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生存報告です
自分を知るものなどいない異世界で、少年は経験のない痛みを受け普段の悪意以上の殺意を身に受けたことで正常な思考というものを喪失していた。
喉が痛い。痛みしか感じない。目に映るのものは見知らぬ二人。通じない言葉を何か言っている。
格好は現代日本には見慣れない格好だ。コスプレか?しかしさっきの男は剣を持ち暴力も振るってきた。
わからない。何もわからない。わからないものは怖い。怖い怖い怖い。
こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ。
定まらない思考の中で目の前の何かが飛んできたことに驚き、体に硬直が起こる。手などで防ぐと反射的な行動が起こる前に目の前にあるモヤが飛んできたものを弾き飛ばした。
乱れた思考ではそれは攻撃と感じることはできない、しかし周りのモヤは自動的にそして効率的に攻撃を行なった対象へモヤを伸ばし反撃を試みる。
それが私の狙いだ。
物理現象に干渉するほどの密度を持っていようが離れている対象へ攻撃を行なったのだ。つまり自分の周りには黒魔術による魔力は減少し、近づくことが逆に安全地帯を生み出す!
今回で有効そうな切り札は4回は使えるが、使うほどこちらの体が持たない。なので一番のとっておきを使い消費を最小限で終わらせる!
私の四肢は自分の体ではない。幼少の頃に負った大きな怪我で両腕は肘から先、両足は太ももの付近から先の部分は魔導技術による義肢で生活をしている。
両親が用意した義肢は国元では最高峰の装具士が作ったものらしく、装着者の魔力を吸収し成長するというとんでもない代物らしいのだが。
(文字通り身を削る行為だが、死ぬよりマシ!)
魔力を吸収する物体そのものは世界でも珍しいものではない。それこそあらゆる物体には魔力がどんなに微量でも付与されているのだから。
しかし、魔力を吸収できる量というのは上限が存在する。そこらにある石には義肢として機能させるほどの魔力を込めることなどできない。それができているというだけでとんでもない代物だというのは幼いながらに理解をしていたが、自分で調べたところ小さな国であれば国宝になるほどの価値がある品だと分かった時は嫌な汗をかいてしまったものだ。
ゆえにその義肢を効率的に使う方法を考え、尚且つギリギリまで失わずに済む方法を模索し続けた。その結果が、
「[右腕に示したる契約は履行される]」
義肢そのものを媒体とすればどのような状況でも対処はできるだろう。しかし次に続かない、それならと考えた方法が義肢から枯れない程度の魔力のみを取り出して使う方法だ。
「[配置されるは正位置]」
純粋な生命力とも取れる魔力では相手に影響を与えることはできない。よって取り出した魔力に指向性を持たせるための真言を、本来一言で済む言葉を繋ぎ紡ぐ。
「[世界に座す我が生よ]」
薄くなったモヤを眼前に右手を相手の胸の辺りに当てる。
「[その正を示せ]」
自らの右腕から白い光が溢れ、黒いモヤを払っていく。モヤの隙間から見えた服は今は懐かしく感じる詰襟の黒い学生服のようだ。
「[白の波動]」
うめき声は消え。
「あらためて、私はビアンカ・ヴィーリル。あなたのお名前は?」
もう、痛くない。
相変わらずの遅筆ですが、放り出さずに続けていきます。




