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「暗いなぁ」


 酷い風邪をひいた時のように喉が痛い。出せた声もガラガラでまるで自分の声ではないようだ。

 寝かされていたベッドは薄暗い部屋の中で目を凝らしてみると刺繍なんかも入っているようだ、肌触りも良いことから拘置所ではなさそう。

 しかし、壁には窓はなく。唯一の出口である扉には見るからに金属で出来てそうな装いが見て取れる。


 (これは精神病院なんかに入れられたか?)


 さっきまでの自分自身の精神状態が普通だっだとは思えないし、体には殴られたような痛みは無いし着ている服も病院服のようなワンピースだ。


 (それでも、せめて下着くらいは着せてほしかったな)


 つまり自分はいじめのストレスで頭がぶっ壊れて幻覚でも見てしまい、周りへ何かをしてしまったため病院へぶち込まれたのでは無いかと思う。

 どこまでが現実かは判断がつかないが、コスプレをしている男女に暴行されかけた所は確実に自分の頭が作り出した『まぼろし』だろう。

 もしかしたら通行人にこちらから暴力でも振るってしまったのかもしれない。


 その時は素直に謝るしか無いが、今は薬でもなんでも飲むからさっさと日常生活に戻りたい。そんな気持ちでいっぱいだったのに、扉から現れたのはさっき見たばかりの『まぼろし』だった。


 ※ ※ ※


 部屋の外から見る限りだと落ち着いているようだった男は、ベッドから上半身を起こし周りを見渡していた。


「起きた瞬間に黒の魔術が吹き出ないのは助かるな」


「地下牢でも良い部屋ですね、調度品なんかも中々なものを揃えてますし」


「そりゃな、お前みたいなやつを本当はぶち込んでおく場所だからね」


「私が入ったら完全に無力化されますよ、部屋に入っていないのに影響が出てます」


 ほらこの通り、と右腕を目の前まで掲げぶらぶらとさせる。腕は肘から先が完全に脱力されているようで指の先が開ききっていた。


 そんな主張などは知らんとばかりにガンデイは薄暗い部屋から男がいる部屋を小さな窓から覗き込んでみるが、男はこちらに視線を向けもしない。あちらからは見ることができないからである。


「声までは聞こえないのですか?」


「さすがに無理だ。こちらから中へ通さず、外へ出さない。音も含めてだ」


「なるほど、唯一の例外は覗き窓だけというわけですね」


 なんと、それはこちらの都合に大変よろしい。


「ではグローワさん、私を抱き抱えて部屋に入ってください」


「嫌だ」


 間髪入れずに断ったよこのおっさん。


 この反応速度は何か考えがあって断ったのではなく、勘で断っているな。ならばこちらは外堀を埋めさせてもらうだけだよ。


「彼に話をしなくちゃいけません。それはこの場では私が一番適任でしょ?でも部屋に入ると確実に私は芋虫のように這いずってでしか近づけません。もちろんそれでも私は構いませんが彼に敵意が残っていた場合私は確実に命を落とすでしょう。その時はもちろん私以上の適任者が来るまでグローワさんには彼をこの部屋に留めてほしいですが、」


「グローワ、すまないが」


「あぁ、わかった。わかりました。これ以上屁理屈を聞いているとどうにかなりそうだ!」


 必死の説得が通じたらしい。感動ものだな。


「えぇ!グローワさんなら快く引き受けてくださると信じてましたわ!」

 

「不幸には底がないことを改めて認識できて俺も嬉しいよ」


 さて、まずはこれで盾は準備できた。あとはまた賭けをすることになるが、今回は勝ち目が見えているし、なんならリターンが大きい。ローリスクハイリターンなんてこの世界では珍しいのを見逃すことなんてできないね。


「さて、では鬼が出るか蛇が出るか。シュレーディンガーの猫を暴きに行きましょう!」


「どこの格言だそれは」

 背中に投げかけられたガンデイの言葉についつい笑みがこぼれる。


「彼ならわかるかもしれませんよ?」


 さぁパンドラの箱の開封作業だ。

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