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言い訳させていただくと仕事の繁忙期とぎっくり腰に全ての体力を吸われました……
全くツいてない、この神域に来てから何度そう思ったか。
せっかく前の神域で神具とも認定されそうな良い道具を手に入れたのに、使うためにはこのバカ女が必要になる。前の持ち主は他世界の可能性を摘んでしまう危険な代物、とかなんとか言っていたがそんなもの俺には関係ない。俺にとってはお手軽に生きた壁を手に入れれる道具でしかない。
なのに、出てきたのは背は低く見たこともない服を着たガキだった。しかも妙な油の匂いに殴られたような跡が見てわかった。こいつはどっかの奴隷かもしくはそれに準じた身分のやつだと、着ている服はしっかりとした生地に見えるしこいつはどっかの貴族が飼っていた可能性もあるな。
「なんだよ、今回は大外れじゃねぇか」
貴族なんかが飼うとしたら技術奴隷か知識奴隷だ。街では重宝される技術や知識を持つのかもしれないが、ここは神域で俺が欲しいのは壁としてどれだけ長い間耐久を維持できるかだ。
「あーあ、賭けは大負けじゃない。どーすんのよ」
「チッ!とりあえずこいつを使うなり売るなりするぞ。オラッ!いつまでボケてんだよ!さっさと立て!」
とりあえず帰るまでの壁として使うための準備がいる。
「おい、首輪の準備だ。俺は こいつに制限をかけなきゃならんからな」
「えー、せっかくだしどんな声してるか聞いてからでいいじゃーん。それにあれって疲れるんだよねー」
本当についてねぇ、この女がこんなに頭がゆるいとは思わなかった。今から行うことは普通の人間にしていたことがバレたら協会どころか国からも追われるようなヤバいことだ。こいつの理解力が足りてないのか、危機感が足りないだけなのかは分からないがそんな間抜けな理由で首に縄をくくりたくねぇ。
「おい、お前も壁になりたいのか」
これ以上時間はかけられない。これ以上駄々をこねるなら致し方ないがこいつも身を守る壁として消費した後に代わりの奴を探す必要がある。手間は確かにかかるがこいつでないといけないと言う理由はない。
「わ、わかったわよ。[腕拘束]これで良いんでしょ」
こちらの本気具合を察したのか手早く魔術による拘束をする。急に両手が不可視の何かに拘束されて驚いたのだろう。目を白黒させているガキに話しかける。
「お前さんは運がなかったな。じゃあ次があるなら頑張りな」
そうして俺は手に持った魔道具を起動させた。
※ ※ ※
腕が急に動かなくなったと思った瞬間、喉に焼けるような痛みが走った。痛みは内側からで酷い風邪をひいた時でもここまでの痛みと言うのは経験したことないものであった。
目の前に急に現れた杖を持った女と、手に金属質の輪を持った男はこちらを見る目は現代の日本にいるすれ違う他人よりも冷たい目をしていた。あの目はこっちのことを物としか見てないと経験でわかる。
危険を察して逃げるという選択肢を選ぶ前にそれはやってきた。
喉の強烈な痛みで声を出したいのに口から漏れるのはヒューといった呼吸音のみで、悲鳴を上げることも出来ずに手で抑えるが、見えない火にでも炙られているかのように熱さと痛みが徐々に増していく。
「あーあ、可愛い顔が台無し。色々と撒き散らしちゃってかわいそー」
「おい、黙って準備を進めろ。」
「はいはーい」
男と女の声が聞こえる、近くで話しているはずなのに遠くに声が聞こえるのは痛みのせいだろうか。
「がああああああああああああああああああ!!!!!」
声が出た。痛みによって生み出された原始的な声。意味などもたず、痛みのみを訴える音。
今まで生きてきた時間でも最大級の痛みだったが、頭の中は痛み以上の感情が渦巻いていた。
怒りだ。
今まで受けてきた理不尽な暴力、急に知らない場所に連れてこられどうすればいいのか、言葉わからず何を言っていたのかわからないがただモノとして消費するのだという理不尽。生物は生命に関わるストレスにより絶滅するか環境に適応しようとする。彼は後者だった、たったそれだけ。
少年は今までの世界では一生芽が出ることがなかったとある才能を持っていた。それは人によっては羨ましがられるものかもしれないが多くの人にとっては忌避された才能である。
その才能をこの世界では黒魔術と呼ぶ。
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