悪魔とゴロツキ
新しい作品を書かせてもらいます。誤字脱字ありますが暖かい目で見守って下さい
薄暗い闇の中、誰かが手を差し伸べた。その手はどす黒く、鋭い爪が伸びた冷たい手だった。恐怖よりも、ここから出れるかもしれないと言う希望に胸が踊った。この牢屋から出るとき、光に覆われ繋がれていた首輪や手枷足枷が崩れるように消えた。崩れ無くなる瞬間、自由になれると言う歓喜に涙を溢した。
助けられてから一年が過ぎようとしていた。今、真横にいる恐ろしくも残酷な悪魔に私は飼われていた。奴隷だったときより何倍もましな生活だ。悪魔は私に興味が湧いて助けたと一言言った。
「おい、小娘。我はちゃんと人間の男に見えているか?」
私は悪魔を、上から下までまじまじみる。黒い髪に少し青白肌。そして、一目を引く気品ある雰囲気は上流貴族にも見える。本当の姿を見たことある私からすると、驚くほどの変貌振りだ。悪魔である象徴の赤い瞳は、少し茶色がかったものになっていた。
「似合ってます。でも、目の色はそのままでも良いと思います。アノン様のその赤目は炎のように綺麗だから...それと、いい加減名前つけて下さい。もう一年も小娘ですよ。」
アノン様が一瞬、照れ臭そうな仕草をしたのは気のせいだろう。直ぐにしかめた顔をした。そして、頭をトントンと叩いて。
「気が向いたらな。小娘。」
そうの一言で片付けられてしまった。町の門が見えてきた所で、アノン様が口を閉ざした。そのまま門を潜ろうとした時、門番に声をかけられた。声をかけられたアノン様は、一瞬で不機嫌になる。そして、門番をそのまま睨む。睨まれた門番は、少しの恐怖を覚えながらもこちらを伺い立てるようにして聞く。
「旦那様の連れていらっしゃる奴隷なんですが…拘束具を着けてもらわないと困るんですよ。ほら、奴隷って奴らは素行が悪いので秩序を悪くしますので」
アノン様はお前のせいかと、軽くこちらを睨む。そして、ため息を吐きながら門番に答える。
「あぁ、こいつは奴隷ではない。」
私は元奴隷だ。今はアノン様と一緒に旅をしている。飼われていると言う意味では奴隷と、たいした変わらないように思える。でも、アノン様曰く奴隷は使い捨てで、ペットは手元に置いときたい愛玩動物とのこと。私は動物と同じと言うわけだ。門番はアノン様の言葉に納得いかないのか私をじろじろ見ながら。
「冗談はよして下さい。その子供に奴隷の刻印があるではありませんか。」
私の腕には未だ刻印だけが残されていた。それを知らなかったのかアノン様は面倒だとばかりに私の右手首を掴む。
「少し痛いがいちいち喚くなよ。」
そう言って、アノン様の指から炎が灯される。その炎を容赦なく、右腕にある刻印の上に押しつける。私は、痛みに絶叫して地面に膝をつく。皮膚が焼ける匂いが鼻を掠めるとともに、体から汗が噴き出す。アツイアツイアツイアツイ…痛い痛いイタイイタイ…
「ぁぁぁあああ!」
周りにいた人も、私の悲鳴に反応してこちらに視線を集める。大体の人は、哀れな目でこちらを見てくるのがわかる。騒ぎが大きくなる中、門番は唖然とこちらをみるだけだ。焼けて刻印が消えたのか、アノン様は炎を消しながら。
「これで、刻印とやらは無くなった。これで良いだろ。小娘も大袈裟に喚くな、これしきの痛みで。」
そう言ってアノン様は、焼かれた皮膚に手を当てる。緑色に光ると爛れた皮膚が治り出す。治るにつれて、痛みも和らいでいき息も徐々に落ち着いていく。
「私は治癒は得意ではない。」
そう言いながらも、申し訳なさそうに悲しい目でこちらを見た。そんな顔をされたら、怒る事も出来なくる。
「貸し一つです。」
そう言うと、何時もの表情に戻りアノン様は憎まれ口を叩く。
「ふん。小娘が我に貸しとはな」
そして、処置が終わると私の腕を見て異常がないか確認してくる。
「痛みはないと思うが無理するな。」
「はい」
未だに呆然と、こちらを見ている門番に「これでいいだろう」と一言言って歩きだす。門番の静止に耳を傾けることなく、アノン様は一目を集めながら門を潜っていった。
街はなかなか大きいようで、活気が溢れていた。露店で、珍しい物を見つかれば手に取り触ったりする。ふと門での事が、気がかりになりアノン様に訪ねた。
「良かったんですか?あの人、止まれって叫んでましたが」
「放っておけ。」
素っ気ない返事が返ってきた。途中、休憩を挟みがてらレストランによりお昼を食べることになった。口いっぱいにステーキを頬張りながら、気になっていたことを聞いてみた。
「この街に何かあるのですか?」
「ああ、古い友人に頼まれてな。でかい顔でのさばる醜い奴等を皆殺しにしろとな。」
私は驚いた。アノン様の口からまさか、友人と言う言葉が出るとは思わなかったからだ。驚いて居ることに、気がついたのだろうアノン様は不機嫌そうな顔をされる。そんな珍しい表情を見て私は思わず笑ってしまう。
「すみません。アノン様に友人が居たと知らなかったので。やはり、悪魔なんですか?」
「我にもそれぐらいいる。友人はただの人間だ。この街の領主だ。」
領主と聞いて、食事の動きが止まった。フォークに刺さった肉は、肉汁を垂らしテーブルに落ちていく。我に返った私は肉を皿の上に起く。それの一連の動きを見た、アノン様は深いため息を付きながら。
「何も驚くことか…あやつには恩があるからな。」
「アノン様に恩を売れる人ですか?凄いですね。領主様だから出来るのですかね?アノン様に頼んだ事って…」
聞こうとした時、外で騒ぎが起きたのか怒鳴り声が聞こえた。それに反応して、アノン様は一瞬笑った気がする。アノン様が立ち上がる。
「話してれば早速だ。少し腕ならしに行くか。小娘は支払いが終わったら来い。」
アノン様は私を置いて、さっさと出ていき騒ぎの中心に足を向ける。私も追いかけるように、支払いを済ませようと店員さんに声をかける。
「お釣いらないのでそのまま受け取って下さい。」
店員さんが「ちょっと」と話しかけて来たが無視してアノン様を追いかける。状況が急変しているのだろう。外で爆音が聞こえる。数メートル先でも、建物の一部が壊れているのが分かる。アノン様に何かあったのかと、人混みをかき分け駆け寄る。人混みを抜ければ、アノン様の横顔が丁度見えた。アノン様は、風貌の悪い男の胸ぐら右手で掴み左指の先には炎が灯されてる。脅されてる男は、びびってるのか身体を震わせ失禁してる始末だ。これじゃ、どちらが悪者か分からない。流石にやり過ぎだろうと、口を挟もうとした瞬間アノン様が男をバカにし始める。
「こんなもので自分が強いと勘違いしているのか?貴様で最強なら我は神か?いや…神じゃなく悪魔だったな」
アノン様の表情は本来の顔つきに戻りかけ、茶色がかった目は本来の赤い目に戻り初め歯も牙に代わりだす。数人だが気がつき出した者もいるだろう。私は慌ててアノン様に近づきやめさせる。
「アノン様…これ以上は不味いです!それに、顔がもとに戻りかけて居ます。男の方も完全に気を失って居ますよ」
アノン様は我に反ったのか、気絶している男性を見れば鼻で笑う。そして、掴んでいた男の服から手を放す。気絶してる男はそのまま地面に倒れ込んだ。騒ぎを聞き付けた衛兵が集まった人の群れを掻き分け中心にいるアノン様と私を見たあと下で伸びてる男を見る。衛兵から見ればアノン様が暴れ男性に危害を加えたようにしか見えない状況だ。
まぁ…建物を一部壊し気絶するまで脅したのは、アノン様なのだから否定も出来ないだろう。むしろ、この状態でどうやって庇えば良いのか…
「お嬢ちゃん、その人から離れなさい。危ない」
色々、言い訳を考えてるうちに衛兵に腕を捕まれ引き離されように引っ張られる。
「待って下さい。この人は…アノン様は…」
抵抗するが、衛兵も私の言葉を聞いてくれる様子はなく。それを見かねたアノン様は、懐から便箋を取り出し衛兵に向かってなげる。衛兵の足元に落ちた便箋を衛兵はアノン様を警戒しながら拾い上げる。
「これで、許してもらえないだろうか。これは、お前たちの雇用主の依頼でな。」
衛兵が便箋の裏を見れば、みるみる顔が青ざめていく。無礼を働いたと思ったのか衛兵はアノン様に頭を下げ謝りだす。
「も、申し訳ございません。お客人とは知らず。只今、馬車を用意させて頂きますので駐屯所まで来ていただいてよろしいでしょうか?」
衛兵の態度が変わり、下で倒れてる男に素早く手錠をかける。そして、後からきた衛兵に男を任せて。私達を駐屯所まで親切に案内してくれた。
アノン様が投げた便箋には、一体何が書かれたのか気になるところだが穏便にすみそうな流れにホッとする。