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51 ボクのドーサの記憶


装甲を切り離し、腹部の緑色のマナ結晶が剥き出しになったソードガーディアン。頭部と片腕を無くし、唯一の武器である大剣を頭上に構え、円を描くように振り回す。その構えから発射される一撃は大剣にも関わらず、ジャバラの様に伸び、ズドォン!とボクに襲い掛かるのであった。


その名も蛇腹剣だ!


大剣は鞭のように素早くうね動くき、こちらが間合いを詰めようなら、合体し大剣に戻るため、うっかり近づこうものなら真っ二つ。さらに軽量化された脚部は機敏な動作を獲得し、これまでの単純な「力技」と言うよりも「技」に特化したような印象を受ける。


かくして、大剣と一体化した片腕だけが際立つソードガーディアンは、どこかチグハグだけど・・・だからこそ、それはボクを殺す覚悟の表れだった。


そして、そいつは挑み掛かってきた!


中距離を保ち、苛烈極まる蛇腹剣を振りまわし「技」を次々と繰り出しボクを追い詰める。


目の前を通り過ぎる大剣の先端を躱しても、衝撃波や粉砕した瓦礫を撒き散らし、シールドやロボット脚で防ぎきれない太ももや腕、頬を浅くかする。


出血にはあんまり慣れてないけど、今はそんな事気にしてなんかいられない。直撃を受けたらおしまいだよ。


「こりゃ地獄の大旋風だな。シールド外したとたんに吹き飛ばされそうだよ・・・とほほ・・」


ボクは軽く悪態をつき、余裕があるように見せるのは、背後から忍び寄る恐怖を振り払った。

一撃で首が飛びかねない危機に何度も晒されると、やっぱり精神的にきついよ。


「この緊張がたまらねぇぜ!じゅるり・・・」


何てボクはならないからさ。


それにガーディアンは結界でも張るかの様に蛇腹剣を振り回し、容易に近づけさせてくれないから、防戦一方になっちゃう事も辛い。


でも、仮にあの大旋風を突き破ったとしても、パイルバンカーに変形して撃ち抜く隙はないと思うんだ。だから攻撃手段はやっぱりパンチかキック、水弾、若しくは・・・


コンペイトウ魔法・・・か・・・



(>ω<乂)イヤイヤイヤムリでしょ!流石にコンペイトウでどうにかなる相手じゃないよ!


そんなふうにボクがうんうん悩んでいる時でも、ソードガーディアンは容赦無く攻撃を繰り出してくる。横からの薙ぎ払いを始点に上段の振り下ろしを混ぜながら鞭のように蛇腹剣を操る。


唯一、幸運なことは敵のモーションが単純で大きくわかりやすいから回避はしやすいんだよね。まぁそれは、白波の腕輪のシールドがあってこそ何だけど。もしなかったらあっとゆう間に体勢が崩れて、真っ二つにされちゃうから!


・・・そして、それこそがソードガーディアンの巧妙な罠であることに気が付く事にボクはできなかった。



繰り返される横薙ぎと上段の切り落としのローテーションの中で、自分の動きが無意識の内にパターン化されているなんて気づきっこなかった。次第になれた攻防の中、ボクは敵との間合いを詰めて行った。


よし!行ける!

このまま懐に潜り込めば、何とかなる。なんて言ったて、相手は防御を捨てたからね!


多分レベルが上がったのかな?地獄の大旋風もどこかそよ風のように感じられたんだ!


ちょっとそれは言い過ぎ・・・とにかくボクは何だか行ける気がしたんだよ!


────


その時、吹き荒れていた旋風が突然止んだ。しんと静まり返ったロゼメトリア内部に響く、大きな音は大剣に戻る蛇腹剣から発せられたものだ。


おや?すっかり飽きたのかな?


訝しげな視線を向けていると、ソードガーディアンは大剣をこれまでにないくらい大きく振りかぶった!!


その途端、凄まじい蒸気が殺気を帯び噴出された。


それはまるで鎌を持った死神がボクの命を刈り取るような想像を掻き立てる様だった。


ヤバい!なにか来る!


これまでいくつもの戦いを超え、幾回も浴びてきた死の殺気。

ボクは恐怖で動けなくなる事にならなかった事は評価してもらいたいな。でも、時すでに遅し。回避にはもう遅いことを察したボクは、慌てて防御の体制に入った。


ズパァンッ!!


ゾートガーディアンが振り落とした蛇腹剣の先端は音速を超え、空気とぶつかり、音を置き去りにし真正面から向かってきた。

いや、ボクの視界にはその一撃を捉えることが出来なかった。突然目の前に全てを飲み込む津波のような殺気に対し、シールド必死で構え、神様に祈ることしか出来なかった!


ドッゴーーン!!


そして、この恐るべき音速攻撃は、数多の攻撃にも耐えてきた無敵のシールド、白波の腕輪をついに突き破ぶりボクに襲いかかった!


・・・・吹き飛ばされる最中、視界に入る映像がゆっくりと見える。


頭がボーとする・・・


ズドォォォン!と音が遅れてボクを通り過ぎた。


受け身も取ることもままならず、どさりと地面に倒れるボク。音速蛇腹剣の威力の大半はシールドで防げたものの、衝撃波は貫通しボクの全身を打ち付けた。

短髪の毛が逆立ち、鼻血がつーと流れる。耳鳴りがひどく、頭が痛い。全身が痛いはずなのに、鳥肌が立つばかりで、陶器にでもなったかのように感覚がない。


そんな中、遠くにうっすらと見えるソードガーディアンの2本のパイプから排出される蒸気音が聴こえる。


うぅ、痛いよぅ・・・


怖くなってきちゃった・・・


これまで幾度となくどんな攻撃も防いで来た白波の腕輪も、ダガンの力の宿ったビスチェも貫通した事で、この時ボクは完全に状態異常「恐慌」に陥ってしまった。

ただただ恐怖に支配され、身動きが取れなくなるという厄介な状態に陥ってしまった・・・


こんなのもう・・・無理だよ。


それでも何とかヨロヨロと立ち上がるボク。


しかし、ここにいるのは無差別殺戮キリングマシーン「ソードガーディアン」は、この隙を待ってくれるようなお人好しでは無かった!


骨組みにエーテル結晶が埋め込まれただけのボディは、その見た目通り相当軽量化されており、左右にステップを踏むフェイントを混ぜながら大剣を構え一気に間合いを詰めてきたのだ。


ヤバい!接近戦で仕留めるつもりだ!


殺られる!!


無機質なロボットが物凄く速さで向かってくるのをボクはただ恐怖にすくみ、力の入らない手でシールドを身構えるだけしか、出来なかった。


躊躇うことなく振り落とされるソードガーディアンの重い一撃を縮こまりながら防ぎ、転がされながらも、生存本能がギリギリの所でボクの命を繋いでくれた。それでもココロは既に限界に来ており攻撃を食らう度に激しく消耗し最後の一撃の到来が刻一刻と迫っていた。


こうしてボコボコにされる最中、ボクは思ったよ。


やっぱり装備に頼りっぱなしだったんだよね。最強クラスの白波の腕輪でしょ。最新のロボット脚にダガン装備。


とほほだよ・・・


たった1回無敵シリーズが破られただけで、こんなにも心が折れるとはね・・・


弱いなぁ。ボクは。


でもさ、自分より大きい剣が音速で飛んでくるんだよ!?誰だって心がおれると思うよ・・・


だから次はもう無理・・・


そんなボクにはこの時、ソードガーディアンがなぜ接近戦に切り替えたのか、若しくは、せざるに負えなかったかを考えることなんて、出来やしなかった。


────


だから穂積は考えていた。


彼は戦闘の一部始終を観察していた。そして当然に、敵ソードガーディアンが突然接近戦をもってトドメを刺しに行ったことに強烈な疑問を抱いていた。装甲をパージしてからは、懐に入られまいと警戒し、蛇腹剣の結界を張り無差別に攻撃をすることを主軸としていた。それが、あの音速剣の後は接近戦にきりかえたのだ。恐慌状態の先輩にもう一度放てば仕留める事は出来きるハズなのに・・・と思う穂積。


さらに彼は、音速剣の直後に背中の2本のパイプから排出される大量の蒸気がパイルバンカーのそれと酷似している事に対して何か共通点がある様に感じていた。つまりあれは連射が出来ない特別な技、必殺技であったと結論付ける事はそれ程難しくなかったのだ。


よって、この一見絶望的な展開こそ実は好機。


物事は最悪ののちに活路があり、当事者はいつの時代もそれに、気付くに至る事は難しいのだ。


それから穂積はこの状況を一変させる事が自分の役割である事を理解した。


そう、まずは時間を稼ぎだ!


穂積はドラグーンを構え最後の一発である貴重な戦力、精霊弾を惜しげもなく放った。


────


完全に恐慌状態に陥ってしまったボクの後方から一筋の光弾が通り過ぎ、ソードガーディアンに果敢に立ち向かっていくのがぼんやりと見えた。


あれは、精霊弾だ。


精霊弾は一閃を引き、ソードガーディアンの懐に飛び込むと同時に光弾本体よりもさらに大きな拳を出現させ・・・


ボコンっ!!


ボディブローを打ち込んだ!


そしてもう片方の手を伸ばしソードガーディアンに器用に貼り付け、絡ませると、それを主軸に急回転、背後に回り込み・・・


ドガンっ!


もう1発お見舞する。


その後もグルグル回りながら、特大の拳でボコボコに殴りまくった!


まるでサンドバッグのように殴られているソードガーディアン。何とか引き剥がそうと暴れのたうち回るが、精霊弾はドラグーンのグリップにあるメダリオンを通して伝わる穂積の意思が、決定打を与えることで無く、とにかく時間を稼ぐことであるという事を強く認識していた。


僅かな時間の為に!そんな思いを秘め、少しでも時を稼ごうと奮闘した!


───


「先輩!!起きて下さいっ!!今がチャンスです!!今しかないんです!!」


細目の穂積はこれまでに開けたことこないくらい眼を見開き、大声で叫ぶ。


そんな穂積の声が血をツーと流す耳に聴こえる。


・・どうしたぁ、穂積。ボクはもう怖くて怖くてたまらないよー。一体何がチャンスなのかなぁ?


「ガーディアンは必殺技を撃てません!撃てないからこそ、接近戦を仕掛けているんです!!だから今戦えばきっと勝てます!」


たぶん・・・と心の中で言い訳した穂積。


「先輩!兎に角間合いを詰めてください。活路はそこにあります!!」


たぶん・・・と心の中で言い訳した穂積。



穂積の奴・・・アイツは今ボクにこの剣豪と打ち合えというのか?即死攻撃を連発してくるんだよ。そんな相手にだよ。


それで、「はいそうですか」何なるわけないだろ!


ボクがプルプルもじもじしていると、穂積は業を煮やしたのか、少しだけ躊躇いながらも、もう一度叫んだ。


「先輩!ドーサの恨みを忘れたのかっ!!!」


ピコーん!?


え?ドーサ?


ドーサの恨み・・・?

ドーサの恨み・・・

ドーサの恨み・・・


ボクの中で木霊する。「ドーサの恨み」


どこからともなく漂うスパイスの香りが、食に対する本能(食い意地)が、スキル「魔獣拳法」を刺激する・・・


食に対する妄想が記憶を駆逐し、現実が入れ替わる・・・


うぅ・・・本能が理性を抑え・・・頭が悪くなる・・・


はっ!そうだ!コイツだ!


コイツがボクのドーサを勝手に食べたんだったよ!よりによってボクのドーサをなっ!

インド料理屋はいっぱいあるけれど、ドーサはなかなか見つからない!それに、ちょっと高い!だからボク新宿までわざわざ電車を乗り継いでドーサを食べに行ったのに、コイツが勝手に喰いやがったんだ!


ボクはとても大切な事を思い出したよ!


ピカッ!と頭が冴え、恐慌状態に食い意地(食に対する一途な想い)が打ち勝つと何か新しい力が目覚める。


魔獣拳法!本能の極み「食動」が発動した!!


コイツは倒すべき怨敵!


「おりゃぁぁぁ!!ボクのドーサ返せー!ってゆうかお前が買ってこーーい!!」


ボクはそう叫ぶと、既に精霊弾を振りは払ったソードガーディアンに立ち向かって行った。


目がギンギンとなったボクには、上段から轟音を響かせ振り落とされる剣先がハッキリ見える。それをシールドにチョンと合わせて受け流す。


ギャリギャリギャリィィ


剣先がシールドと擦れ火花を散らすが、地面にめり込む手前でピタリと止まる。直後、ブワッと殺気が放たれた!


燕返しだ!


一撃目の斬り落とし、これはその実、フェイントで返しの斬り上げが本物の攻撃なんだ!

剣先が器用に動いてシールドと地面の隙間に入り込み、ボクの胴体を斬り上げた!


だがしかし、ギンギンに目が冴え、アブナイくらい興奮しているボクにはその動き全部がハッキリ見えた。

斬り上がる大剣に対してシールドを傾け剣先の侵入を防ぐと、そのままころりんと、でんぐり返しをして、ソードガーディアンの懐に潜り込んだ!


「おりゃ!!」


パンチはガキン!と高音を響かせるが、ダメージは通らない。精霊弾の極大パンチでも大したダメージがなかったから、まぁ仕方ないよね!ぎんきん!!


ソードガーディアンは後方へステップをしながら、横薙ぎの一閃を繰り出した!


引き胴!!


態勢が不安定な中で放たれた横薙をボクは難なくしゃがんで躱し、もう一度パンチを喰らわそうと、力いっぱい踏み込んだ時、目の前のエーテル結晶がクルンと回転し消えた!


え?消えた?

違う!消えたのはエーテル結晶じゃない!


ソードガーディアンは上半身をコマのように回転させ、遠心力を加えた強力な一撃を繰り出してきたのだ!


ドゴンッ!


異常事態を察したボクは意外にも冷静にシールドを展開出来たけれど、今のはちょっと危なかった!


が、しかし、ソードガーディアンの連撃は終わらない!


今度はボクの目の前に大剣を突き出し・・・


くるぞ蛇腹剣だ!


大剣は再び緑の光の筋を帯び解体され、びよーんと伸びた!


ぎんぎんパワーのボクは直進する蛇腹剣を首を振って躱した。


目の前を通り過ぎる蛇腹剣を見ると、あの音速剣のトラウマが急にぶり返した。けれど・・・


あれあれぇぇ!?


何か見覚えあると思ったら、これ、ドーサじゃない?


記憶と妄想が入れ替わったボクにはこれがドーサにしか見えなかった!


「やっぱりお前、ドーサってるじゃないか!!」


ボクは躊躇うことなくドーサを取り返そうと蛇腹剣に手を伸ばし、引きちぎった!


「返せこのぉー!!」


ブチンっ!


きさ引きちぎられた蛇腹剣は動力を遮断され崩れ落ち、そのはずみでソードガーディアンも一瞬硬直した。


あれ?ドーサが消えた?と、ボクも一瞬硬直する。


まぁいいやっ!


ボクは腹部のエーテル結晶をきっと睨む。


するとブルーメタルのダガンの拳がキラリと光り、まるでダガンがボクに必殺技を伝えるかのようだった。


ボクはそれに呼応し、身体を本能に身を任せ、腕を伸ばし掌をエーテル結晶当てた。


それから、はっ!と短く息を吐き、ロボット脚の出力限界の力で地面を強く踏み込んだ!


「食らえっ!にせ発勁!」


ズドンッ!


力強く押し込まれた掌底は大きなエーテル結晶にめり込むと同時に、超高圧の水弾が噴火の如く放たれた!


ブッジュゥゥー!!


水圧の反作用と逆風が吹き荒れる中、ボクはそれを凛と残心を持って受け止める。


こうしてボクは「にせ発勁」のエネルギーを余すこと無く打ちみ続けると、ついにソードガーディアンの胴体を貫き背後で水弾が爆ぜたのだった。


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