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前世待ち続けた女、今世待ち人来たり  作者: 一 穂(いちもんじ すい)
2/11

前世、待ち続ける女

 

 そんな大人気のヒーロー話には裏がある。


 その青年の心に決めた人は同じ村出身の少女だった。それが私の前世である。


 シェリーは小さな村に生活する娘だったが、当時は美しいと言われ持て囃されていたものだ。

 ルヴァルア英雄記のヒーロー、ルヴァルアもやや野性的だが美丈夫だった。

 捨てられ子のルヴァルアはシェリーに救われた時からの仲良しだ。

 そんな2人が互いに恋心を抱くのにはそう時間はかからなかった。

 だが、それもつかの間王からの討伐命令に傭兵家業をしていたルヴァルアも参加せざるを得なくなった。

 ルヴァルアは旅立って行ったが、その後ルヴァルアの子を身もごっている事が発覚した。

 生まれたのは元気な男の子だった。ルヴァルアを待ちながら立派に育てたが、魔王を討伐し終わった報せが来てからも、いくら待ってもルヴァルアは帰ってこなかった。


『待ち続ける女の独白日記』として私の書いた日記が残っているが、本当にやめて欲しい。なぜっかって?ルヴァルアへの恨み節を分かりにくいように、綺麗事として書いているからである。余談だが、なぜ日記が残っているのかと言うと、息子が頑張って保護を掛けてくれたらしい。そりゃ、自慢の息子ですから!父親の能力を余すことなす受け継いだ、ね。

 そういうことで、500年経った今でも保存状態が良く、歴史的価値も高いということから記念博物館に展示されている。

 恥ずかしいからやめて欲しい…。



 当時はルヴァルアは王女を娶らなかったと有名だったが、帰ってこない時点で他所に女を作ったことは明白。もし違かったとしても、子供一人を女1人で育てることがどれだけ大変だったかを考えれば、最悪の事態を想定するしか無かった。そうすれば、諦めもつくというもの。

 でも唯一良かったことといえば、息子が立派に育ってくれたことだ。息子の前では父親のことを話さなかったが、小さな村だ。それこそ、そこかしこの村人の噂話が耳に入っただろうに、私の言うことを信じてくれた。

 私自身、自分が愛したルヴァルアを悪く言いたくはなかった。少しでも自分は正しかったのだと信じたかったから。



 ___現在続歴2056年


 神楽(かぐら)しえりは、前世の記憶を持って生まれた。前世は今でも有名で語り継がれている『ルヴァルア英雄記』には出てこない、だが歴史的価値の高さから記念博物館に展示されている『待ち続ける女の独白日記』の筆者シェリーという女だった。

 自分が儚くなったのはいつか分からないが、息子を成人させることが出来たことだけは記憶にある。

 500年も昔の過去のことなど、文明化社会の現代では役に立たない。なんせ、陽力といった特別な力など誰も持ち合わせていないからだ。


 500年前、ルヴァルアが魔王を倒し終わって数年した頃には王都から徐々に陽力が失われていった。多くの研究者がこの謎を解明しようと尽力したが、誰1人として真実に辿り着くことができたものはいなかった。1部の専門家にはルヴァルアの悲劇が関係していると言われていたらしい、とラキペディアに記されていた。(気になって調べた)

 ルヴァルアの悲劇がなんかのかは俗説過ぎたこともあり的を射たものは無かった。特に面白かったのは、ルヴァルアは鬱になってしまったからだと書かれていたものだ。あの傲慢で不遜なルヴァルアが鬱になる所など想像もできない。しかし、その後遺体が見つからなかったこともあり、ルヴァルアは不老不死の神になったのだと言われていたこともあるから驚きである。そんなわけが無いことは20まで一緒に育ってきた私がよく知っている。ルヴァルアは季節の変わり目には毎回風邪をひいて拗らせては寝込んでいたのだから。


 陽力にそこまで依存していなかった当時は、多少の不便を感じながら陽力のない生活に順応していき、現在に至る。今では物理学を駆使し作られたものがそこら中に散らばっている。

 教会は陽力を神の力だと崇め奉っていたから大打撃を受けたようだが、普通に街に1つは教会が立っている事と宗教はほぼほぼ変わっていないから、立て直せたのだろう。


 今世で生まれ変わったからには、前世のことなど忘れて幸せに暮らしたい。あんな男なんか忘れて。


 その願望は願望で終わってしまうことをしえりはまだ知らない。


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