5 ボクとかわいいミナモ
「・・・・めでたしめでたし」
・・・現実世界は理不尽だ。いくら唱えてもちっとも終わらないから。
例えばさ、苦難の冒険の末にお宝を見つける物語があるとするじゃん。お宝を見つけたらそれでおしまい。ハッピーエンドだよね。
でも・・・現実はどうかな。どうやって持ち帰る?どうやって山分けする?どこに隠す?問題は山積みだよ。全部上手くいってお金持ちになっても、無くなったらどうするの?また冒険する?もうお爺ちゃんかもよ。えっなに?苦難の冒険こそ、我が人生?95歳になってもそう言ってられるかなぁ?一人でおトイレに行くのが冒険かもよ。
それにいつか死んじゃうけど、財産の管理は?子供や孫は大丈夫?心配は山積みで、おちおち死んでもいられないよ。
ハッピーエンドはどこにあるんだろうね。
・・・だから、ボクはここに辿り着いて満足する。
これでおわり。おしまい。バイバイみんな。
─────
ボクは水平線を眺めながら、足でぱちゃぱちゃと海をかき混ぜる。
「あーあ、どうして終わらないんだろう、きっと意地悪な神様が終わらしてくれないんだろうな」
すっかり諦めたボクは立ち上がり、後ろを振り向いた。
「すみません、お待たせしました。こんにちは」
ボクはもう完全に投げやり世界チャンピオンになった気で言った。
「・・・・2時間46分28秒です。あなたが私を無視し続け、ぼんやりしていた時間です」
そんなにかぁ・・・
実はずいぶん前から気付いていたんだよね。何度か目も合ってるし。
「怒ってる?」
「怒ってません」
どうやら怒らせてしまったらしい。
真っ白のまるいデーブルといすが二脚。その一つに可憐な女の子が座っていた。背丈はまだ幼いが、腰まで伸びた銀の髪、縁どりが入った白のワンピース。顔は彫刻のような仮面をしているが、素顔かも知れない。
「あなたはだれ?」とボクは尋ねた。
「わたしは魔導により造られたEP/24Rミナモ型独立サポートアンドロイド。ミナモとお呼びください。あなたを大変待ちしておりました」
機械見たいに淡々と話すミナモだけど、「大変」の語尾が少し強かった。・・・まだ少し怒ってのかな。ごめんなさい。
それにしても不思議だな。ここはボクだけの世界。夢の中のはず。
ここ、「煌めく星の見える夕焼けの海」はボクが一度だけ夢で見た世界だ。夢ってすぐに忘れちゃうよね。たけど、この夢だけは何故か忘れる事がなく、いつまでも覚えてるんだ。だから悲しい事や嫌なことかあると決まってボクはこの世界を思い出して、浸る。
「ミナモ、キミはなぜここにいるの?」
「ここはあなたの無意識の世界。マナの秘薬に付与されたナノマシンプログラムの一つが深層心理にアクセスして私を導きしました。」
マナの秘薬?ひょっとしてグチョグチョグリーンスライムの事かな?って事はこの子の正体ってグチョグチョスライムちゃん?
・・・うへぇ。
「あなたの表情から大変失礼な感情を検知しました。おやめ下さい」
ボクはドキリとしながらも平静を装った。
「そ、そんな事ありませんよ・・・」
「たった今、嘘も検知しました・・・ですが一旦保留にしておきます」
覚えていやがれ!って意味だな、どうしよう・・・
「私の目的はあなたに付与された時空を統べる力を起動すること、及び、ステータス魔法の付与、使用説明です」
ミナモはボクの心中なんてどうでもよさそうに話を続けた。
どうやらナギサの言っていた事は本当らしい。
ボクはこれから最強戦士に生まれ変わるのだ!
さてと、コスチュームとかどうしようかな。ちょっとお金かけるか。カッコイイのが良いな。ふふふっ。
「・・・まずはあなたにステータス魔法を付与します。準備はよろしいでしょうか?」
「あっ、おっけーです。よろしくお願いします!」
「・・認証コードを受理しました」
ミナモはそう言ってから、人差し指でボクの額に触れた。
その途端に暖かい何かが頭から首のうしろを通って肩から手、背中、腰を経由して、膝の裏側、足へと。つま先から折り返し膝の表側へ、内蔵、肋骨を伝って肺、最後に心臓へ通った。
暖かい何かは全身の神経に優しく触れた。
「・・・3・・・2・・・1・・・接続完了・・インストール開始・・・・・エラー・・再インストール・・・・・・・・完了」
脳内にミナモの声が聴こえる。
「ステータス魔法起動・・・・・起動確認・・・・完了」
ミナモは額から指を離した。
ボクは額を手で摩っていると、目の前にモニターのようなものが表示された。
────
名前 ٩(๑•ㅂ•)۶
Lv1
職業 パートタイム
力・・・・8
敏捷・・・12
守備・・・10
知力・・・5
体力・・・10
魔力・・・6
HP・・・101
MP・・・40
スキル
認識阻害 (小)
魔法
未確認
称号
おバカさん
────
ボクは目の前のモニター表示に驚いた。
おおっ!知ってるよ、ぼく。これが噂のステータス画面ってやつだよね!
・・・あれ?
「すみませんが、名前がへんてこな絵文字何ですけど、これは何でかな?」
「確認します・・・・完了・・・
どうやらインストール時に発生したエラーが原因です。致命的エラーではなく 又、ステータスは他人に見せる必要はありません。以上の理由により保留とさせていただきます」
・・・なんだかなぁ。ボクは親からもらった大切な名前がへんてこりんな絵文字になっている事に不満があった。どうやら魔導科学も万能では無いらしいねっ!
「・・・エラー原因検索・・・・完了・・・マナの秘薬を注入時に少し漏れ出したようです。おもらしのお心当たりありませんか?」
もちろんない。
「全くありませんね。特に影響がないならこのままでもいいです。大丈夫です。はい」
「原因はおしっこと一緒に流れ出た以外に考えられません。本当におもらしのお心当たりはありませんか?」
「ミナモ、今はおもらし問答より、迫り来る人類の危機に対処する事が先決だと思います」
そうなのだ!人類の危機なのだ。おもらし問答に構っている暇はない。ボクは毅然とした態度を取った。
「そうですね。あなたの言う通りだと思います」
どうやらミナモも理解してくれたようだ。
「それで、結構いい数字なの?このステータス」
「敏捷性が比較的高く知力が平均を大きく下回りますが、それ以外は並程度です」
・・・すばしっこいおバカさんと言われた様な気がするが、また何か言っておもらし問答をぶり返されたらたまらないので、ぐっと堪える。
「スキルのこの字は何て読むの?」
「・・・・おバカさんです・・・」
「えっ!いまなんて?」
「・・・にんしきそがいしょう。ランクが小なので存在感が薄く、他人からは取るに足らない存在と思われる程度です」
・・・ひどい言われようだ!
何だか最先端の魔導科学によって学校の通知表を見せられている気分になる。それにしても何で、みんなボクの事をこうもボロクソに言うのだろう・・・・
・・・流行ってるのかな?
・・・まぁいいや。気になるのはこの魔法欄の未確認だよね。唯一の希望だ。可能性だ!もしかすると伝説の魔法かもしれない。選ばれし力!的なことを期待するよ!
「それで、この魔法の未確認って何ですか?」
「データにありません。恐らく生活魔法かと思われます」
「・・・生活魔法?」
・・・・生活と聞いて嫌な予感がする。
「私達の世界で一般的生活に関わる魔法です。いずれにしても戦闘向きではありません」
「・・・・・」
ミナモは終始、感情のない機械的な話し方をする。アンドロイドだからなのか、ボクを小馬鹿にしてるなのか・・・多分両方だと思う。
「魔力及びMPも並程度ですので特に才能があるとは思えません。あまり期待しない方が良いかと思います。ちなみに最後の称号ですが・・・」
「・・あっ、いいです。それは・・・」
「消せますよ」
「えっ?なんて?」
「消せます」
「是非お願いします!」
途端に称号欄の文字が切り替わる。
称号
■ ■ ■ ■ ■♪
・・・単に塗りつぶしただけじゃないか!それに♪には悪意を感じる。
「うーー・・・ありがとう・・・」
それでもボクは何とか声を絞り出した。
「お役に立てて光栄です」
はぁ、何だか疲れちゃったよ・・・
ボクはミナモから目を逸らし、テーブルに肘を付き夕日を眺める。なんだかなぁどうやらボクは物語のヒーローのようにはいかないようだね。
「失礼ですが、あなたは何か誤解されているかと思われます」
完全にやる気の無くなったボクの雰囲気を察しミナモは彼女なりのフォローをした。
「・・・ごかい?何それエレベーターあるの?」
もはや完全にやる気のないボクはテーブル肘を立て投げやりに答えたけど、ミナモはそんなボクの態度を完全に無視して話しを続けた。
「あなたは大きな誤解をしています。私はあなたに最強の力を授けるためにここにいます。それは、おそらく現在のステータスを全て上回ることが出来るでしょう。」
あ!・・・おおっ!そうだった!
すっかり忘れてた!ナギサともそんな話をしてた!あまりの自分のステータスに落ち込みすぎて、チートの事をすっかり忘れていた!
・・さよなら過去のボク!こんにちわ未来のボク!
─────
「ねぇねぇ、最強ってどのくらい強いの?素手でビルくらいは壊せるよね?」
「想定されるステータスを試算できます。ご覧になりますか?」
「お願いします!」
「・・・ステータスシュミレーション・・・コード・全てを超えしマナの使徒・・・・開始・・・・・・・・・・・・・エラー・・・・表示限界オーバー・・・・限界突破・・・・・・・・・・・・・・・突破」
ステータスが表示された。
────
名前 ٩(๑•ㅂ•)۶
Lv 4億
職業 時空を統べるもの
力・・・・5億
敏捷・・・8億
守備・・・7億
知力・・・5億
体力・・・5億
魔力・・・9億
HP・・・120億
MP・・・800億
スキル
全て
スキル生成
魔法
全て
魔法生成
称号
マナの使徒
────
「・・・・・」
「・・・・・」
煌めく星の見える夕焼けの海で沈黙する二人。まるで恋人の様に見つめ合っているかのように。さざ波の音だけが聴こえる。
「・・・おわり、おしまい。です。」と、ミナモ。
どうやら彼女は自分の弾き出したシュミレーション結果が限界値を遥かに越え、考えるのをやめてしまったらしい。
・・・とはいえ、さすがにこのステータスを見る限りその異様さには気付かずにはいられない。
そもそも億って何だよ!桁がおかしすぎるよ!全く。グチョグチョグリーンスライム1万匹は伊達じゃないな。もしかしたらその半分の半分でも良かったかもよ。
ナギサ、あんた頑張りすぎだよ。きっとグチョグチョグリーンスライムを絶滅させたんじゃないかな。
「ミナモ!それにしてもこれは凄いと思うよ。これならビルどころかあの目玉も一撃だね!きっと」
ボクは思わず立ち上がり結果に興奮した。
「そんなもんじゃありません。あなたが力任せに殴ったら、その余波で地球が割れ、太陽の自転が止まります。どうか敵には優しく接してあげて下さい。世界のために」
・・・えっ!なにそれ、こわい。
地球を壊す程のバカ力なんて、意味無いじゃないか。
・・・これじゃあどっちが悪者か分からなくなってくるよ。正義は勝つかもしれないけど、これはもう弱いものイジメじゃん。
だいたい、強さって何だろね?どのくらい必要なのかな?
・・・なんで欲しがるのかな?
あんまり考えたこと無かったけど、みんなきっと、何となく欲しいんだろうね。本能的な事なんだと思うよ。
強ければ、安心して生きていられるからね。
どれだけ強くなれば安心できるのかな?
たぶん敵より強くなれれば安心出来るんだろうね。
じゃあ、敵がいなくなった時、その強さはどこに行くのかな?
だからね・・・
仮に世界を救ったとしてもだよ。みんなは喜んでくれるかな。そりゃ、最初は喜んでくれるよ。ボクも誇らしいさ。
でもね、ボクのクシャミは津波を呼ぶよ。オナラで街が消し飛ぶかもよ。みんながそれを知ったらどう思うかな。
・・・怖いよね。ボクは怖いと思う。
そうなると、ボクは地球にはいられないよね、きっと。
宇宙の果てで一人で暮らすのかな。
そう考えると、ボクだけのこの世界が、なぜか急に孤独に思えて身震いした。
─────
・・・何だかな、急に要らなくなってきた。
きっと、知性の先にいる全知全能、無敵の神様もきっと寂しいかもね。
「可哀想な神様」ボクはそう呟き星空を見上げた。
────
ボクは椅子の後ろに体重を掛け、前を浮かせながら、お空を見上げ、ぼんやり考え事をしているとミナモは語り掛けてきた。
「・・・失礼致します。先程は少し言いすぎました。せん越ながらアドバイスがございますがお聞きになられますか?」
「・・・アドバイス?・・お願い」
「ありがとうございます。スキル生成を使えば力を制限する事も十分可能と思われます。必要な時に必要なだけ力を引き出すスキルを生成すればよろしいかと思います」
「あっそうか。なるほどね。・・・ってゆうかスキル生成って何?」
「スキル生成及び魔法生成を使用すれば、あなたの言葉にマナが呼応し、新たな力を生み出す事が出来ます」
・・・ふーん、この能力だけで既にチートじゃん。
「じゃあさ、例えば絶対に殺す魔法とか、生き返る魔法とかも生成出来るの?」
「可能です」
・・・なるほどね。
「じゃあさ。制限を掛けてもまた後で制限解除とか出来るの?リミッター解除!見たいなやつ」
「可能です」
・・・やっぱりね・・・
それじゃあ、意味ないんだな。結局ボクの気持ち一つで全てが思いのまま。
そんな力を持ってるボクを誰が慕ってくれる?きっと、皆が皆、ボクを恐れ、利用しようとするかもよ。だからボクはみんなをぶっ飛ばすかもよ。
やっぱり怖いよ。
・・・ゴメンね。ミナモ。
「・・・悪いけどそれ、ボクはいらない。ごめんなさい」
ボクはそう決心した。