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トレントを刈ったら、早めにスライムも絞めてしまいたいんです。

 まだ朝靄のかかる、ひっそりと静まり返った森の中へそっと足を踏み入れると、土と草の濃い匂いが鼻孔を突いた。王都にほど近い森とは言え、この場所には他の森や渓谷と同様に『魔物』が生息する。

 動物が魔力を帯びすぎると生物としての有り様が変化して、『魔物』となると言い伝えられているけど、変化するところを見た人が居るわけでもなく、あくまで言い伝えだ。けれど確かにその生き物は存在しているのだから利用しない手はない。


 王都の街中とは一味違う、とても爽やかな空気だ。目一杯深呼吸したら、あともう少し走らないといけない。今回の狩りは、心配性な家族には内緒にするから出来る限り時短で済ませたい。このまま脚は止めずに、背中のリュックからスライムの狩り道具を出す。


 魔力を身体中に巡らせて脚力、視力を強化し、倒木を難なく躱し、飛び越えながら更に森の奥へ進み続ける。すると、強化した視力に微かに動く目当ての物が入るので、その周囲をぐるぐる走り回る。あちこちで何度かそんな動きを繰り返せば、目当てのモノたちは一纏まりになって大岩に囲まれた窪地に追い込まれる。そこでようやく手にしていた投網(とあみ)を大きく広がるように放つ。長い紐の先についた網は、寸分違わず目標物を包み込む。


「ふふっ……大漁大漁~」


 引き寄せて成果を確認すると、何体もの西瓜サイズの言葉を発さないジェル状の物体が、プルプル全体を震わせて詰まっている。


「いや君なんの職人なの!?」

「ふぁっ!?」


 驚きのあまり全身で跳ねた瞬間、凄い勢いで飛んでくる黒い影が視界の隅に入り、慌てて身体を捩じる。


 ザシュ


 腐葉土に深々と突き刺さった短剣には見覚えがある。


「オルフェ!ちょっとあなた、わたしを殺す気まだあるわけ!?それともハディス様を狙って外したのとどっち!?」

「桜の君を(あや)める気はありませんよ。ただ反射?みたいなものです。赤いのを狙うなら外しませんよ」


 側の木の枝で、オルフェンズが薄い笑顔を浮かべて小首をかしげる。その木の根元には頭を抱えたハディスが立っている。まさか二人揃って尾行して来た!?ここまで気付かなかったんだけど!


「昼食までには帰宅するので見逃してください!」

「ちょっと待ってよねー!」


 さっさと立ち去ろうとしたのに、素早く回り込んで来たハディスに呼び止められた。まだトレント刈りが残っているのに、時間が勿体ない。


「もぉ、早く行かせてくださいよ。トレントを刈ったら、早めにスライムも()めてしまいたいんですー」

「令嬢が絞めるとか言わないの!あと手慣れすぎじゃない?体力ありすぎじゃない?僕このあと戻ったらバンブリア男爵とヘリオス君と一緒に調査があるんだけど、勘弁してくれない!?」


 質問と愚痴が一緒くたになったハディスは、なんだかくたびれた様子だけど、付いて来てくれと頼んだ覚えはない。

 トレントの群生地へレッツゴー!と、魔力全開で走り出したのに、赤い人がしっかりついてくるんですけどー!?あと、時折視界の隅に白銀の髪束がチラついて短剣が飛んでくるんだけど、これどんなアクションゲームなの?

 けど、オルフェンズの宣言通りわたしを殺す気はないのか、短剣は全て躱せる程度だったのに対し、ハディスを狙ったものは短剣の勢いが違い、避け切れずに剣のさやで叩き落していた。


 森の木々が少しづつまばらになり、大分高くまで昇った太陽が見え始めた。

 目的地まであとちょっと!

 投網の裾をぎゅっと結んでスライムが零れ落ちないようにしてからサンタクロースの袋のように肩に担いで、リュックから次なる刈り道具の鎌を取り出す。

 もうすぐ目的地だというのにまだ飛んでくる短剣が苛立たしい。


「いいかげんにしてくださいねっ。そろそろ刈り場ですよ。バタバタ騒いでいたら獲物が逃げちゃうじゃないですか!」

「平坦な移動だけなど、無味乾燥なだけでしょう?」


 だから楽しみましょう、と投擲の手を休めることなく少し先の枝に飛び移りながらこちらに向けられた声は憎らしいほど余裕に満ちている。上機嫌に危機を作り出してくれるオルフェンズ。わたしとしてはただの移動、淡々とした行程で充分なんですけど!

 勢い良く後ろに流れて行く木々の枝の合間に、太陽の光がちらちら見え隠れする。短剣を避けなきゃいけないのに陽の光が眩しいなんて、ハードモードに突入なワケ!?目がチカチカして何だか遠くに赤い色まで見えて来た―――って!?


「え?空飛ぶ大ネズミ!?」

「なんだって?」


 ずっと先の木の間に、見たことも無いモノが見えた。カピバラに良く似て、けれど色だけは生き物らしくない濃い赤色の、ずんぐりとした体形の大きな動物が、木から木へと飛び移っている。ハディスまでが、ぎょっとするくらい大きな声を出して反応する。


 ざんっ

「あ、くそ」

「油断大敵ですね。今回は私の勝ちです」


 うっかり見つけたネズミに気を取られたお陰で、ハディスがついにオルフェンズの短剣に当たってしまったらしい。あちゃー、わたしのせい!?って云うかダメでしょ。


「オルフェ!いい加減にしなさい!今回は怪我をさせたあなたの負けです!加減の分からない悪戯は正確な判断の出来ない子供のやることと同じよ。よってあなたの負けです!」


 上機嫌に短剣を弄びながら傍の木から飛び降りてきたオルフェンズを鋭く睨み、指差しながら叫ぶと、途端にきょとんと呆気にとられた表情になり、すぐにふわりと笑みを浮かべた。


「確かにそうですね。ハディス様にうっかり傷を負わせてしまいました。これは私の腕のせいですね」


 んん?これは納得してるのか?何だか変な含みがある気がする。その証拠に、ハディスが苦虫を噛み潰したような表情になってるぞ。そして短剣にうっとりと頬を寄せた様子が無駄に色っぽい。


「お前の腕のせいじゃないなー。僕が、本当に、うっかりしたせいだよ」


 妙に力を入れて語るハディス。やっぱり男の子は意味が分からん。

お読みくださり、ありがとうございます。

次話は10時に投稿します!


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