余談:坂本李菜から見た神楽しえりその1
坂本李菜には幼稚園の頃から神楽しえりという親友がいる。
珍しい青みがかった艶やかな腰まで伸びた黒髪に青白く見えるほどの白い肌、まつ毛は目尻にいくに従って長く、くっきりとした二重瞼に、瞳はよく見たら薄らと緑がかった黒とは言えない、宝石のように綺麗な色。165cmあるその体の凹凸は見事としか言いようが無いほどであり、正に男性女性問わず憧れるような体型の美女なのだ。
ただし、本人にその自覚はない。
中学に入る頃に亡くなった両親の代わりに世界中を飛び回っている母方の叔母さんの家で1人で暮らしているしえりは今でさえ普通に見えるが、幼稚園の頃は大変な変わり者だった。両親と別れる時は何でもなかったのに、先生からのお題で大切な人を描きましょうという言葉で急に泣き出したり、どこかを見ては寂しそうにしたり。そんなしえりを男の子たちは構おうとするし、それに嫉妬した女の子たちからは嫌がらせを受けたりしていた。結構お金のかかる幼稚園に入園している割には、いや、そのせいか傲慢な子どもが多かった。先生達も親が恐ろしくて注意も出来ない有様だった。あるひとりの先生を除いては。
その先生としえりはとても仲が良くて、ある日近くにいた李菜も一緒に遊ぼうと誘われた。当時ませていた李菜はガキ臭い園児達に辟易していたから、しえりと先生との遊びは楽しかった。その時から李菜はしえりと親友になった。何でも話し合える、親友に。
しえりと遊ぶ度、しえりの凄いところや良いところを知る。そして、負けてられないと李菜もしえりを真似していたが、お姉さんぶっていた李菜はしえりを先導できるように頑張った。しえりはそんな李菜には微塵も気づいていないようだったが、李菜はそれでも良かった。
小中学校は一緒の公立だった。しえりは両親の教えで公立を受けていた。幼稚園からの付き合いのしえりと李菜の両親は親しくなっていた。しえりの両親から学校の事を聞いたらしい李菜の両親は公立でも良いと言ってくれた。
中学に入ってすぐしえりの両親は亡くなった。飛行機の事故だった。しえりは暫く塞ぎ込んで部屋から出てこなかったが、数日すると目元を赤くして痛々しい笑顔を浮かべていた。その顔を見て、私の前でまで無理に笑顔を作らなくてもいいっ!と怒った。私がしえりに本気で怒ったのは後にも先にもその1回だけだ。信頼されていないようで悲しかった。でも、1番悲しんでいるのはしえりだ。
2人でしえりの部屋に入り、しえりを慰めた。私がついてる、私がしえりの味方だと何回も言った。しえりはうんうんと頷きながら、涙を流していた。それすらも美しく、李菜は女ながらにドキリとしたものである。
2人は一日中思い出話を話し合った。ああだったこうだったと言い合って両親を思い浮かべては昔に思いをはせた。
両親の葬式には母方の叔母さんが来て、2人で執り行った。参列者には沢山の人が来て、お悔やみを述べていた。しえりは気丈に振舞っていた。
葬式が終わると叔母さんはセキュリティのしっかりしたしえりの家を用意すると直ぐに仕事に行かなければならないとしえりに言い聞かせていた。両親と住んでいた家は維持費が掛かりすぎるため売りに出すしか無かった。李菜はしえりに一緒に暮らさないかと声をかけたが、申し訳ないからと断られた。
しえりと叔母さんは決して仲が悪いわけでは無かったが、仕事で忙しい叔母さんと会う機会がそもそも余りなく、知らない人のイメージが強かった。外国で有名なデザイナーらしく、休みが中々取れないと話していたから、葬儀には無理をして来てくれたことは明白だった。
しえりの叔母さんは次は年末に帰ってくるからと飛行機に乗り帰って行った。