47 ボクと穂積の潜入大作戦
ボクの予想通りバラ園は満開でした。でも咲き乱れていたのは、毒々しい紫と赤の化粧をしたパ○クンフラワーでしかも、大合唱コンクールを開催していました。
だから目玉の制御装置なんてある訳が無い!
赤い霧の中に咲く血染め桜はちょっとホラーだったけど、趣きがあったのでバラにもちょっと期待していたんだよね。だから少なからずダメージを喰らったよ。まぁ、珍しいモノが見れたから自慢になるけどね。
「じゃあさ、資材置き場に行ってみようよ」
「そうですね。地図によると橋を渡って千駄ヶ谷門の方から行けば近いですね。」
「ほいたらさ!行く途中に有名なコーヒーチェーンがあるよね!ドーナッツあるかなぁ。すごく甘いけどコーヒーと合うんだよね!」
「・・・・はぁ」
・・・この人、こんな魔境にドーナッツがあると本気で思ってるんでだろうか?と思う穂積であったが面倒臭いので言葉を慎重に選んだ。
「・・・一応調査はしておいた方がいいかもですね。」
「うん!」
という事でパック○フラワーの園を後にしたボク達は有名なコーヒーチェーンに向かうことにした。
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うっすらとかかる赤い霧の中だけど。この環境にすっかり慣れたボクは何だかい心地が良くなり、芝生エリアならこれはコレでお昼寝ができる気がしてきたよ!
「先輩。いつもの油断癖が出てますが大丈夫ですか?」
そんな麗らかな春のルンルン気分に浸っていると穂積が水を差した。どうやら思考がバレたらしい。
「失礼だなナ。油断はしていないぞ。ただ、新宿御苑を貸し切りにしてる優越感がな、何ともたまらんのだよ」
「こんなんでもですか?」
「こんなんでもだ!・・・って、有名なコーヒーチェーンが見えてきたぞ」
ボク達がやいのやいのと掛け合いをしていると、廃屋が見えた。
いきなりゾンビこんちにわー!ってなるからね。まずは油断なく近づき、店周りを確認してから入店。
案の定、店内はボロボロで埃まみれの瓦礫まみれ。天井から鉄骨やらケーブルが垂れ下がり、壁が剥がれ落ち、椅子やテーブルは朽ち果てていた。
ショーケースの中には、多分ケーキかなぁ?変なものが腐敗してパンパンに膨れ上がり、さらに破裂して緑色のびちゃびちゃをばら撒いてから5年くらい経ったような惨劇の形跡がある。
「これはもう、悪魔のコーヒー店だね・・・」
「・・・悪魔も嫌がるレベルだと思いますね。それにしても、いつか世界はこうなってしまうのかと思うと、あまり良い気分がしません」
「そだね。あーあ、何だか急にモカフラペチーノが恋しくなっちゃったよー。なにか甘いもんが欲しいよー。ひょいパク」
スグにコンペイトウが食べられるボクはとてもラッキーだな!ふふふ。
「僕もです。さすがに疲れました。クリームたっぷりのキャラメルフラペチーノが飲みたいですね。・・・あっ先輩のコンペイトウ、トッピングしたらさらに美味いかもですね」
「ん?なんだと穂積!フラペチーノにコンペイトウだとー!穂積、何て悪いヤツなんだっ!是非やろう♪」
うふふ・・・クリームに混ざったシャリシャリ食感のコンペイトウかぁ・・・これはやばいぞ!おっと、ヨダレが出る!!はしたない。
「帰ったら乾杯だな!」
「ですね!」
こうしてボク達は有名なコーヒーチェーンを後にすることになった。勝利の激甘フラペチーノの為に!
何としても生き残らねば!
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有名なコーヒーチェーンを離れたボク達は当初の大本命、資材置き場に向かった。途中、橋を渡ってお魚とかも確認したけど、いなかったよ。イバラ狼に食べられちゃったのかな?
それに相変わらず敵の気配もない。本当に狩り尽くしちゃったようだね・・・それとも、狼王が手を出すな!って指示したのかな?
まあ、いないことに越したことはないよ。
「この密林を超えたら資材置き場に辿り着けそうですね」と、穂積。
「ボク、入ったこと無いんだよね。どうなってんるだろね?」
「あそこは立ち入り禁止ですからね。大抵の人は知らないと思いますよ」
「あっ、そう言えばそうだったね。まっ、行って見て確かめるしかないね!」
一応案内標示もあるし、けもの道もある。これまでの探索に比べたらそれ程厄介という事は無さそうだ。
さぁて、止めの一発をお見舞いしましょうか!
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30分後・・・
意気込んで侵入したけど、結論から言えば特に何も無かったよ・・・
広い敷地面積の資材置き場には、幾本も積み重なった木材や鉄柱が分けて置かれ、今にも風化しそうなブルーシート掛けられていた。周りは密林に囲まれているせいか、伸び放題になった蔦にも侵食されていた。
その他に、朽ち果てた倉庫もあったけど、中には重機や機材、農具がきちんと整理され、例によって老朽化して使い物にならなくなっていたよ。
つまり、これまでと同じ廃屋ってことなのよ。
・・・考えてみれば、これまでの施設はすべて廃屋化して特に何も無かったよね。だから資材置き場も例外なく同じ影響下にあると考えるべきだったよ。それを立ち入り禁止区域だからといって何かあると見立てるのは、あくまでもボク達サイドの考え。敵さんサイドとしては「立ち入り禁止!」とか、新宿御苑のルールなんてどうでもいい。ただの敵施設その1だ。
って穂積が言ってたよ。
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すっかり意気消沈しトボトボと資材置き場を離れたボク達は、池を挟んで反対側にある日本庭園へと戻ってきた。
途中、狼王の住処だったけど今や瓦礫の山と化した旧御涼亭も探索したけど何にも無かった。
ちなみにボクはその瓦礫の上で、何となく黄金のイバラを天に掲げてみたけど。
しかし何も起こらなかった・・・
─────
「こうなってしまうともう、どこを探したらイイか分からないよ・・・いっそ地面全部掘り返す?パイルバンカーでさ?」
どがんドカンってね・・・
ボクは池の前の芝生にちょこんと座り、そう言うと、穂積は岩に座りのんびりと池を眺めながらそれに返した。
「最悪その手を使うかも知れない事が憂鬱です」
「まさか、新宿御苑全てが制御装置・・・ってオチじゃないよね」
「・・・それも有り得ますね。」
ぽちゃんっ・・・
穂積は小石を池に放り投げながらそう言った。
アイツも随分と投げやりになったなぁ。
ぽちゃんっ・・・
そう思いながら、ボクも小石を放り投げた。
「ねぇ、穂積。池の中かもよ・・・」
ぽちゃんっ・・・
「と言うか、制御装置自体どんな形してるか何のヒントもないじゃないですか。案外あの石灯篭かもしれませんよっと!」
穂積は言葉に合わせて小石を放り投げた。
コツンっ!
しばらくの間ボク達は辺りの小石を投げまくるとても無意味な時間が流れた・・・
しばらくすると辺りに小石が無くなり、いよいよボクがパイルバンカーで砕石しようかと考えていると、旧御涼亭を細い目で見つめる穂積が口を開いた。
「・・・先輩。あの時、狼王ってあそこの旧御涼亭をぶち壊して登場したんですよね?」
穂積にそう言われて、ボクは池越しにある瓦礫の残骸を見た。
一瞬、小石を投げるからに決まってるだろ、と思ったけどそれは黙っておこう・・・前足じゃ無理だからな。
「・・・それがどうしたの?」
「狼王は何でぶち壊したんでしょうかね?」
「そんなのはカッコイイ登場したかったからに決まってるじゃん」
「・・・それは僕達サイドの見方ですよ。アレを破壊するのは狼王でも結構厄介な仕事だったと思いますよ」
「・・・じゃあ。何か、秘密の抜け穴でも塞いだとでも言うのか?言っとくけど、あそこの床下は特に何も無かったぞ」
もちろんボク達は床下もちゃんと調べたからね。
「それはそうなんですが、何か腑に落ちないんですよねぇ・・・」
うーん。でもまぁ、穂積の言う通りかも・・・旧御涼亭はコンクリート製で結構頑丈に出来ているんだよね。アレをぶっ壊すのは本当に手間がかかるよ。戦ったボクが言うから間違いないけど、アイツはかなりクレバーなやつだったよ。だから何でそんな事したのか、気になるっちゃ気になる。
ちょっと考えてみようか・・・
えっとぉ・・・あの時、イバラ狼の追撃が会って大慌てで逃げたんだよね。その時にボカンっ!って屋根が崩してぇ・・・それで水面にバシャバシャと瓦礫が落ちてぇ・・・
・・・ん?
何か違和感があるね!
あの時バシャバシャ何て音はしなかったよ!
崩れる大きな音はあったけど、あれだけ瓦礫が池に落ちたのに水の音は無かった!それに、揺れる水面に何か禍々し気配があって、妙に心臓がドキドキしてた。だけどすぐに狼王の襲撃があって、何だか腑に落ちないまま逃げたんだよね。
あっ!!池の底に何かあるかもっ!
ボクは咄嗟にダガンの爪を起動し石ころを池の反対側にある中華風の建物の下、辛うじて水面に映る柱の辺りに投げ込んだ!
石ころは爪を装備したボクの力なら十分に届き、そして水面に吸い込まれた!
音無しで!!
「穂積!」
「うん!見てた!なるほど。敵は結界を張れるんだから、結界の中に結界があってもおかしくないのか・・・とにかく行こう!」
「うん!」
ボク達は橋を渡り再び狼王の住処を目指した。
ついに見つけたかもよっ!
────
瓦礫の山、もとい旧御涼亭に戻ったボク達は水面を覗き込んだ。
するとどうでしょう!
水面に映る旧御涼亭はもはや見る影もないが、かろうじて残る白いコンクリートの基礎部分となる柱は、水面に映るとまるで違う石柱だった。
なんと、緑の光が交差する幾何学模様が施された石柱!
これはもう、オーパーツだよ!
「狼王はきっとコレを隠すためにここを破壊したんでしょう」と穂積。
「たぶんここに飛び込めってことなのかな?」
とボクは覗き込みながら言った。
穂積は返事をする代わりに瓦礫を蹴飛ばし放り込んだ。すると、予想通り瓦礫は音もなく水面の結界に吸い込まれ消えた。
この先はどこに繋がっているのかな?やっぱり機械仕掛けの目玉の制御装置があるのかな?とにかく考えたってしょうがない。出たとこ勝負だ!
「待ってください、先輩!」
ボクの今にも飛び出しそうな勢いを察したのか、穂積は待ったをかけた。
「闇雲に飛び込むのは危険です。飛び下りていきなり落下死するかもですよ!準備は万全にしましょう」
「う、うんそうだな」
「先輩はロボット脚を起動してください。僕は精霊弾を装填します。そして飛び込む時は同時に行きましょう」
「うんわかった」
ボクは空を飛べるけど、穂積はそのまま地面に激凸するかもだからな。
「大丈夫かなぁ?ドキドキするな!」
「うーん。とは言え、案外何も無いかもしれませんけどね。ほら、敵も何度か出入りしてると思いますし。初見で事故に合うような作りはしてないと思います」
「なるほどね。でもまぁ、警戒は怠るなよってことか」
「です」
「おけ!じゃあ、行こう!」
そしてボク達は池に向かって飛び降りた!
この先にある絶望を知る由もなく・・・・