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呪術屋  作者: 西屋東
10/10

終章

この作品にはBL要素が含まれています。

ご注意ください。

 夜、部屋の小窓から空を見上げて貴浩は笑んだ。

 俊哉や瀬川に好かれて、自分を必要としてくれる人が居るのだと、嬉しく思う。

 親や親族から縁を切り、独りになった時もう人間など信じはしないと思ったのに。俊哉や瀬川なら、信じてみてもいいと思える自分が嬉しい。

(いや・・・もう信じている、か・・・)

 そう思って、貴浩は自分の左手首を見た。そこには薄くだが、一本の切り傷の痕が残っている。親が離婚する時に親権の事で揉めているのを聞いて、自立すると言う前にカッターで切った痕だ。結局、そんなことしても両親に気付いてもらう事も出来ず、そして命を絶つことも出来なかったのだが。

 あの時あんな事をしたのはきっと、命を絶つ事よりも、両親の気を引きたかったのだろう。次の朝に両親がこの傷に気付いたら、きっと心配してくれるだろうと。

 土曜の夜に切って。日曜の夕方に目が覚めた。自分の部屋で。手首の傷は血が固まっていて、少しだけ痺れたような感覚があった。

 その時に自分は必要とされていない、両親は本気で自分が居なければいいと思っていたんだと気付いた。だから、日曜の晩に自立すると申し出た。


 傷を見ながら貴浩は回想する。

(・・・そういえば、この傷に気付いたのってトシだけか)

 傷を隠すでもなく、普通に生活しているが、今までその傷に気付いたのは俊哉だけだと今更気付く。

(トシには、怒鳴られたなぁ・・・)

 俊哉がこの傷に気付いたのは、一緒に住み始めてすぐの事だった。その時俊哉は貴浩を怒鳴って、挙句の果てには貴浩の頬を一発思いっきり殴った。

『そんな事したら痛いだろっ!両親の気を引くために自分を傷付ける事ないじゃないかっ!』

 そう怒鳴られたのを今でもハッキリと覚えている。

 哀れみでも、同情でもなく、俊哉は怒りをそのままぶつけてきたのだ。

 思い出して、貴浩は小さく笑む。

 ――トントン。

 急に部屋のドアがノックされて、貴浩は振り返った。

「入れよ」

 扉の向こうに立つ俊哉へ、そう返事をする。

 ドアが開いて俊哉の姿が見えた。

「ごめん、貴浩の顔が見たかっただけだから、用があるわけじゃ・・・」

「いいって、入れよ」

 そのままドアを閉めようとする俊哉を、貴浩は手招いて部屋へ入れる。

「・・・そんなに簡単に俺を部屋に入れてもいいの?俺、もしかしたらこの間みたいに手を出すかもしれないよ?」

 部屋へと入りながら、俊哉が訊いた。

 貴浩はそれに笑って答える。

「別にいい。何か昔の事思い出してたら、やっぱり俺の人生でトシより大切だと思える人間っていねぇし。多分この気持ちって友情とか愛情よりも、もっと上にある」

「・・・・・・冗談、何もしないよ。俺は別に見返りが欲しい訳じゃない。だけど貴浩がそう言ってくれるのは凄く嬉しいよ」

 俊哉はふわりと笑った。貴浩は一瞬それに見とれる。それほどにまで、落ち着いた自然な笑みだった。

「・・・・・・わりぃ。今日の昼言った、もしトシと瀬川が呪詛を掛けられたらってやつ、やっぱ俺、トシを先に助けると思う。だから瀬川はトシが助けてやって。俺、何があってもお前だけは失いたくない・・・」                 

 そう言って少し照れたのか、貴浩は視線を小窓の外へと向けてしまう。

 俊哉は少し驚いたようだったが、すぐに嬉しそうに笑った。

「わかったよ。ありがとう。そろそろ部屋に戻るから。これ以上はちょっとね」

「あぁ、何か引き止めたみたいで悪かったな」

「いいよ、じゃぁまた明日」

 俊哉が貴浩の部屋を出て、ドアを閉めようとした時に、貴浩が俊哉を呼び止めた。

「俺の方こそありがとな。今の生活があるのはお前のお陰だ。感謝してる。・・・・・・さぁって、明日もバリバリ稼ぐぞ、コノヤロウ!」

 最後はいつもの調子を取り戻し、少しだけ声を張り上げて、身体を伸ばした。俊哉に言った言葉が、恥ずかしいと思って、それを誤魔化すためだろう。

「そうだね、明日からまたバリバリ働いてもらおうかな。最近仕事、取ってなかったから」

「・・・マジかよ、トシに言ったわけじゃねぇぞ、最後のは。気合だ、気合入れ」

「だから気合を入れて頑張ってもらおうって言ってるんじゃないか」

「冗談っ!折角仕事減ったのに、そんなのってねぇ・・・」

「口は災いのもとって言うじゃないか。じゃあね」

 俊哉が勝ち誇ったように笑ってドアを閉めた後、部屋にはしまったとばかりに、呆然と立ち尽くす貴浩だけが残された。

 やはり言葉で貴浩が俊哉に勝てる事はないのである。




 何か思いつめている事は無いでしょうか。

 事務所『呪術屋』の二名の営業者はそのようなお客様を随時お待ちしております。

 依頼の際には次の事にお気をつけ下さい。

一、相手を死に追いやる呪術は取り扱っておりません。

一、営業者二名の本名はお教えすることが出来ません。

一、呪術に失敗した場合、呪詛はお客様本人に掛かる事になり、術者は一切の責任を負いません。

 以上の事をふまえた上でご依頼下さい。

 追伸 

 この度、呪詛返し・呪詛祓いも始める事に致しました。そちらをご利用のお客様はどちらかをご記入の上、ご依頼下さい。

                              『呪術屋』営業者一同

 


                                      〜終〜

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

続編も上げていきますので、今後もよろしくお願いします。

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