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8 ボクと機械化おばあちゃん


亀裂の向こう側の世界は地球の常識と丸で違っていた。

そこは魔導を動力とする機械仕掛け設備がごちゃごちゃと乱雑に設置されている部屋であった。


天井には魔導を動力とするランプがぼんやり鈍く輝いており、真鍮のパイプが縦横無尽に張り巡らされ、それは壁にも続いており、その途中に計器やバルブが備え付けであった。それらは最終的にパイプオルガンのような機械に繋がっており、時おりブシューと蒸気を排出するその機械にはビッシリと歯車が装着され、ガチャガチャと忙しなく動いている。

床には何かを排出するためなのか太いパイプがあり時おり振動で揺れ動き、ゴォォンと何かが落下する音が響き渡る。這うようにきちんと並んで束になっている細いパイプが、熱を発しているためか、暖かみを帯びている。


「うわぁ、まさにスチームパンクだよね!」


微かに鉄の臭いが漂うその部屋に、ボクはおでんを片手に大興奮していた。


いいねいいねっ!ボクはこーゆーのを待っていたんだよ!


ボクがにへら笑いを浮かべキョロキョロし、興味津々で壁の計器に手を伸ばそうとすると、声が聞えた!


「これ!!触るんじゃあないわ!」


突然の声にボクはビクッとし、イタズラを見られた様な恥ずかしさを覚えながら、振り向くと・・・そこには魔女のおばあちゃんがいた!


黒い服に身を包み、同じく黒のフードを被っていた。しわくちゃで、鼻は少し垂れ、片目には真鍮のメガネを付けておりレンズは真っ黒だ。右手は義手で鋼鉄で出来た骸骨のような手をしており、指がカタカタと動いている。


機械化おばあちゃんだ!


「お前さんじゃな?さっきから人の家にゴミをポイポイ投げ込んでいたのはっ!」


それを聞いてボクは思い出した。


そうだった!謝らなきゃだ!


「おばあちゃん!すみませんでした!・・・あのう、美味しいおでんを買ってきたので一緒に食べませんか?紅しょうがの練り物は特に美味しいですよ」


こうボクが上目遣いでそっと伺うように謝罪をすると、おばあちゃんはボクの頭から足までジロリと見つめ観察した。


「・・・・噂どおりのおバカさんじゃな。まぁよいわ、ドロシーじゃ」


「あっボクの名前は・・・」


「٩(๑•ㅂ•)۶じゃろう?」


「あっ!!」


何で知ってるの?!きっとミナモが教えたんだな!このままだど、このヘンテコな名前がボクの本名だとおもわれちゃうよ!


・・・だいたいよく発音できるよな。


こうしてボクが思考をコロコロと巡らせていると、ドロシーは機械の指をカチャカチャ動かしながら不敵に笑い話し始めた。


「・・・それで、お前さんは知りたいんじゃろ?マナの秘薬によって引き出された力をな」


マナの秘薬?あ、グチョグチョグリーンスライムか!


そう言えばチート能力を捨ててしまったおかげで、謎の魔法と、ギフトを貰ったんだっけ!


「そうなんです。未確認の魔法とギフトが何なのか分からなくて・・・ミナモがおばあちゃんなら分かるって」


「・・・ふむ」


ドロシーは部屋の真ん中にある流木を削り出したようなアンティーク調のテーブルへ向い、椅子に腰かける。


「ほれ、お前さんも座り」


おばあちゃんに催促されボクも座る。

テーブルの上には、魔導ランプ、乱雑に積み重なった本の山、大小いくつもの歯車が複雑に絡み合った装飾の施されている水晶玉、理科の実験で使うような試験管やビーカー、小型の魔導釜などが散らばっていた。


「ほれ!」とおばあちゃんは手を出す。

「ほれ?」

「おでんじゃよ!」

あっ。ボクは慌てておでんを渡した。

おばあちゃんは機械の指で器用に袋を開けながら話す。

「ふむ、これは中々・・・匠の仕事じゃな。ふっふっふ、お前さん、よい土産持ってきたな」


お、おばあちゃん、ボクよりも先におでん、鑑定しちゃってる!


知力200超えのおばあちゃんはボクの想像を超えていた。


それからおばあちゃんはおでんを魔導釜に移すと、下の台座にあるダイヤルをがちゃりと回した。すると、部屋の中で大きく場所を取る機械仕掛けのパイプオルガンからプシューと大きな音と共に蒸気が吹き出し、釜が熱を帯び温かくなった。


なんて事だ!あの大きな機械は小さなお釜温めるものだったとはっ!


ボクはおばあちゃんの計り知れなさに畏敬の念を持った。


────


しばらくすると、お釜からおでんの美味しそうな匂いと湯気がグツグツ湧いてくる。どうやらお釜は特別製らしく、自動的におでんを最適に煮込むことが出来るみたい。


おばあちゃんは机の引き出しからお皿を二つ、お箸を一膳取り出し、ボクに渡した。ボクはハテナ?と思い聞いてみた。


「おばあちゃんおはし要らないの?」


ニヤリと笑いおばあちゃんは言った。


「ふっふっふ、わしはこれじゃよ・・・」


そう言うとおばあちゃんの機械仕掛けの指はガチャガチャと音を立て、内部の細かい歯車が幾つも連動し、キュィィンと高回転で回りだし、

ピキピキと音を出し変形した・・・


なんと!フォークになった!


ボクは身を乗り出し、目を見開き、大興奮のあまり失神しそうになる。


「おっ!おばあちゃん!凄いよ!凄すぎだよ!ブクブク・・・」


「うむ、良い反応じゃな!では、頂くとしようかの」


一周回って少しへんなおばあちゃんとおバカさんはとても息があったのであった。


────


「さて・・・」


食事を終え一息着いているとおばあちゃんがおもむろに話し出す。


「お前さんは、魔法を身に付けて一体何をするつもりじゃ?」


何?なんだっけ?


おばあちゃんとおでんに夢中になり、すっかり忘れていた。


・・・そうそう、ナギサが言うには、目玉を退治して、時空干渉を阻止するんだったね!簡単に言うと敵をやっつけて世界を守る!


ボクはそう言うと、おばあちゃん少し真剣な顔つきになり、こう言った。


「一体何から守るのじゃ?」


「敵の侵略からです!」


「では、敵とは誰じゃ?そやつらを殺す覚悟はあるのかえ?・・・言っておくがお前さんの言う目玉は機械仕掛けの装置に過ぎん。お前さんの世界にマナを放出するホースみたいなものじゃて。役割を終えれば勝手に消えるわい。・・・言ってみい、お前さんは誰を殺すのじゃ?」


そう言ってボクをギロリと睨んだ


「あっ・・」


・・・そうか・・・ボクは殺人をしなくちゃいけないんだ。きっと相手にも家族や恋人、大切な想いがある。それを一方的に摘み取らなくちゃいけない。


・・・ボク、薄々は感じていたよ。


「やっつける」とか「倒す」の意味は結局は「殺す」という意味のことだよ。誰かの命を奪うということだよね。


そんな事って許されるのかな?・・・神様は許してくれるのかな?


おばあちゃんの言葉に、ボクは自分の考えの甘さを知り、また、これから起こりうる現実を考えさせられてしまい、恐怖にプルプル震えた。


・・・どうしよう。人を殺すかもしれないし、殺されるかもしれない所にボクは行かなきゃ行けないんだよね・・・


────


ドロシーは思った。ふむ、少しばかりイジメ過ぎたかのう。しかし、ディメンション・ロードも酷なことをするわい。さて、この子は現実を認識し何を思うやら・・・


────


ボクは普段あまり使わない頭を必死にフル回転して考えた。一体誰がなんの目的のために地球を侵略するのか?地球と全く関係ないナギサはなぜ阻止しようとしているのか?そして、いざと言う時に誰かを殺す事が出来るのか?


────考えても考えても分からなかった。


多分これも今のボクには知性の向こう側の話なのかも知れない。神様の領域。だから、祈るしかないんだね。祈りながら、出来ることを少しづつやるしかないんだね。前に進むしかないんだね。ボクは神様に・・・


「・・・頼らない・・・ボク、何にも解らない!殺すって何かも分からない!でも、立ち止まっても何も変わらないし、泣いて終わっちゃいけないと思う。・・・ボク、バカだからよく分からないけど、前に進みたいっ!」


・・・涙が勝手にポロポロ出た。


────

ドロシーは目の前のポロポロ泣く子をジッと見つめた後にこう言った。


「・・・うむ、良い答えじゃ。じゃが、お前さんが一方的に傷付き殺され、全てが無駄に終わる事もあるのじゃぞ。悲しいかな世の中の殆どはそれの方が多いのじゃよ」


「うん、分かってる。どうなるかは考えない。怖くなるからね。正しいと思った事をやるだけやる。ボク、考えない事は得意なんだよね!」


ボクはえっぐえっぐと泣きながら笑った。


────


しばらくして、ドロシーは暖かいお茶を用意した。

「・・・飲みなさい」


───ポーション。飲むだけで傷付いた心と身体を癒す奇跡の薬。種類は多岐にわたり、これは優しく心を癒す性質がある。


ボクはおばあちゃんがくれたお茶をゆっくり飲んだ。緑茶に似ていたが砂糖が入っているのか少し甘い。でも、この甘さが心を癒してくれる気分になる。


「美味しかったよ。ありがとう!おばあちゃん!」


何だか頑張れる気がするよ!


単純な所はやはりおバカさん故か。


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