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拙作を読んでいただける方がいる限り頑張って続けます。更新はこんなスピードですが……
「グローワさんは黒魔術は見たことありますか」
「無い。使える奴を以前見たことあったがすぐに使えなくなった」
「でしょうね、本来黒魔術とはそういうものですから」
一応の確認として聞いてはみたが予想通りの答えを聞くだけになった。そう黒魔術は人族が使うことが可能ではあるが、本来使うことを想定されていないものだからだ。
「魔術痕は黒なのか?」
「いえ、この場の痕跡は黄と赤ですね。黒は今感じてます」
「は?」
痕跡は普通の何かを拘束した魔術をしたものを読み取ることができた、これは魔術が使用されてそこまで時間が経っていないことで読み取れたものだ。その魔術が霞んでしまう程異様な存在感を感じるものは赤の魔力痕だ。
魔術による魔術痕は絵の具で何かを描いた跡のようなものが残る。薄い紙に描いたものが裏写りして机に残るようなものだ。それとは違うのが魔力痕だ。
魔術が手書きによる絵なら魔道具は水に濃いめに溶かした絵の具をキャンバスに向かってぶちまける行為と言える。残る魔力痕もぶちまけた場所から読み解けるものなどないのだが、それが緻密な彫刻のように残るのならば話は別だ。
「黄は普通の魔術師ですね、収束にむらがあるのでまぁ精々三人前の腕前でしょうね」
「おい、それより黒を感じてるってなんだよ」
「赤による魔力痕は普通の魔道具では絶対にあり得ない残り方をしてるので最低でも遺物級でしょうね」
「無視すんな!会話しろ!」
魔道具によって魔術痕が消えなかったのはただただ運が良かっただけだろう。この痕跡だけならばそこまで警戒はしなかった、なぜなら魔術師としては明らかに自分より格下。たとえ神具級の魔道具を使われたとしても切り札を切れば逃げることができると確信があるからだ。
「感じでいる黒なんですが、正直言って今すぐ街へ戻りたいです」
「は?お前がそう言うのか?」
しかし、今だに距離があるはずなのに感じてくるこの魔力は駄目だ。命の危険しか感じない。魔術による対抗は格上相手でもどうにかできる自信があった。でもそんな慢心は周辺の魔力を感知した瞬間に消え失せる。
技量や工夫、そう言ったものでは対処できない圧倒的な力。大津波を傘で防げないようにあまりの大きな存在には対抗なんてできない。さっさと逃げることが唯一の命を助ける方法だ。
「グローワさんもいつも言ってるでしょう、命よりも大事な宝なんぞないって」
「よし、もういい。先頭は俺、モンスターとは戦わず全力で街に戻るぞ。離れずついて来い」
やっぱりこの人には正直に話すことが正しかった。探索者の中には「無理」だの「不可能」という言葉を伝えると「他では無理だが私ならできる」と謎の自信による無謀な探索をこちらにも強いて来る存在もいるからな。でも、
「申し訳ありません。私の予想が甘かったみたいです」
「何だと」
「来ます」
言い終わった瞬間、空気が変わった。
「おい、対策は?!」
「見てみないと何とも。会話で何とか出来れは助かる可能性もあるので合図をするまでは攻撃はしないでください」
「会話できるのか?」
「まだ末期ではなければ可能です、精々祈っててください」
そう、まだ助かる可能性はある。私は死にたくなんてないしこんな所で数年掛で準備した切り札も失いたくはない。
「頼みますよ、『不幸な幸運の男』さん」
「そっちこそしくじるんじゃねぇぞ『慈愛満ちた白』」
「その呼び名は好きじゃないです」
「俺もそう呼ばれるのは嫌なんだよ」
お互いに軽口を叩きつつも体勢を戦いへと整えていく。二人の準備が終わった瞬間、目の前に現れたのは全身が真っ黒な人の形をしたナニカであった。
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