ヨウセン公園散策
「ところでここには、なにしに来たの?」
私の言葉に彼は気まずそうにしながら、「野次馬根性で」と答えた。彼のことを馬鹿にできない。かくいう私も客観的に見れば、彼と同じなのだ。
「私と一緒ね」
ほんのり微笑めば、気まずそうな表情緩め、爽やかに愛おしげな表情で笑っている。彼を引き立てるかのように風が優しく頬を掠める。何故そんな表情をするのか。昨日今日会ったような間柄でそんな切なそうな表情はいけない。悪い虫を呼び寄せてるのは寧ろあなただと突きつけてやりたくなる。
「随分、学校の時と雰囲気が違うのね…」
「人が苦手で…。あ、神楽さんは大丈夫です!」
あたふたと否定しているのも好感が持てる。これは前世を忘れるチャンスかもしれない。彼は確かに少しルヴァルアに似ているかもしれないが、まさかルヴァルアまで同じ時代に生まれ変わってはいないだろうし、もし生まれ変わっていたとしても覚えてなどいないだろう。昔の黒歴史の女のことなんか。
「ねぇもし暇なら、近くの公園を散策しない?」
普段は他人を誘うことなんて滅多にないのにそう声をかけたのだって、下心からだ。彼を知って好きになれば、今世では愛する人と幸せに暮らせるかもしれない。不意に胸がチクリと傷んだが、彼への未練が私を食い止めようとしているのだろうと自分を納得させる。
「良いですよ」
◇◇◇
___ヨウセン公園
その昔この場所はヨウセン村という小さな村だったという逸話からその名を付けられた。その逸話も『ルヴァルアの英雄記』に僅かに登場するだけだ。
だが、何としてでも町おこしをしたい市が色んな逸話を引っ張り出しては歴史に託けて作った公園に過ぎない。とはいえ、市が町おこしのために手をつけているだけの事はあり、そこかしこに綺麗な花が芽吹いているし、敷地の真ん中にある大きな池にはそれに見合う大きな鯉と思われるものが何十匹と泳いでいる。池の中央は鯉の生息とは区切られていて噴水がある。噴水の所までは鯉の池にかかっている橋を渡って行けるようになっている。この橋は通称恋の橋と言われている。ただ鯉に恋をかけただけだなんて罰当たりなことを言えば、この公園の製作者に叱られるかもしれない。設計は目を見張るものがあり、静かなひと時を過ごすにはうってつけの場所だ。主に恋人達の逢瀬の場所として使われているイメージが強い。
「神咲君は最近この国に来たのよね?今まではどこに住んでいたの?」
「入学式に出れるようにヒイス帝国から帰ってきたのは良かったのですが、両親の夫婦喧嘩が過激で仲直りさせるのに1月かかりました…。これには弟も自分も呆れて言葉も出ませんでした」
「ふふふ。良いわね、喧嘩するほど仲が良いとも言うし、神咲君の両親は円満ね。私は両親がいないから少し羨ましいわ」
「なんか、傷つけていたらすみません…。でも俺、これだけは分かります。神楽さんは周りの人に恵まれているってことです。きっと神楽さんが両親から大切にする事を学んだからこそ、色んな人に大切にされているんだと、そう思います。因果応報ってやつです」
私を慰めるでもなく、同情するでもなく、ただその綺麗な瞳でこちらを見ている彼は太陽の光のせいかブレて見えた。そんな違和感を吹き消すくらい、真剣なその顔で伝えられた言葉はしえりの胸にストンと落ちてきた。
くしゃっと顔が歪む。視界がぼやけている気もする。なんでこんな時に限って、神咲君がルヴァルアに見えるのだろう?
___ねぇ、ルヴァルア。
私はどうすればいいの。あなたに囚われていると思い込んで自分を雁字搦めにしている私は、あなたを忘れることができないの?
そっと頬にハンカチをあてられる。いつの間にか頬を涙が伝っていた。
「ありがとう。こんな情けないところを見せてごめんね…。私ちょっと今日可笑しいかも。本当にごめん!ハンカチは洗って返すから…だから、えっと…ごめんなさい」
言うが早いか椅子から立ち上がり最寄り駅までの帰路を走る。
あのまま居たら、私は神咲君にルヴァルアを重ね合わせてしまう。初めは絶対に違うと断言できた筈なのに、その言動は彼を彷彿とさせる。今日会った彼は変だった。きっと私も。
私は何がそんなに許せないの。自分でも分からない。彼を愛していた。それだけは自信を持って言える。
家に着いたら、服を全てと借りたハンカチを洗濯機に入れて回す。バスルームに入って少し熱めのシャワーを浴びる。それでも胸の中に燻るモヤモヤは消えはしなかった。
少し話が進みましたが、次は少し停滞する予定です。その後急発進するまで暫しお付き合い頂ければ幸いです。