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※いじめの描写があります、この話は飛ばしても一応大丈夫です。
急に暗い場所から明るい場所に連れてこられた。この世界に来た最初の感想はそんなありきたりなものだった。
「なんだよ、今回は大外れじゃねぇか」
「あーあ、結局大負けじゃない。どーすんのよ」
「チッ!とりあえずこいつを売って足しにするぞ。オラッ!いつまでボケてんだよ!さっさと立て!」
次に感じたのはどの場所に行っても虐げる奴はどこでもいるし、僕はいつも虐げられる立場なんだということだ。
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高校の3年間は比較的には安全だった。中学と違い学力に見合った知能を持つ同級生は多かったためか、他人を積極的に攻撃する暇があれば自身の学力を高めることに時間を割くのを優先したためだろう。
しかし新しい場所に行ったとしてもどうやら古い場所の繋がりは綺麗消えてくれるわけではないようで、今日も帰り道にくだらない奴らに絡まれ不当な暴力を受けていた。
体を縮こませ両手で頭を守る。足は折り曲げて体の下に回し暴力は背中で受ける。背中で受けることでダメージを最小にできるらしいが、こんな知識は体感して実感はしたくなかったなぁ、なんて思っていたところに。
「おいおい、何甘いことやってんの」
一番会いたくないやつの声が聞こえた。くだらない奴らの中でも一番ためらいを持たないやつ。
「エージ君、それって」
「こいつカネ持ってこいって言ってんのに言う事聞かねーんだろ?だったらさー体に覚えさせねーと」
背中に何かの液体をかけられたと思った瞬間、鼻に感じたのは油の匂いだった。
「ちょっとそれはやばくない」
「いーんだよ、バカには言ってもわからねーんだから」
顔を上げるとニヤニヤとした笑みを浮かべ手には何かのオイルと思しきものを持っていた。
さっきまでの痛みによる不調のせいですぐに立ち上がれない。あいつの手には銀色に鈍く光るライターに小さな、しかししっかりとした火がともっていた。
震えた声で静止をかける。
「や、やめろよ!」
「はぁ?なんでだよ。テメーが金持ってこねーのがわりーんだろが、だからやめねーよ」
立ち上がれない、痛みもまだあるが恐怖に足が震えて力が入らない。
「あああああああああああああ」
喉が痛い、泣きそうだ。でもこいつらの前で無様に泣くのは嫌だ。なんで理不尽な暴力でこんな目に遭わなければいけないんだ。
恐怖と同じくらいの怒りが湧き上がると同時に立ち上がれていた。
「あああああああああああああ」
意味を持つ言葉は出てこなかった、ただこいつの思い通りになるのが気に食わなかった。冷静に対処をしようなんてものも思えなかったからかライターを持ったやつに手を広げタックルを仕掛けることしかできなかった。
「おい、くせーんだよ。くっつくんじゃねーよ!」
「エージ君まずいって今つけたらエージ君も」
「ならこいつを引き剥がせよ!」
自分を引き剥がそうと取り巻きが近づいてくる、複数の人間に掴まれると何もできなくなってしまう。なら最後にこいつに一発でも殴ってやる!
掴んでいた服から手を離し、拳を握る。狙うは顔だ、筋力が優れているわけではない腕では胴体を狙っても効果が薄いだろう。ならば顔面、できれば眼球近くを狙ってやる。
殺意とも呼べる程の感情を込め振り上げ、自身の体を顧みずに力を込め振り抜いた右腕は狙った顔をする抜けた。
「え」
本当に驚いた時はまともな言葉が出なくなるものだったと今なら思える。顔面をすり抜けた右腕はそのまま慣性の法則に従って体も向かったが、体も何も当たる事なく通り抜けていった。
そしてついには地面も自分を支えることはなくなり、僕は底へと落ちた。
なんと!評価を!いただきました!
これからも頑張って書きますのでよかったら評価他にもお待ちしてます。