合わない虚ろな表情のままで、諦める事なくもがき続ける。
「セレネ嬢!」
「分かってる。神官達と同じ状態ね!」
ハディスの声に、すぐさま地面に伏せた状態で警邏隊員たちに押さえつけられたままの2人向かって扇でパタパタ扇ぐ。黄色い魔力は徐々に薄れて行き、完全に消えないまでも2人が抵抗を止めるまで扇ぎ続けた。
「あの、何をしているんですか?」
拘束していた隊員の一人が言い辛そうに、扇を閉じたわたしに聞いてくるけど、黄色い魔力は殆どの人には見えていないはずだし、ストレートに言っても伝わらないだろうなぁ。ならば。
「えぇ、このお2人が哀れで、少しでも冷静になるようにと願いをこめて、涼やかな風を送ってみましたの」
にっこり。不思議そうに見てくる隊員さんに向けて、誤魔化しの令嬢スマイルよ!ふひゅーひゅー。
「「「「「「はうっ」」」」」」
「「えぇー、またぁー?」」
ヘリオスが呆れた声を上げ、乾いた笑いとともにハディスが呟いた。
ジャララァン
錫杖の耳障りな金属音が、音高く響き渡る。
「ほっほっほぉ―――っほっほぉぅ!こちらを見よ、ついに我が術式が完成したぞ!これが女神の怒りの姿ぞぉ!!」
占術館入り口に立っていたムルキャンの両足が、地面を離れ、ゆっくりと宙に浮かんでゆく。
「なんだ!?大禰宜が浮かんでいるぞ!」
「大禰宜の周りにうっすら見える靄は、まさか大禰宜の魔力か?何と凄まじい……」
警邏隊員がどよめく中、ムルキャンの身体は2階建ての占術館の屋根と同じ程の高さまで浮かび上がったまま、宙に留まる。
「そっかぁー。あれ、宙に浮かんで見えるんだね。いいなぁ」
半笑いでぽつりと呟いたわたしの声にヘリオスが怪訝そうに振り返る。
「お姉さまには、どう見えているんですか?」
「毒々しい黄色の超巨大ウミウシの頭の上に、派手なおじさん」
「ぶふっ」
ハディスが否定せずにただ噴出したところを見ると、同じ様に見えているんだろう。
それにしても、最初のは特撮ヒーローの怪人並みに爆散したよ確かに。だからと言って、セオリー通り巨大化しなくたって良いと思うんだよね!様式美?いや、超巨大化ウミウシに『美』なんて全く見い出せませんからー!
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