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52 ボクと穂積 ~戦いの果てに~


────にせ発勁


・・・発勁、その真髄は「脱力」にあり。大地を踏みしめた力は体内を循環し、拳から打ち出される。そのためには効率なエネルギー循環を遮るような「力」は必要なく、むしろ「脱力」でなければならない。そしてその威力は通常の打撃とは異なり硬い防御を貫通し、ターゲットの内部に直接ダメージを打ち込むのだ。


詳しいことは省略するが、それはそれは長い鍛錬の末、身に付けることが出来る必殺技なのである。


この「にせ発勁」はそのような高等技術を用いることは無い。代わりに魔導という「技術」によて人外の力と技、そして「魔法」による高水圧の水弾の合わせ技なのだ。


故に「にせ発勁」であるが、本家とは明らかに異なる点がある。


にせ発勁・・・その一撃はもはや「技」を超え「兵器」と呼ぶにふさわしいほどであったのだ。


────


ボクの掌底から放たれた怒涛の水撃はソードガーディアンの内部を突き破り、エーテル結晶を粉々に砕いた。エネルギー供給の絶たれたソードガーディアンは一気に機能停止に陥り即死した。


グラァァ・・・


機能停止したソードガーディアンはバランスを失いボクに覆いかぶさるように傾き倒れ込んだ。


おっとっと!


こんな所で下敷きになっちゃったら格好悪いよ!


ボクはあわてて身を引くと、ソードガーディアンは直後にズシンと地面に沈んだ。


鳴り響く地響きは勝利のファンファーレであるかのように。ね!


スーと息を吐き残心をとると、技を極めた者にしか到達できないような凛とした気持ちがボクのココロを満たした。


勝ったんだ!


ボクはついにドーサの仇を取ったのだ!!


あの強敵を倒し、ボクはドーサを取り戻したんだ!


・・・・ん?ドーサを取り戻す?・・・取り戻すのはお空じゃなかったっけ?


何だかボクの記憶がおかしいな。まぁ、いつも少しおかしいかも知れないけれど、今回は特別。お空とドーサ・・・上手いこと韻は踏んでるけど、だからどうしたって感じだよ!


ボクは混濁する記憶を探り、真実の記憶を呼び起こそうと試みると突然頭痛がした。


きっとこれは知恵熱だ!


ボクは熱が出る度に知恵熱を期待してしまう癖があるけど、今回は本当に知恵熱。そんな気がするんだ。


ボクの頭の中の記憶がグルグルと目まぐるしく入れ替わる。


あ、IQが・・・あがるっ!ホントにあがるっ!





ふゅゅぅぅぅん・・・・


と、いう所で、「魔獣拳法本能の極み(食)」の効果はすぅーと消えた。

食い意地によるバフが消え、代わりに蓄積されていた疲労感が一気にボクを襲う。


あれ、今度は、体が重ひ・・・・


それに、何かが沸き起こる・・・

ボクのココロに何かが沸き起こるよ!


な、何かがボクのココロをくちくする・・・


勝利に満たされたボクのココロを駆逐する!


こ、これは、羞恥心!


年頃の娘が食い意地で我を忘れ、ロボット兵器を破壊してしまった・・・羞恥心だ!


きっと後世の人達にボクは・・・「まんぷくちゃん、あの時よっぽどドーサが食べたかったんだろうね。食いしん坊だね」とか「でも、その食いしん坊が世界を救ったんだよ!食いしん坊万歳だよ!」っていわれちゃうんだよ!


あの時トイレでグチョグチョグリーンスライムのお注射でパワーアップした時の「ボクが臭すぎて敵が死んだ」疑惑のオチとほぼ同じじゃんね!


臭いか食いしん坊か・・・


なんて恐ろしい運命なんだ!


勝利の余韻も消えすっかり元に戻ってしまったボクは、かぁと熱くなったお顔を思わず両手でおおってしまった。


えーん・・・


あ・・・・でも待って、落ちついて。何はともあれ偉業をなしとげたんだし!

それに、良くも悪くも誰にも見られてないから。黙っとけばきっと大丈夫だよ!


・・ね!


・・・


・・・・



・・・・・穂積以外にな!


くわっ!と振り向くと穂積は今この瞬間、命の危機が迫っている事もつゆ知らず、ボクに向かって呑気に手を振っていた。


・・・よし、今がチャンスだ!なぁに、死にやしないさ。記憶が飛ぶくらい程度にぶっ飛ばせば良いよね。ポーションもあるしね!


・・・・よしやろう!今やろう!


ボクは腕を振るい、パイルバンカーを穂積ために起動した、が、その直後!


・・・びちゃんと冷たい床に倒れた。


この愚かな振る舞いがついに魔力を枯渇させたである。


うぅ・・・穂積よ、今こそ我を助けるがよい・・・


ボクのそこで意識が途切れた・・・


────


必死の思いで勝利をもぎ取った先輩なのに喜びも束の間、僕を変な目で睨みながらびちゃっと倒れた。


一体何がしたかったんだろうか?


相変わらずの先輩何だけど、命のやり取りの直後ですら頭のおかしな行動ができる先輩がちょっと怖い。


でもまぁ、ポーションでも飲ませれば復活するだろう。


やれやれ、これで一段落だ。


こうして僕は、「奪われたお空を取り返す!」と言いながらも、理不尽で何もしてくれない世界を小さな命一つで守り切った先輩へと駆け出した。


───


穂積圭佑(24歳)


幼少期から素直で努力家だった穂積は、父親の期待に応えるべく学校や塾で勉学に励み結果を出し続けた。父親は彼が東京で1番の大学に入学し、大手企業のサラリーマンか弁護士、医者にでもなれば幸せになれると信じていた。いわゆる普通の家庭の父親であった。

穂積はテストで結果を出すことによって、大好きな父親が喜んでくれる事がとても嬉しかった。

父のその表情は、彼にとって自分の事を深く愛してくれているという何よりもの証拠だったのだから。

だが、それでもやはり、当時の穂積は遊びたい盛りの子供。勉強漬けは時に耐え難いことでもあった。当然、そんな父親に甘えたり、普通の子供と同様、友達と冒険や悪戯の一つでもしたものだった。

しかし父親は、そんな時いつも氷のように冷たい表情をしたり、烈火の如き怒る。


穂積は思った。なぜ大好きな父親は僕が本当にやりたい事をすると、喜んでくれないのだろう?別に人を傷つけたり、悪い事をしようとしてるわけじゃないのに?


それとも僕がしたい事は全て悪いことなの?くだらない事なの?


愛憎の境目で揺れ動く穂積の心は、それでも、父親に愛されたいと思う気持ちが勝り、間違っているのは自分であると決めると、次第に自分自身を否定するようになった。


高校生になると小遣いは月に5万円貰えた。ただし、毎朝8時半に登校し、そのまま塾に通って帰宅は23時である。つまり小遣いには夕食代も含まれていた。

その頃になると、父親はテストの結果がたとえ良くても当たり前のように振る舞い、少しでも順位が下がるものなら罵しるようになった。


穂積の父は、本質的に子供には甘やかすことなく厳しく当たる事が正しい選択であると考えていた。

無論、時には励まし、同意し、愛情を注ぐ事もあったが、それには常に「教育上必要な」前提がが常に付きまとっていた。


そして・・・不本意ながらも聡明になってしまった穂積はその事に気付いてしまったのだ。


穂積は思った。父さんは僕を愛してくれているのではなく、僕を見て自分の心に映る僕の像を愛していたんだ・・・

まるで何でも従う心無い人形を愛するかのように・・・


・・・ずっと僕の事なんて見てなかったんだ。


月明かりの下、穂積は泣いた・・・

幼い頃から堪えてきた想い、そして何よりほんのわずから愛の記憶さえも嘘の混じった穢れたものである事に耐えきれなかったのだ。


夜が明け、朝日が孤独な部屋の闇を払う時、大好きだった父親の面影は闇に消え、穂積の瞳にも闇が灯った。


その後二人の関係は、ロボットと操縦者のようになった。


心を閉ざした穂積はさながら、壊れた人形のように勉学に打ち込み結果を出し続けた。皮肉にも父親はそんな彼の姿を見て満足した。


数年後、東京で1番の大学にあっさりと合格した穂積は、桜咲く晴れの日に退学した。


当然面子丸潰れとなった父親は頭がイカれたように怒り狂った。穂積はそれを無表情で受け止めると振り返ることなく家を出た。


春雨の中、捨て猫のように街をさ迷っていると年上の女性に声を掛けられ、家と童貞を捨てた。


その後、穂積は愛情に飢え、人に甘え、傷つけ(主に女性問題であるが・・・)自堕落な生活を送ってきたが、その生活が穂積の感情を大きく揺さぶる機会になったことは間違いなく、若干問題はあるが人としてある程度立ち直れる事が出来た。


幾人かの女性に育てられた穂積はある時、このヒモ生活に終止符を打ち、一人暮らしを始めた。因みに賃貸契約の保証人は転々とした女性の中の1人である・・・


一人暮らしに伴い、彼は倉庫内での軽作業のアルバイトを始めた時、この世の「ぽやーん」の集大成の様な「まんぷく」そうな女に出会った。

と言っても彼女は別に太って、ゴロリんとしている印象では無い。背は低く、ショートカットで胸の小さな幼児体型であるが、とても健康的で生命力に溢れる魅力はあった。


それは日常に溢れるごく当然のこと。例えば、天気が良いとか、風が気持ちいいとか、休憩中の冷たいコーラとか・・・たったそれだけで幸せそうな表情を魅せるから。すぐに満たさせた気持ちに浸るから・・・だから「まんぷく」が似合うのだ。けれどその表情は内に秘めるたる力を感じさせる。


あの子は人間じゃないみたいだ。


それが穂積の彼女に対する第一印象だった。


───


脳裏に過ぎる過去を想いながら、穂積の先輩へと駆け寄る。随分と衰弱しているが何かを成し遂げたような充実した表情を浮かべていた。


穂積は早速彼女のバックを探ると、赤と青のポーションがあったので早速飲ませることにした。


くぽんっ!


きゅきゅきゅ。


口の中に無理やり押し込むと、独特の変な飲み方を見てひと安心した。

だけどまだ終わっちゃいない。アレをぶっ壊すには先輩の火力が必要だから、もう少しだけ頑張ってもらわないと。


穂積は再び巨大なパイプオルガンを見上げた。

天井が霞んで見えないほど高く、壁にビッシリと幾千もの菅を備え付けられたパイプオルガンは、改めて見るとやはり迫力がある。


一体全体何から止めればいいのか思案していると、穂積は何故かパイプオルガンに見下ろされている錯覚に捕らわれた。


じっと見つめる穂積は次第に息苦しくなる。その威圧感を振り払おうと目を背けたが、感覚は心に絡みつき心臓を揺さぶり動悸が激しくなっていった。


おかしい!

凄いプレッシャーを感じる・・・


きっとこの異世界と繋がれる制御装置がそれだけ、圧倒的な代物なのかも知れない。


・・・穂積はそう思いたかった。


けれども聡明になってしまった彼は知っていた。それはとてつもなく大きくて、それは認識することを拒絶してしまうほど大きくて・・・


無機質で冷たいモノに見下ろされると、過去のトラウマが蘇る。


くそっ!親父め!


額から流れる汗を拭い、ドクンドクンと激しく打つ鼓動を手で押さえつけ、氷のように冷静になる穂積。


その父親譲りの眼は、父親との確執から生まれた賜物ともいえた。


そしてついに氷の眼はある違和感を捉えた。


それは中央の鍵盤に当てられるスポットライト。


いつのまにライトは点灯していたのだろうか?気にもかけなかった事が気になるのだ。


僕達はここへ来た時、自動演奏で鍵盤を動かし音楽を奏でていたと思っていた・・・


・・


・・・


・・・・


・・・・・誰かいるのか?


ずっと・・・誰かに見られていたのか・・・?


それが真実であると言うことは穂積自身が告げていた。


身体の震えが止まらないのだ!


「・・・先輩起きて下さい・・・まだ、何かいます・・・」


穂積はポツリと呟くと、高鳴る鼓動と頭痛と中で一つの解を見出した。


そうか・・・


「認識阻害か!!」


スポットライトに照らされて、そいつは姿を現した。


「ご・め・い・さ・ちゅぅぅ♥」


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