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初投稿となります、暇つぶしにどうぞ。


「この街で一番の探索者だと?」


 初めての街に来たときに真っ先に行うことは決まっている。情報を集めることだ。


「それは実力の方か、それとも階級の方か?それとも、」


 情報が明日の飯の種であり、身を守る鎧にもなる。


「あぁ、やべー奴も含めてってことか。それでだからこんだけ良いものを飲み食いさせてくれるわけだ。」


 目の前にいる男は他の同業者から事前に聞いていた通り街の情報に精通しているようだ。情報屋といったそちらで生計を立てているわけではないので、少し贅沢な食事と酒で情報が得られるならとてつもなく安上がりで済むと言える。


「吟遊詩人ってやつはどいつも聞いてくることにあんまり変わりがないもんだな。まぁいいか、ならまずはあんたの飯の種になりそうな話題の探索者を教えてやるよ」


 紹介者の目は確かだったようだ。こちらの要望を話さずに先に教えてくれるとはとても助かる。三日程は他の街でのちょっとした小話で稼げそうだが、しっかりと稼ぐならその土地での話題の人物を語る必要がある。


「今一番なのはダークエルフの姉妹、異種族でパーティを組んでる変わり者ども。ガキのくせにおっそろしいくらいの魔力を持つやつなんかもいるが」


 そこでグッと酒を煽り次の言葉を溜める。髭ズラに強面ではあるが何か楽器さえ出来ればこの男良い語り部になりそうな気がする。


「一番となると白と黒だな。話題に上がりやすい上に実力も上位だ」


 こちらも全くの知らない状態で話を聞くわけではない、以前の街へ来た同業者や探索者から話を聞いておくことも大切だ。しかし今聞いた白と黒は聞いたことがない名前であった。


「聞いたことがない?そうだろうな、ここ最近になって話題に上がるようになったからな。それまでは白は単独で活動していたが、2人組になってから色々と注目もされるようになった」


 またしても焦らすように一口木のコップに入った北方の蒸留酒を口につける。あの酒は中々懐が寂しくなる一品だった。男も酒の楽しみ方を知っているのだろう、少しだけ口に含み香りを楽しみながら飲み込んだ。


「白は元々一人で探索をしててな。どっかのパーティに仮に入ることはあったが、正式に所属するってことはなかった」


 次に手に付けたのは揚げたての鶏だ。最近になって飼育が安定してきたのか、この街では比較的安く鶏肉が手に入る。湯気を上げて山と積まれた揚げたての鶏は蒸留酒の香りを消してしまうのだろうが、そんなものは知るかとばかりに男は齧り付いた。


「白は回復魔術に他者を強化する魔術なんかも使えたからどいつも自分のところに引き込もうとしたもんさ。まぁ、白はどこにも所属しなかったがな」


「なんでかって?これはあくまで噂に過ぎないが。どっかの国の貴族様だったらしい、親に望まぬ結婚をさせられそうになって逃げ出したんだとよ」


 酒を一口、揚げた鶏を二つ。


「お貴族様なんだ。平民となんざ一時的ならまだしもずっと一緒になんて嫌なんじゃねぇか、なんて言われてたな。今となっちゃ理由はわからんが」


 一緒に来ていた蒸した芋を手で割り、塩をかけ頬張る。


「あのお綺麗な顔に傷がついたのはこっちに来てからか、元々あったのかそれは知らないがね。そんな一人で行動してた白がひょんなことで黒を拾ってやったらしい。消費奴隷ってわかるか?この街みたいな神域がある所ではあるもんだが」


 消費奴隷、重犯罪者が落とされる刑罰の一つである。借金による奴隷などとは違い消費奴隷として刑罰を受けたものはその名の通り消費を前提として使用される。


「神域のどっかに転がってた黒を拾ってやったらしいぜ。その時に一悶着はあったらしいが白が協会にツテがあったみたいでな。裏から手を回して自分のところに引き込んだって話だ」


 協会とは神域と言われる場所を管理する団体だ。国が管理を行えない神域に対して探索者を監督・管理を行い神域で得た貴重な物品、古代の資料などを適切な金額を査定し公に販売する。


「元々注目されてたんだ。それなのにあんな化け物みたいな黒を引き連れたら余計に目立つさ」


 さっきから言っている『白』やら『黒』やらは通称でもちろんきちんとした名がある彼らにはあるのだが、親しい人物でもない者たちは実力を持つものに対して名を呼びたがらない。

 名前を呼ぶ言葉にはそれ相応の力が宿るからだ。名を呼ぶときに恐れを込めれば恐怖が。愛情を持って声に出せば愛が深く。怒りを込めれば殺意を伴う。名を呼んだ者へと届くのだ。


「初めは白のお決まりの施しか。なんて思っていたやつは多くいただろうぜ。それなのに組んだんだよ、消費奴隷と二人っきりのパーティをな。いや、今風に言うとコンビっつったかな。俺もあん時はやっぱり白は聖女なんて言われているが、結局は消費奴隷を壁にするような奴かと思ったよ」


 手と口を止めずに動き続けていた男が少し止まる。目を閉じ思い出しているのだろうか、それとも、


「今でも思い出せるぜ、同時に記憶から消したくもなるあの光景をな。白は黒を助けたんじゃない、黒から俺らを守ってたんだ」


 そう言って残った酒を煽り、ゆっくりと息を吐く。


「こんないい酒飲ませてくれたんだ、しっかり話させてもらうぜ。『赤黒き謝肉祭』をな」


ご覧いただきありがとうございます。

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