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胡散臭い‥‥怪しすぎるわ!

 万代(よろづ)占いを操る占い師、祈祷師たちが所属する『占術館(せんじゅつかん)』。それは、上流階級御用達の店が軒を連ねる一角から離れた、平民街との境界に建てられている。


 王都で最も有名な占いを受ける場所と言えば?とご令嬢たちに聞けば、一言目に必ず出てくる有名店だ。あいにくわたしは占いの曖昧な希望的観測よりも、実利と具体的効果の方が興味があるからか、これまで全く関わることがなかったので初訪問だ。ちなみに今は学園での講義も終えた夕刻。明日・明後日は学園が週末休みなため、時間はたっぷりある。


 平民らしき女性が2人、はしゃぎながら建物から出て行くし、家紋の入らない馬車も止まっている。わたしもそこから少し離れた場所で、馬車から降りる。ちなみに我が家の馬車には、悲しいかな、もとより家紋は入っていない。


「学園の友人に、こちらの先生にとても頼りになる方がいらっしゃると伺って参りましたの。是非その先生に占っていただきたいのです」


 建物入り口の紺色のローブを纏った案内役に、希望する占い師や、占って欲しい内容を伝えると、建物内の一室に案内する仕組みとなっているらしい。わたしも他の客同様に、ひとり占術館へ踏み入ると案内役に伴われ、狭い廊下を進んだ先にある一室へ通された。


 通された部屋は暗幕で覆われており、外の景色も見えない。その薄暗い室内を、蠟燭のゆらゆら揺れる不安定な明かりだけが照らし出す。薄手のヴェールを被って目元しか見えない女が、大仰な動作で透明な水晶玉に手をかざす。


「あなたの行く末に、光輝く月の道が見えます。望むままに進めば、きっと女神のご加護を得られることでしょう」


 貴族女子らしい占いと言うことで、恋愛運を視てもらったのだけれど、なんなんだ?この当たり障りもない、害にも薬にもならなさそうな助言は。


「障害が、あるのですけれど?」


 入婿になって一緒にバンブリア商会を盛り立ててくれる人を見付ける為に、目下最大の障害になっているのが『占いと、薄黄色い魔力を使う祈祷師』なのだけど、ちょっと濁して伝えてみる。

 あと、ちょっとお金ある感を出すために、豪奢な扇を見せ付けるように開いて口元を隠し、意味ありげに占い師へ視線を送る。


「案じることはありません。すぐにあなたの元へ、道を示すものが現れるでしょう。きっと運命は開かれるはずです」


 女の言葉を待っていたかの様に、水晶玉からごく僅かだが薄黄色い魔力が迸り、こちらへ向かってくる。ぞわりと嫌な感覚を伴うそれを、思わず扇を振って遮ろうとすると、魔力は煙のようにふわりと霧散した。


「んっ?」

「何か?」


 思わず声を上げてしまったけれど、占い師は何が起きたのか分かっていないようで、怪訝そうにわたしを見ている。


「今……何か力のようなものがわたしに向かってくるように見えましたの」


 祓っちゃったけど。

 まぁ、それは言わないほうがいいだろう。なんとなく。


「それはきっと、この水晶の加護です。この占術館の私たち占いを司る者は皆、さる高貴な祈祷師からそのお力を分け与えられているのです。貴方が感じ取ったのは霊験あらたかな力なのですよ」


 再び言おう。祓っちゃったけどね。すごくぞわぞわする嫌な感じがするんだもん。

 けれど占い師はどや顔で黄色の魔力(ちから)の自慢をしている。『占いと薄黄色い魔力を使う祈祷師』こそが大ボス(てき)だと思って、ここへやって来て、目の前で黄色い魔力が動くのを見たけど、なんだかこの占い師は魔力も見えていなかったみたいだし、小物感が漂っている。ひょっとしたらこの人もメルセンツ達みたいに変な影響を受けているだけの人なのかな?被害者?

 それに「さる高貴な祈祷師からそのお力を分け与えられている」なんて言っていることから、黒幕がまだいるみたいだ。そっちが大ボス?

 とにかく、このまま話していてもなんの発展もなさそうなので、礼を告げて退室した。


 部屋の前で首を捻っていると、案内人と同じローブを纏った、不健康そうに瘦せた男が笑顔でやって来た。男にはごく淡い黄色がまとわりついており、なんだか陰鬱な印象を受ける。


「障害を祓う方法を知りたくありませんか?」


 胡散臭い……怪しすぎるわ!もしかして、この男こそが祈祷師?けどやっぱり漂う小物感から、被害者の線が濃い気がするし。


「この香水瓶をお持ちください。さるお方が、幸運を引き寄せる力を込めた聖水が入っております。お代は効果のほどを確かめられてからで結構ですので、どうぞ」


 やっぱり小物の方だったー!力を込める (イコール) 薄黄色い魔力を込めてるってことで、この館の背後にいる高貴な祈祷師が黒幕だよね。そうだとしても、個々の人たちは手下なのか、黄色い魔力で何かしかの『暴走』をしている被害者なのかが分からない。


 香水瓶の中の液体は、よく見るとやはり薄黄色い魔力を纏っている。その場で蓋を開けると、見つけた獲物に纏わりつく蛇の様に、薄黄色の陽炎はゆらりと揺れて瓶を持つ腕を伝って来る。

 ぞわぞわとした嫌悪感に耐えながら先程の感覚を思い出して扇を一振りすると、やはり薄黄色い魔力はあっけなく霧散した。


「なにをなさっているのですか?」


 瓶を(あお)いでから見詰めたまま固まるわたしを、怪訝そうに見て男が目を細める。

 男の目は、消えて行く薄黄色の(もや)を一切追わなかったことから、わたしのしたことを分かって問い質しているのではなく、ただ不審な行動をとるわたしを(いぶか)しんでいるだけみたいだ。この男も、先程の占い師と同じく薄黄色い魔力は見えていないんだろうな。その魔力を纏っているにもかかわらず。


 ならば試してみよう!!


 わたしは男に扇を(かざ)すと、一度大きくぶわりと扇いだ。

お読みくださり、ありがとうございます。


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