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前世待ち続けた女、今世待ち人来たり  作者: 一 穂(いちもんじ すい)
5/11

噂の転校生その2

 

 サザランド高等学校、通称サザ高には王子がいると専らの噂だった。同じ1年生ながら、そのイケメンぶりは他学年にまで広がるほどだと李菜がペラペラと話していた。

 1度見たことがあるが、確かにかっこいいとは思った。好みではなかったが…。


 そんな王子と転校生(?)の彼で人気を2分するのではという話しが薄らと聞こえる。


 外国語の授業中プリントを配る際にチラリと後ろの彼を見てみたが、ルヴァルアとはどことなく似てる気もするが、違う。髪は錆色に近いし、瞳も茶色が強かった。造形は似ていたが、どことなく違和感を感じる。そんなちぐはぐさだった。


 どこかで彼なんじゃないかと期待していたのだと思う。失礼だとは思うが、実際に見てガッカリしたのは仕方がないだろう。

 今朝のニュースで話題になっていたこともあり思い出してしまったのだ。彼の姿を。いつかは朧気で忘れていくのではないか、記憶から消えていくのではないかと思っていたが、そんなことはなかった。いつまでも忘れられない顔と声と姿形。前世で忘れられなかったが、今世では忘れられるかもしれないと思ったがそんなことを考えれば考えるほど蘇ってくるのだ、彼との思い出が。


 残りの化学と生物の授業もしっかり受け昼休みになる。今日は朝遅刻したお詫びに李菜にお昼を奢る約束をしていたから、李菜と2人で食堂に向かった。


 お金持ち高校と言われるだけあって、食堂は広く高級そうな料理が並んでいる。先月1度食べたがそれはそれは美味しかった。

 その一角に庶民でも食べられる値段の料理スペースと自身で作れる調理スペースがある。久々にしえりの料理が食べたいとはしゃぐ李菜のリクエストに応える。次の授業は先生の都合で自習になったから遅くなっても困ることは無い。時間はたっぷりある。


 材料は料理人に頼んで購入できる。全てgで値段を決めるため、きっかり2人分の材料を買った。料理スペースはガラス張りだが個室になっていて、他の人に迷惑がかかることも無い。空いてる調理スペースを借りて、学生証を2人分翳して登録した後に時間を入力すれば学生証が鍵となり、入力した時間中出入り自由になる。便利でとても良いシステムだから気に入っている。そんな高性能のドアを跨ぐと中はシステムキッチンがあり、ざっと10人は使えるのでは無いかという程大きなテーブルが置かれている。

 キッチンにさっき買ってきた材料を並べる。学校のシステムキッチンを使うのは3回目だ。使い勝手は悪くないし、調理器具の場所も把握済み。今日作るのは特製ハンバーグとオムライスに簡単なちぎりサラダとスープだ。お高いお肉がキラキラと光を反射していて、美味しそうだ。

 テキパキと材料を準備し、作り始める。ジューという音とともに玉ねぎのいい匂いが辺りに広がる。2人しか居ないから話しながら料理を楽しんだ。いつも料理しているが、やっぱり誰かに作って食べてもらうのが1番嬉しい。


 李菜は私が落ち込んでいた事に気づいたのかもしれない。しきりに私を見てはニコニコと笑っていた。そんな李菜を私は誇らしく思う。私を大事に思ってくれていることが伝わる。その思いは密かに私の勇気になっているのだから。


 できた料理を2人でテーブルに並べるとそれなりに豪勢になった。李菜と食べるご飯はいつも楽しくて美味しい。前世では味わえなかったものの一つである友だちとの食事を堪能した。


 食事が終わったあと綺麗にテーブルやキッチンを片付けて教室に帰ると、大部分の生徒は先生が居ないのを良いことに転校生に夢中だった。人垣の隙間から彼を見たが、何を考えているのか無表情だった。


 他人に好かれる人も大変だなと他人事のように思った。


 自習が終われば、数学。数学は苦手だから先生の話を聞き漏らさないように集中した。1度当てられたが、しっかり予習をしていたお陰で答えることが出来た。列で当てられたから転校生も指名されていたが、確か入試1位だったようだから、頭が良いのだろう。直ぐに答えていて、それが普通より難しい問題だったらしく普段は褒めない先生が褒めていた。


 ホームルームが終わり、放課後になれば次々に生徒は部活だ下校だと教室から出ていく。数名が転校生の元に来ては校舎を案内してあげると声をかけているのが聞こえた。


 教科書類を鞄に入れ、忘れ物がないか確認し終えたら李菜の席に行った。李菜は私の右隣(真ん中)の列の真ん中で私は後ろから2番目の席だから、割と近い。帰ろ、と声をかけ2人で歩き出す。


「なんか、ごめんね、期待させちゃって」


 駅までの道を歩いている時、不意に李菜が謝った。


「何言ってるの。別に李菜が謝ることじゃない。私が勝手に期待して勝手に落ち込んだだけなんだから。でも、励ましてくれてありがとね」

「なぁんだ、私が励まそうとしてたことバレてたか!」


 ぺろっと舌を出す李菜はいつも通りのおちゃらけた雰囲気に戻った。


「ありがとう、李菜」

「どういたしまして!しえりは私の1番の親友で、私はしえりの1番の味方なんだから!」

「うん」


 他愛ない話をしながら歩く駅までの道は穏やかに通り過ぎていく。夕焼けに染まりかけの太陽が優しく2人を照らしていた。


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