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今日はまだ終われそうにないみたいです.

 占術館は、証拠品の押収と現場保存のため、王都警邏隊により周囲を封鎖されていて、中から出ることは勿論、外から入ることも出来なくなっている。

 上流階級御用達の店が軒を連ねる一角から離れた、平民街との境界の辺鄙な場所に位置するとは言え、今を時めく人気店に王都警邏隊が踏み込んだ一大事だ。夜の(とばり)が下り始めた頃だというのに建物の周囲には、次第に人々が集まり始めていた。


 玄関ホールと外を隔てる大扉は開け放たれ、忙しなく警邏隊が行き来し、飾り(チャーム)や香水瓶などの商品の入った木箱が押収されて運び出されて行く。


「だいたい、何であなたに何も起こらないのよ!おかしいじゃない!ちゃんと手順は踏んだのよ?声さえかければ大神殿主(だいしんでんぬし)の御心のままに、害意ある者は滅ぶはずなのにっ!」

「そうだ!女神様の天罰が当たらないどころか、大神殿主のご加護まで消し去る怨敵め……!お前など禰宜(ねぎ)たちの神聖なる鉄槌に滅殺されるべきだったのだ!」


 開き直ったのか、占い師の女と、案内役の男に言われ放題だ。さっきまでの怯えた態度は、どこへ行ったのかしらねー。


「ふーん、呆れた。ちゃんと分かってやってたんだ?しかも、わたし以外にも『女神の天罰』?を使ったような言いようね」


 警邏隊員が、さっと顔色を変える。


「何だ!?女神の天罰とは!お前たちは、このご令嬢と、先程保護したご婦人以外にも手を下していたのか!?」


 突然の詰問に、女は顔を歪め、男は忌々しそうに溜め息をつく。


「私たちは敬虔なる女神の使徒。手を下すなど、そんな野蛮なことをせずとも、大神殿主のお力を得た聖水を用いれば、自ずと慮外者は滅びるわ」

「聖水は、正しく用いれば全てを助ける力となり、邪な者が用いれば滅殺する毒となる。受け取った者の心根がそうさせるだけで、我々は何もしていない」


 いや、毒だって言っちゃってるじゃん。もうアウトでしょ。

 陶酔したように語る男女に、警邏隊員が不気味なものを見る様に顔をひきつらせているけど、ちゃんとペンは走らせている。しっかり害意ある旨、調書は取れているみたいだ。

 まだ、ぼんやりと薄黄色に包まれている占い師の女はともかく、全てを吹き祓った案内役の男までが、まだこんなことを言っているところを見ると、操られている訳ではなく自分の意思なんだろう。ここから先は警邏隊にしっかり取り調べてもらおう。

 あ、警邏隊員さんに押し付けた訳じゃないよ。何とかしたかった『占いと薄黄色い魔力を使う祈祷師』が、占術館の人たち(目の前の人たち)だけじゃなくて、もっと大元が居るって分かったのと、薄黄色い魔力の付いた商品がこれで出回らなくなるから、取り敢えずここでの目標は達成出来たってことで。うん、薄黄色に纏わり憑かれた人が怖いとかそんな訳じゃないから―――。


「お姉さま、とても面倒くさ…――いえ、令嬢らしくないお顔になっていますよ……」


 ぼそりとヘリオスが呟いた。

 しまった、早く切り上げたい気持ちが表に出ていたみたい。けど何とかしなきゃ、また悪い状態で巻き込まれかねない危険な物だって身をもって体験したから、どうにかしなきゃとも思っているのよ?


 ぐったりとした神官や禰宜が、護送用の小さな窓に格子が付いた箱型馬車に乗せられて、占術館の門を出て行く。彼らは、未だ意識が朦朧としいて、この場での事情聴取は不可能だと早々に判断されたみたいだ。馬車の後ろ姿を見遣っていると、その方向から1台の黒塗りの馬車が現れ、閉鎖区画を警備し外からの入館を拒む警邏隊員と、馬車に乗った人物との間で何やら大声で怒鳴り合いが始まった。周囲に集まっている野次馬たちも何事かと聞き耳を立てている。


「お客さん……?違う、取り込み中なのはすぐに判るだろうし、関係者?」

「お姉さま、あの馬車はただの貴族の物ではありませんよ。黒塗りの馬車は王室や神殿の、高位の限られた者だけが乗ることを許されたもののはずです」


 ヘリオスと呟きあいながら「まさか」と側の占い師たちを見遣ると、案内役の男と占い師の女が生気に満ちた瞳で馬車の方向を見、口角を釣り上げているのが目に入る。


『ゥォォォォォオオオ―――ォォォン』


 突然、占術館の建物奥から地鳴りに似た音が響いた。


「何だ!?」

「奥で何があった?水を見に行った辺りか!?」


 警邏隊員達が、右に左にと忙しく動き始める。

 けれど一際大きな音が響いた後は、隊員たちの走り回る音や、彼らの持つ捕縛具のカチャカチャ立てる音以外は聞こえない。


「中の探索に向かった者達と連絡は取れているのか!?」

「例の場所へ探索と押収に向かった者、3名。安否含め、情報について只今確認中です!」


 突然の聞き慣れない地鳴りに、異変を感じたのは皆同じだったようで、あちこちで怒号が飛び交う。


「見えないって良いよね……」


 わたしは、鳥肌の立った腕を擦りながら、黄色い光が漏れ出る建物の奥を見やる。

 こんな強い黄色だ、きっとまたウミウシが出現しているに違いない。それも、さっきよりも強い光量から推測すると、もっと大きいか、若しくは複数匹か……。


「見えてるかい?」


 ハディスが、側へやって来る。

 彼も黄色い光が漏れて来る方向を見て、眉を(ひそ)めているところを見ると、わたしと同じように()()()いるのだろう。


 疲れたのに、今日はまだ終われそうにないみたいです。

お読みくださり、ありがとうございます。


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