ルヴァルア遺産見学
今回から本編に戻ります。
いつもより少し長いかも、と穂は思いますが会話があるせいかも知れません(--;)
期待はしませんよう…。
長い1週間も残すところあと2日つまり週末になった。ニュースでは、最近は専らルヴァルア遺産の事で話題が持ちきりだ。だからこそ、しえりは遺産がどんなものだったのか気になってしまった。
埋葬された墓らしきものの中に骸骨となった死体も見つかり、ルヴァルアの骸骨ではないかと世間を騒がせている。専門家が詳しく検査中との事で、真相は分かっていない。
同時並行で手紙や剣などは続々と運び出されて研究機関へと運ばれて行った。未だ立ち入り禁止の洞窟はテープの外からなら中を覗けるらしい。
『よし、今日は話題の洞窟を見に行こう』と思い立ったのは土曜日の朝のニュースを見た時だった。何やら洞窟の壁面にも文字が記されていたらしい。その壁面なら、外からでも見れるのではないかと思ったのだ。
忘れようと思っても忘れられないなら、真相を確かめてみようという気持ちになったのも大きい。最近は、後ろの席の神咲君が頻繁に視界に入る。その度に反応していたのではこれからやっていけないと思ったのだ。
しえりはどうせなら彼奴の秘密を暴いて盛大に嫌ってやると意気込んだ。
朝食の食器を片付けて簡単に部屋を掃除し、洞窟に行く準備をした。スマコとサイフがリュックにあることを確認してから家の鍵を閉め、その鍵を仕舞ってからリュックを背負う。
最寄り駅から電車で20分の距離にある洞窟近くの駅は今や観光の名所のように行き交う人が沢山いる。その恩恵にあやかろうと辺り一面に屋台の良い匂いが充満していた。洞窟のあるという場所をスマコのマップで確認しながら向かうと、段々と人が少なくなってくる。みんな洞窟目当てだと思ったが、違うようだ。
「また具合が悪いやつが出たってよ。やっぱり祟りなんじゃねぇか?」
「おい、そんなこと言うな!本当に祟りだったらどうするんだ!」
ふと聞こえた声に耳を傾ければ、何やら唯ならぬ会話だ。気になって作業員の服を着た人に声をかけた。
「すみません、その祟りってどういう事ですか?」
作業員の男2人は互いに顔を見合せ、恐る恐る口を開いた。
「この発掘作業中、何人もの作業員が具合が悪いって言って倒れてるんだ。専門家の人もだ。だから、何か悪いことが起こってるんじゃないかって。お嬢ちゃんもこの先に行くなら覚悟した方がいいぜ」
うんうんと隣の人が大袈裟な程頷いていた。
「ええ、ありがとう。気をつけるわ」
お礼を言って、洞窟の方に歩き出す。そこは大部分は作業員に踏み荒らされていたが、昔は誰かが歩いていたような細い細い道が出来ていて、草の生え方が少し普通とは違っていた。10分程歩いた頃視界がひらけた。洞窟は作業しやすいように入口が拓かれていた。
KEEP_OUTのテープに接近するとぼんやりと文字らしきものが見えた。
「やっぱり肉眼では無理か…」
頼みの綱のスマコをポケットから取りだし、最大に拡大すると文字がさっきよりもよく見えた。さすが最新機器。カメラを拡大してもぼやけないなんて…、と感動する。
全体が写ったところでシャッターのボタンを押した。後でじっくり見てみよう。他に何か見えないかと目を凝らすが何も無さそうだ。帰るかと踵を返すとすぐ後ろにいた人にぶつかってしまった。
「あ、すみません」
「いいえ、こちらこそすみません」という声に顔を上げると話題の転校生、神咲琉蒼がいた。何故彼がここの居るのか検討もつかないが、自分が彼と同じ野次馬をしてると思うと気分が良くない。
「えーと、神楽しえりさん、ですよね?前の席の」
なんということだ。声が好み。タイプ。耳が震える。少し低めのバリトンボイス。声優でもやっていけそうなほどイケボだ。
微塵も感じさせずに無難に返答しなければ。
「はい、そうですけど」
そう言うと目の前の神咲君は少し厳つめの顔をよく見なければ分からない程度に緩ませた。何がそんなに面白いのか分からないが、確かにイケメンな顔で笑ってはいけない。それも私好みの顔で。
授業中はちらっとしか見れないし、休憩中はクラスの生徒(クラス外からも来る)が押しかけてじっくり見ることは無かったが、本当にイケメンだ。一瞬違和感を感じたがじっと見ても何も無い。気の所為だったのだろう。
教室で見た髪は錆色だが、今は光に当たっているからか確かに赤銅色に見えるし、目も金色っぽく見える。光の当たり加減で変わるのか。
「どうかしましたか?」
じっと見すぎたせいか、神咲君が困惑気味に問いかけてきた。
「あなたって本当にイケメンなのね。教室で見た時より今の方がかっこいいわ」
声に出すと予定そう思う。うんうん、やっぱり教室より今の方が良いわね。心做しかルヴァルアの面影を感じる。
目の前の顔はしえりの言葉を理解した途端首まで赤くなっている。
「…な、何言ってるんですか!」
「あら、照れてるの?言われ慣れてると思っていたわ」
「そ、そりゃ、言われ慣れてはいますけど!けど、それとこれとは……」
最後の方はボソボソと微かに呟いているせいで聞こえない。
「それとこれとは何?」
「なんでもないです!」
『体の大きい彼が必死に否定する姿は可愛いな、ルヴァルアもそうだった』
と無意識に重ねている自分にしえりは驚く。その些細な変化を嗅ぎ取ったのか、神咲君はどうしましたかとさっきよりも何倍も柔らかい表情で尋ねてきた。教室に居る時は無表情がデフォルトだったはずの彼(李菜談)が表情をコロコロ変えている。
「無表情以外もできるのね。てっきり、あまり顔に感情が出ないタイプかと思っていたのに」
「その通りですよ。親からも姉からもそれで揶揄われています。そんなこと言われたの、神楽さんが初めてですよ」
ルヴァルアも初めの頃は誰からも心を閉ざし、常に無表情だった。そんな彼の変化を少しでも分かるようにと表情をよく見るようになったからその賜物かもしれない。
「それは光栄だわ。ところでここには何しに来たの?」