前世:待ち続ける女の独白日記1
ここから少し過去(前世?)編です。
初々しいシェリーとルヴァルアになっていたら良いなと思います。
ルヴァルアと出会ったのは本当に偶然でその日両親を無くした私は1人不可侵の森に入った。今思えば、両親の後を追おうとしていたのだろう。たった10の私が村で生活することがどれだけ大変か、周りからの視線にも耐えられなかった。父方の祖父が隣町に居るからおいでと言われた。祖父を初めて見たが、その顔に嫌悪感が浮かんでいる事は子供ながらに分かった。私は必要とされていなかったのである。
私が居ないのを良いことに一緒に来た後妻と、見目が良いからどこぞの下級貴族に嫁がせようと話しているのが聞こえた。
不可侵の森は誰もが入ろうとはしないが、誰にでも入るのを許してくれる。見たことも無い木々が生い茂り、道無き道を歩く。時折、棘の生えた植物に掠ったのか、足がチクリと傷んだ。これを抜けたらきっときっと私も両親の所へ行ける、そう思うだけで足は勝手に歩みを進めた。どれくらい歩いただろうか。それまでは前に光など見えなかった森が段々と拓けてきたのが分かった。私は思わず駆け出した。その先に終わりがあることを信じて。
拓けた先は人1人住めそうな洞窟だった。光は焚き火で、誰かがいることを証明していた。焚き火の傍にはなんのか分からない木の実と動物であっただろうお肉。美味しそうだ。そういえばお腹が空いた。こんな時にまでお腹が空くなんてどうかしている。食べなければ両親の元へ行ける。
突然ガサッと葉っぱをかき分ける音がした。音の方を向くと、自分と同じくらいの少年らしき人がいた。その少年は赤銅色の髪に金色の目をした美少年だった。手には近くに川でもあるのか魚と何かの葉っぱが握られている。
「あんた、誰?」
良かった、言葉は通じる。言葉使いは悪いが…。
「私、シェリー。あなたは?」
「俺はルヴァルア。珍しいな、いや初めてか、ここに人が来たのは」
少年_ルヴァルアは1人でふんふん頷きながら何やら納得した声を上げた。
「あなた、ここに住んでるの?」
あー、と上を向きながら少し考えたあと、ルヴァルアは答えた。
「まぁ、そうかな。俺は他と違うらしくて最近この森に置いてかれた」
「寂しくないの…?」
「どうってことないかな。親が亡くなったここ1年は見知らぬ他人みたいな人だったし。親は俺に1人でも生活できるよう躾てくれたし」
「そうなの、良いわね…。ねぇ、聞いてくれない?私の話。もう誰にも話せなくなった話」
「…まぁ、良いけど。じゃ、好きなとこに座んなよ」
シェリーはルヴァルアが座ったのを見て隣に腰を下ろした。シェリーはぽつりぽつりと両親が亡くなったこと。いつも私の話を聞いて愛情を与えてくれた人がいなくなって寂しいこと。自分の周りには誰もいないこと。祖父がシェリーを都合のいい道具にしようとしていたこと。
ルヴァルアは静かに聞いてくれた。涙があふれて、言葉が出なくても急かさずただそこにいて、偶に相槌を打つだけ。でも、それだけがシェリーには有難かった。一通り話終わるとシェリーは自分がスッキリしていることに気がついた。誰かに話を聞いてもらうだけでこんなに心が晴れるのか。隣に座って聞いてくれたルヴァルアに感謝しなければ!グズグズになって鼻水が垂れている鼻と強引に拭った赤くなっているだろう目を見られるのは恥ずかしかったが、今感謝を伝えなければならないと思った。
「あの、話を聞いてくれてありがとう…ルヴァルア」
シェリーは自分が自然と笑顔になっていること気づいた。シェリーが例え一時でも、晴れやかな気持ちになれたのはルヴァルアには自覚は無いだろうが、正しくルヴァルアのお陰だということは何よりもシェリー本人が感じている。当然、何かお礼をしないといけないと思い至る。ぱっとルヴァルアの方を見ると彼は目を見開き、耳と首まで赤くしてぽかんとこちらを見ている。熱があるのかもしれないと、ルヴァルアの額に手を押し当てる。少し高めの体温ではあるが熱は無さそうだ。なっ、と言葉とも取れないような声を出して、正気に戻ったルヴァルアはそっとシェリーの手を取り「なんでもない」と呟いた。本人がこう言っているのだ。シェリーが無理に言うことでも無い。シェリーはさっき思いついたお礼をしようと何がいいか問いかけた。
「あの、話を聞いてくれたお礼に私に出来ることがあれば言ってください!」
それを聞いたルヴァルアは困惑気味にシェリーに問いかけた。
「お前、帰っても1人なんだろ?」
確かにその通りだとこくりと頷く。改めて突きつけられると悲しい。
「なら、俺がお前と一緒に過ごしてやるよ、お前が良いなら、だけど」
嬉しい申し出だった。彼が優しい心根の持ち主なのはこの数時間で分かった。だって、しきりに私を気にして、寒くないかとか腹減ってるなら食えよとかお節介を焼いていたから。
「い、良いの?本当に良いの?これじゃお礼にならないよ!だって、ご褒美だもん」
そんなシェリーの言葉を聞いてルヴァルアは顔をくしゃっとさせて笑った。シェリーの手を取っているルヴァルアの手はじんわりと温かかった。
「俺が良いって言ってるんだから、良いんだよ。お前にご褒美やってる訳じゃなくて、俺のご褒美なんだからな」
自分と同じくらいの歳の少年をこんなにも心強く思ったのは今日が初めてだ。
「お前じゃなくて、シェリー。シェリーって呼んで。これからよろしく、ルヴァルア!」
これがシェリーとルヴァルアの1番最初の出会いだ。一生、忘れることの出来ない素敵な思い出。
ルヴァルアはスパダリになるでしょうね、いやならなければならない!




