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「ああああ、うあああ!!!」


 これはどっちだ?声を出しているのはまだ間に合う証拠だが、出している声に理性は感じられない。もし黒の魔力によって精神が死んでいた場合、体内で精製された魔力が尽きるまで周囲の生命に対して攻撃を行い甚大な被害を残す。


 ならばまだ対処が可能なうちに潰すのが重要なのだが、まだ術師の精神が残っているのなら殺すよりも暴走を止める方がこちらのリスクを大きく減らせる。


 ここで取るべき選択は、


「こんにちは、私はビアンカ。こっちの不幸な男性はグローワさん。あなたの名前は?」


 会話を試みることが最善と見た。

 

 うめき声で意味を持たない声を発している姿にはすぐさまの攻撃を行いたくなるが、ただの錯乱を起こしているだけならば鎮静させてやれば危険な戦闘を回避できる。


「急に色々なことが起こっていて混乱しているかもしれない。でも落ち着いて私の話を聞いて欲しいの」


 ゆっくりと子供に聞かせるように穏やかに語りかける姿に何かを感じ取ったのか、目の前の黒い魔力の塊を撒き散らしていた存在はうめき声を止めた。


 これは、戦闘を避けるのは無理かもしれない。表面上は魔力は落ち着き魔力に包まれた人物は大人しくこちらの声に耳を傾けているかのようになっているが、あれはこちらを観察している。


 それでもゆっくりとなるべく低い声で声をかけ続ける。自分は神域を探索者としての権利を持って入っていること、あなたは許可を得ているか?もしないのであれば私が手伝って正式に許可をもらい改めて来たらいいなど、時間をかけて取り止めもないことを話す。


 あちらが様子を伺っていたのであれば、こちらはこの硬直を打開する時間を稼ぐことをしていた。


 そして


「ところで、何か算段はついたのかしら?もしないのであればその物騒な魔力を消してもらえると安心できるのだけれど?」


 会話を切り上げると同時に後方に待機していたグローワから先ほど拾った盾としてはもう機能しない木の残骸が投擲された。


 会話の合間で後ろに控えるグローワにこっそりとだが念話を送り盾を投擲してもらった。引き伸ばした会話をしていて感じたのは言葉が通じていないのではないか?という疑問だ。


 子供でも知っている神域への無断侵入の恐ろしさ。知らずに迷い込んでいたとしたらそこで動揺が出るだろうし、知っていて侵入しているのであればここまで攻撃をしてこないのはそれはそれで意図が読めない。


 もしかして言葉そのものが通していないのであれば言葉による鎮静は全くの意味を持たないものになるという恐ろしい事実だ。


 ならば残った手段は強硬手段による行動の停止だ。


「引いて!!!」


 なかなかの速度で投擲された盾の残骸は真っ直ぐに黒の魔力の大元へ向かったが、本来魔力のみでは干渉をしにくい物理物体である投擲された盾の残骸を黒い魔力が弾いたの見て確信を持てた。


 『あれ』は魔力暴走によるものではない。


「つまり正攻法での攻略である物理的なアプローチは意味がない」


 体内に魔力を過剰に生成することでの暴走のリスクはどの生物も持つ。そして暴走を暴力的に止める方法は一貫して物理的な物体をぶつけることでの静止が一番の方法である。


 それが効かないということは自分が知らない何かの魔術を行使している、または未知の魔力暴走の状態である。これ以上の考察は意味がないし、呑気に考えてたらそれこそ命はない。


 さっきの一言でグローワは距離を一気に取った。


 そして私は逆に対象に距離を詰める。


「おいっ!言ってる事と違うぞ!」


 正攻法が意味がないのであればもう一つの方法である黒魔術の暴走による自滅を待つ方法も効果を持つのかわからない。


 本当ならさっさとここから逃げ出して私以外の誰かが知らないところで勝手に解決したらいい、けど今は逃げ出せない。何が起こるかわかないこの場で背を向けるリスクは犯せない。


 ならば、思いついた一番の解決策をすることが命を残す選択となる。


「さて、数年がかりのお金と努力の結晶です。ちょっとは効いてくださいね?」

続きです。

色々あって更新止まってました、ゆっくりとまた投稿していきますね。

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