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真実の愛の相手が私だなんて、聞いていないんですけど!?

新連載はじめました。

「アイリーシャ、私たちの婚約を破棄しよう。私は真実の愛を見つけたのだ!」


 王立貴族学園の卒業祝賀夜会の場。

 この世界の最高神である月の女神とその神話の場面が、繊細な筆致で描かれた天井画の華やかなダンスホール。

 菫色の夜会服を纏い、肩口までの淡い金髪を揺らしてヴェンツ伯爵家嫡男メルセンツが、ラシン伯爵家長女のアイリーシャに高らかに宣言した。


 きらびやかな夜会会場の空気が、ざわりと揺れる。

 この場に集うのは今宵、この学園を卒業する公爵位から騎士爵位を持つ家の貴族令息に令嬢、そしてその家族や卒業生のエスコートをする婚約者など。錚々たる面々が集う事となっていた。

 そんな中、メルセンツのこの愚行は、エスコート以外の家族がまだ入場しない僅かな間を狙って行われた。


 居合わせた者たちは驚きと好奇心を持ってメルセンツとアイリーシャに注目し、しかしながら余計な厄介ごとには巻き込まれまいと遠巻きに取り囲んでいる。その様子は、突如として現れた大道芸の舞台とそれを観覧する客達の様だ。

 そのような不名誉極まりない舞台に取り残されたにも拘らず、ハーフアップに纏め上げた艶やかな黒髪に深紅のドレスを纏ってしゃんと胸を張り、扇で口元を隠したアイリーシャは、怯む素振りもなく、勝ち気そうな瞳を対峙するメルセンツに向ける。


「何をおっしゃっているのかしら?メルセンツ様。そもそも私たちの婚約は家同士の契約ですわ。私達が勝手にどうこう出来るものではありませんのに。それに……」


 アイリーシャがパチンと音をたてて扇を閉じる。


「真実の愛を見付けられた、とおっしゃるけれど、お相手のご令嬢はどこにいらっしゃるのかしら」


 メルセンツが眉根を寄せて周囲に視線を巡らせる。

 確かに、自分がエスコートしてきたはずの、誰よりも愛すべき少女の姿が、先程から見当たらない。しかし、あまり時間が過ぎてしまっては、来賓や卒業生の親たる数多の貴族がこの会場に集まってしまう。

 人が増えればそれだけコトが厄介になってしまう。


 ざわ… と再び会場の空気が揺れる。


 さっと水が引く様にメルセンツとアイリーシャを囲んでいた人垣が割れて、湖にせり出したバルコニーから、三文芝居を演じる二人まで一筋の道ができる。

 そこには、この場には全くそぐわない、異質な存在が姿を現していた。


 ぽたり ぽたり


 濡れそぼり、顔を覆い隠すように垂れ下がった桜色の髪からは、留まることなく滴が垂れる。


 ずるり ずるり


 髪以上に水分を含み、重そうに床を引きずるレモン色のドレスの裾が、大理石の床に水の跡を残してゆく。


 ひゅぅ ひゅぅ


 荒く息をしながら、しかし淡々と歩を進める姿はこの世ならざる気配すら漂わせる。


「まさか…… セレネ?」


 呆然とメルセンツが呟くのを聞いて、ずぶ濡れの令嬢、セレネ・バンブリアはのろのろと顔を上げる。桜色の髪の合間から、大きな琥珀色の瞳が覗くと途端に可憐に雰囲気が転じる。


「只今もどりました。メルセンツ先輩」


 ぷっくりとした唇が笑みをつくれば、先程まで幽鬼と見紛うばかりだった風貌は、途端に泉の妖精の様にすら見える。

 しかし、セレネはすぐさま笑みを消して真顔に戻り、メルセンツに冷めた視線を向ける。


「まさかですけど、わたしをエスコート相手に望まれたのはこんなちゃば……アイリーシャ先輩とのお話し合いに立ち会わせるおつもりだったのでしょうか?」


 静かな怒気を漂わせた声は低く震えている。迫力に押され言葉に詰まったメルセンツが一歩後退ると、計画の失敗を理解して、驚きと怒りに顔を歪めるアイリーシャが視界に入った。


「やってくれたわねアイリーシャ先輩……。わたしを本気で消そうとしてくるなんて」


 思わず口からこぼれた怨嗟の声は、呟きの様なものだったけれど、一番近くに居たメルセンツまでは聞こえたらしく、ギョッとした表情でセレネと、アイリーシャを交互に見遣る。


 ギリッと唇を噛んだアイリーシャが、閉じた扇を両手で握り締めると「みしり」という音が、静まり返ったホールに響く。


「やるからには、やり返される覚悟はあるんでしょうね!」


 叫びながら指差されたアイリーシャは、大きく目を剥くと、閉じた扇をセレネに向ける。


「や…やっておしまい!」

「はぁ!?」


 これ以上、何が起こるのかと周囲を見回すあまり、注意力が散漫になったとして誰が咎めるだろう。セレネは、この数時間の間に起こった出来事に既に心の許容量(キャパシティ)オーバーを感じていたのだった。



 ――いやそれよりも、メルセンツ様!あなたと婚約をするつもりは露ほどもありませんから――――!

お読みくださり、ありがとうございます。

書いたことのないジャンルのお話、はじめて挑戦してみました!


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