苛立っちゃうんだよねぇ?
人っ子一人いない草原を女の子四人(内一人はおんぶ中)と一緒に街を目指して半日程歩いてようやく着くことが出来た。
いやぁ、おじさんには少しキツかったよねぇ。
両手に花というより周囲に花の状況はきっとアニメ好きな十代から二十代の若者は羨ましいことこの上ない状況ではあるんだろうけれど…おじさんにはきつい状況だったよねぇ。
女子トークなんておじさんには分からないし、下着の話をおじさんが一人いる中でされても困ってしまうんだよねぇ…
異性と認識せずに知り合いのおじさんぐらいで接してくれるのはいいんだけれど、そういう会話はおじさんがいない所でやってほしかったよねぇ。
おじさんは警察さんにお世話になってしまうんじゃないかとヒヤヒヤものだったよ。
まぁこの世界に警察さんはいないんだけれどねぇ?
いても自警団とか警備兵とかだと思うんだよねぇ。
それはさておき、これは定番中の定番だよねぇ。
「貴様何者だ、怪しいおっさんめ!」
「ストレートに言われてしまったよねぇ…」
流石のおじさんも涙を禁じ得ないよねぇ…しくしく。
「嘘泣き…乙…」
「手厳しいねぇ」
とはいえこんなことをしても状況は変わらないわけで…
「身分証を見せてもらおうか?」
ほら、こうなっちゃったよねぇ?
「いやぁ、おじさん身分証持ってないんだよねぇ」
「ほう…?」
門兵さんの目がキランと光った気がするねぇ…鋭い目付きにおじさんガクブルしちゃうよねぇ…ぷるぷる。
「あっはっは、いやぁおじさんが怪しいのは分かるんだけど、なーんの犯罪も冒したことがないちょっと見た目が悪いおじさんだからねぇ」
いや、若い頃に廃墟で肝試しとかやったけど…もう大分昔の事だしセーフだよねぇ?
「アウト…」
「ありゃりゃ」
神様からのアウト判定を貰ってしまったねぇ、これは地獄行き確定かなぁ?
「ふっ…地獄で待ってな…」
「おじさんは実は蜘蛛さん助けた事あるから天国への片道切符所持してるんだよねぇ」
「なん…だと…」
ふっふっふっ、おじさんに死角はないんだよねぇ。
「裏切られた…蜘蛛の糸ちょん切る…」
「どうやら片道切符は期限切れだったみたいだねぇ」
「貴方達遅いと思ったらこんな所で何してるのかしら?」
おっと救世主さんが登場したんだよねぇ。いやぁ別にここで無駄にミレアちゃんと喋ってた訳じゃあないんだよねぇ。
時間稼ぎ元い救援待ちだったんだよねぇ。
「いやぁ、兵隊さんに止められちゃっててねぇ」
「見た目怪しさ全開だものね?」
「痛たた…心が…痛いねぇ…」
リーゼロッテの 先制攻撃!
おじさんは 精神に 200ダメージを 受けた。
「よしよし…レオナは…強い子…元気の子…」
ミレアは 特技なでなでを 使った。
おじさんの 精神は 100ポイント 回復した。
「半分しか…回復しなかった…」
「おーよしよし頑張ったねぇ」
「アホなことしてないでほら、行くわよ」
どうやらリゼちゃんはおじさん達がふざけてる間に話をしてきたらしい。
いやぁ、流石Aランク冒険者だねぇ。
おじさんは耳がいいからねぇ…聖徳太子には劣るけど実は門兵さんとのお話は聞こえてたんだよねぇ。
まぁ今はお礼が先だよねぇ。
「いやぁおじさん助かっちゃったよねぇ、これは借りが一つできちゃったねぇ」
「気にしないでいいわよ」
「まあ、おじさんに出来ることはあんまりないけど力になるからねぇ」
「ふーん、まぁ、そのうちね」
うんうん、貰えるものは貰っておくのが一番だよねぇ。謙虚すぎるのは若者らしくないからねぇ。
「あ〜やっと来たね〜」
「遅い…」
「待っててくれてありがとうねぇ」
こうして無事街に入れたけれど、街並みはやはりと言うべきか中世ヨーロッパみたいな感じなんだねぇ。
おじさん中世ヨーロッパを実際に見たことがある訳じゃないから予想でだけれどねぇ。
「そうだ、そろそろお昼だからどこかで食べていきましょ?」
「お、いいね〜いこいこ〜」
「いつもの場所…?」
そういえばもうそんな時間帯だったねぇ。
とはいえおじさんは無一文、飲食店に入っても何も食べられないんだよねぇ…
「レオナさんとミレアちゃんも食べるでしょ?奢ってあげるわよ」
「そこまで良くしてもらってもいいのかねぇ?おじさんとしてはありがたい限りだけど」
「お金には余裕があるから大丈夫だよ〜」
「シャリー…貴方はお金すぐ使うから殆ど手持ちないでしょ…」
「いや〜ついつい欲しいものがあると買いたくなってしまいまして〜」
「無駄金使い…」
「え〜そんな事ないよ〜」
能天気な感じのシャリーちゃんに呆れた顔をしているリゼちゃんと鋭いツッコミを入れるフィオちゃん。
いいコンビだねぇ。
そんな三人を眺めていると後ろからお腹の鳴る音が聞こえた。
犯人は勿論ミレアちゃんしかいないんだよねぇ。
「レオナ…早く行こ…?」
「そうだねぇお言葉に甘えちゃおうか」
という訳でリゼちゃん達オススメのお店にやってきたんだよねぇ。
場所は門から真っ直ぐ歩いて十分程度の位置にある外観は老舗感のある喫茶店によく似たお店。
珈琲の香りがするってことは勿論あるんだよねぇ?
おじさん的にはコンビニで買うならブルーマ○ンテンお店で飲むならオリジナルブレンドだねぇ…
お店によって違うコーヒーを飲むのはなかなか楽しいんだよねぇ。
「いらっしゃいませ〜あ、リゼさん!」
「こんにちは、席空いてる?」
おや、知り合いのお店だったんだねぇ。
「はい、三名でよろしいですか?」
「今日は連れがいるから五名なの」
「へぇ〜リゼさんがお連れさんを連れてくるなんて珍しいですね?」
「依頼帰りにたまたま一緒になってね」
「そうなんですか、とりあえずお席に案内しますね」
店内は外観のイメージと同じくまさに老舗と言った感じ、ただ少し残念と思うのは酒場だったって事なんだよねぇ…珈琲の匂いがした気がしたんだけどねぇ。
うーんもう胃が珈琲を飲みたいって言ってるんだけれどねぇ…メニューはなさそうだし。
「…さん、レオナさん」
「うん?どうしたんだい?もう決まっちゃったのかなぁ?」
「もう決まって注文中です」
「おや、そうだったんだねぇ…珈琲ってこのお店にはあるのかな?」
「何それ?」
「んーリゼちゃんは知らないかぁ、やっぱりおじさんの気の所為だったのかな…?」
「えっと…ありますよ?」
おや、どうやらあるらしい。おじさんの嗅覚は正しかったんだねぇ。
「じゃあ珈琲一杯貰えるかな、おじさんはお昼はあまりたべないからねぇ」
「かしこまりました」
いやぁ、この世界にも珈琲があってよかったよねぇ。あの見た目で飲み物だと思う人は地球以外にもちゃんと居てよかったよかった。
「ねぇ…」
「うん?」
「珈琲って美味しいのかしら?」
「それは人によるねぇ…」
「そうなの?」
「まあ、見た目が飲み物っぽくないし飲み慣れてないとただの苦い汁みたいなものだからねぇ」
「それ…飲み物なの?」
「おじさんは結構好きだねぇ…苦味の中に酸味とか甘みとかがあってなかなか味わい深いんだよねぇ」
まぁ、本当に人によるから無理強いする気は毛頭ないけれどねぇ。
「ほぅ…よく分かってるじゃねぇか?」
「おや、あなたはどちら様で?」
「俺はこの店のマスターやってんだ…ほれ、コーヒーだぜ」
「おお、これは正しく珈琲…」
んー、いい香りだねぇ…はぁ、落ち着く。
「いただきます…」
こ、これは…!
「強い苦味の中にある確かに感じるフルーティーな甘み、そして複数種類使ったからこそ出せる奥深い味わいが素晴らしいねぇ…」
「ふっ…珈琲はタダでいいぜ」
「おや、いいのかい?これは多少高くても売れそうなものだけど」
「構わん、どうせ俺ぐらいしか飲まねぇからな。それにその味が分かるんなら俺としては満足ってもんだ」
「それは助かるねぇ…今のところおじさん一文無しだからねぇ」
いやぁお金が無くてもこんな美味しい珈琲飲めるなんて嬉しいことこの上ないよねぇ。この世界で珈琲が流行ってないことに感謝だねぇ。
「…一口貰えないかしら?どんな味がするのか気になるわ」
「わ〜大胆だねリゼ〜関節チューだよそれ〜」
「私も気になる…」
「フィオもか〜おじさんモテモテだね〜」
「あっはっは、おじさんはモテモテだったんだねぇ」
「何言ってんのよ…うっ…苦い…」
リゼちゃんには合わなかったみたいだねぇ。まあ女の子が珈琲をブラックで飲む所なんてほとんど見ないし当然かな?
「私は結構好きかも…」
「おや、フィオちゃんは珈琲飲めるんだねぇ」
「目覚ましとかに良さそう…」
「確かにそうだねぇ」
朝に飲んで頭を覚醒させるのにこれ程ぴったりな飲み物もなかなかないよねぇ。
でも、折角のんびりしているのにトラブルってのは突然やってくるんだよねぇ。
ガッシャーン!
唐突に鳴り響く陶器の割れる音が店内に響く。
「おい、そこのウエイトレス!てめぇがコケたせいで俺の服が汚れちまったじゃねぇか!」
「も、申し訳ありません…ただいまタオルを…」
「必要ねぇ、代わりにその無能な手と足を切り落としてやるからよぉ」
おやおや、物騒な言葉が聞こえてきたねぇ…いやぁ、怖い怖い。おじさんそんな物騒な声を聞いちゃうと…
「オラァ!」
ついつい…
「おじさんそういうのは感心しないなぁ…」
「誰だテメェ!」
苛立っちゃうんだよねぇ?