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前世待ち続けた女、今世待ち人来たり  作者: 一 穂(いちもんじ すい)
11/11

前世:待ち続ける女の独白日記2

 

 何処をどう来たか忘れた私にルヴァルアは村の特徴を聞いただけで場所を把握してしまった。


「ねぇ、どうやって分かるの?」

 少し眉間に皺を寄せたルヴァルアは数秒後考え込み、ふぅと息を吐く。


「どうせこれから知ることになるし、今知っても変わらないか…。俺には人にはない能力があるんだよ。両親は誰にも話すなって言ったけど、シェリーには特別な」

 今まで不遜な態度のルヴァルアがその時だけは空中を漂う霧のように儚く見えた。


「ルヴァルア、寂しがり屋なの?」


「いや、何の話!?ちげーよ。お前、これ聞いて何も思わないのかよ」


「羨ましい!私もやってみたい!」

 そう言う私の手と繋いでいる逆の手で頭を撫で始めた。あまりの勢いに無意識に目が閉じる。ちゅっという音と同時におでこに柔らかいものが当たる。目を開けると出会って1番良い笑顔のルヴァルアがそこにいた。暑い。きっと私の顔は今真っ赤な果実のようになっているだろう。


「な、なにするの!」

 照れ隠しでルヴァルアから顔を背ける。くくっと声を出して笑うルヴァルアはやっぱりかっこいい。今までの人生で最高にかっこいいと思う。ずるい。


「日が暮れる前に行こうぜ」

 そんな私を見透かしたようにルヴァルアは余裕ぶるのだ。でも、知っている。ルヴァルアも耳を赤くしていることを。


「うん!」


 ◇◇◇


 ルヴァルアの能力もあり、シェリーとルヴァルアは日が暮れる少し前に無事に森と村の境目に出ることが出来た。行きはあんなにも木々が邪魔をしていた森は、帰りは祝福するように木漏れ日が降り注ぎ、どこからかお花の綿が飛んできていた。それを眺めながら、ワイワイと帰ってこれたのはルヴァルアが居たからだ。ルヴァルアは神様に愛されているのだと、何故か自然にそう思った。そもそもルヴァルアは道中、珍しい妖精がいるだの遠くの生き物を見てあれは世界に1頭しかいない伝説の生き物だの言い出した。私には実物が見えないものと遠すぎてよく分からないものを言われても…!という状態だった。だから、降って湧いたその思いにも何の疑問も抱かなかったのかもしれない。


 シェリーとルヴァルアが家に帰ると未だに明かりがついていた。隙間から覗いてみると、祖父夫婦が居間に我が物顔で座りながらブツブツ文句を言っていた。ルヴァルアはシェリーの手を引き、戸口に向かう。

 ガラッと戸を開けると、2人の間抜け面が見えた。


「誰だ、お前…!それにシェリーもいるじゃないか!」


 祖父が立ち上がり、大声を出す。

 汚い、口から唾飛んでる…と思っている間にルヴァルアは話し出した。


「シェリーの祖父じゃありませんよね、貴方」

 何を言ってるんだ、ルヴァルアは。彼は確かにシェリーの祖父だと言っていたし、父と似ていた。別人なわけがない。


「な、何を!巫山戯るのも大概にしろ!」

 祖父は顔を囲炉裏の炎よりも赤いのではないかと思うほど真っ赤にして怒り出す。


「なら、シェリーの耳の裏を見てください。シェリーの家は代々耳の裏に羽の形の痣があるんですよ」

 確かに、その通りだ。シェリーの父もその祖父も耳の裏に痣があるのだと父は言っていた。祖父と名乗る人物が余りにも父に似ていてそれを確かめる前に信じてしまった。


「そ、そんなのデタラメだ!」

 祖父と思われた人物はまだ言い逃れをしようと喚いている。ルヴァルアは彼の近くに行き、耳元で何かを囁いた。みるみる相手の顔色は赤から青に変わっていく。


「お、俺は…、おい!帰るぞ!」

 祖父と思われた人は隣の女を引っ立て家から出ていった。


「なんて言ったの?」

 耳元で何を言ったのか気になり、ルヴァルアに聞くが、


「シェリーには早いから秘密」

 と言って取り合ってはくれない。


「ふーんだ!良いもんね、ルヴァルアなんか!私だってルヴァルアに秘密の1つや2つあるもんね!」


 2人だけになった家に響く声。その声は暖かい空気とともに外に流れていく。密かに様子を見ていた両隣の家の人達は「良かった良かった」と言い合いながら、それぞれの家に入っていった。


「それにしても一緒にいた子は誰だろうねぇ」

 左隣の家の奥さんが旦那さんに聞く。


「なぁに、お母さんと同じで良い男でも捕まえてきたんだろうて。あんなに美人だったしなぁ」

 それに応えた右隣の家の旦那さんの背中を奥さんがバシッと叩く。


「でも、シャリアさんは本当に良い男捕まえてたわよね!あんな良い男は中々おらんわ。あんさんは一生敵わんよ」

「ほんまやわぁ。私もあんな良い男見つけたかったんにこげな男になってもうて…」


 奥さんたちに結託された旦那たちはにすまん、と言いながら奥さんにどつかれつつそれぞれの家に入っていった。



決して今世でイチャイチャが待ち遠しくて前世に盛り込んだわけではありませんよ、ええ。

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