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42 ボクと穂積の魔獣どうぶつえん ~監禁茶室編~


世界最大級の都市の1つとして数えられる東京。その中心とも言える新宿はご存知の通り、ビジネスや観光、歓楽街として名を知られており、国内外の有名な映画のロケにも使われることもあるほどだ。

そしてここには都会のオアシスとも言うべき広い庭園がある。


新宿御苑。およそ53ヘクタール、外周⒊5キロ。園内は日本庭園やヨーロッパ風の花壇を初め、広大な芝生エリアと森、そしてもちろん春には多種多様の桜の花が咲き乱れる。


だけど・・・


だけど今はそれを見る影もなく、この都会のオアシスはこの世ならざる世界となってしまった。巨大な機械仕掛け目玉に見下ろされたここは、ドーム状の結界に覆われたその中には黒い霧でかすみ、森は鬱蒼とした魔の森。建物は錆びて廃墟のようでホラーな雰囲気を演出し、日本家屋に至ってはもはや化け屋敷だ。


そして春の桜はまるで地中から血液でも吸っているのかのように花弁はうっすらと赤黒く、血染め桜。


そんな地獄絵に徘徊する獰猛なイバラ狼たち。


そしてその頂点に君臨するは狼王と呼ばれる1匹の巨大なイバラ狼。金色のイバラを纏いし狼王。イバラ狼たちを統括するそれは、新宿御苑がマナの影響を受け初めて最初に産み落とされた1匹であった。他の誰よりも素早く、力強く、狡猾で獰猛。加えてその眼には知性が宿っていた。


狼王はいま、身を伏せ遠目からその眼でじっくりと侵入者達を観察していた。本来は縄張りを荒らされて仲間を殺された事で、今にも飛び出し喰らい尽くしたい程であったが、彼の知性がそうはさせなかった。


故に狼王は闇に紛れ静かに侵入者を観察する・・・


────


ボクは最後のイバラ狼を仕留め、ほっと一息着いていると、またもや遠くから遠吠えが聞こえる・・・


まったく一体何匹いるんだよ。


「ね!穂積!大丈夫ぅ?」


ボクは休憩所の屋上でカタパルトを構えている穂積に声を掛けた。


「大丈夫ですよー。でも、精霊弾の残りが少ないですから、それが心配です」


穂積はそう言って、屋上から飛び降りた。


「なので接近戦に切り替えます。それに探索しないといけませんからね」


「接近戦?大丈夫かな?」


接近戦と聞いて心配するボク。


「ええ、さっきチラッとステータス確認したら、レベル11になってました。ステータスも多少マシになりましたし、スキルも幾つか習得できました。それにさっき、先輩の戦いも目で追えましたので、タイマンなら勝てそうです。それにイザとなったら、ぶっぱなして逃げますので大丈夫です」


・・・凄いな穂積のヤツ。スキルってそんな簡単に習得できるもんなのかな?主人公補整でも掛かっているんじゃない?それに戦闘中にステータス見て、戦闘スタイルを変えてくるとはね・・・


ボクなんかステータス画面、なるべく見たくないのにさ。


蘇る「おバカさん♪」の記憶・・・・


「・・まあ、そこまで言うならいいかナ。でも、気をつけてな。アイツらまだ近くにいるからさ」



という事でボク達は拠点を離れ、近くの日本家屋を目的地とし、探索をする事にした。イバラ狼の気配は依然としてあるけれど、どうも近寄って来ない。どうやら敵さんも様子見に入ったと思う。て、穂積が言ってたよ。


拠点にしていた休憩所から南へ歩くこと数分、林の影から廃屋もとい、日本家屋が見えてきた。たしかお土産屋さんも兼ねているんだっけ?いつも混んでいて入った事ないけどね。まぁこんなことになるんだったら、1回くらい行っとけば良かったよ。


全く、後悔後を絶たずとはこのことだよナ!


だからと言う訳では無いんだけれど一応中を捜索してみることにしたよ。お土産に混ざって、いきなりドカンと目玉の制御装置があるかもしれないからね。


ボク達は入口から恐る恐る入って、まず目に着いたお土産たち。抹茶や抹茶味のビスケット。抹茶味のチョコレート。抹茶味のアイスクリーム・・・何だか最近は抹茶抹茶ばっかりだよナ。外国人受けを狙っているかも知れないけれど、ボクは甘いものと苦いものは別々に分けて頂くからこそ!だど思うよ。まぁ別に嫌いじゃないけれどね。


まぁ、そんな感じで棚にはお土産が所狭しに並べられているけど、どれも薄汚れていて、食べたらお腹壊しそう・・・


ボク達は店内をさらに奥に進んだ。奥は茶屋をイメージしたレストランになっていて、テーブルや椅子が並べられていた。もちろん人や魔獣の気配はない。


「・・・終末系の映画だったらゾンビが突然こんにちは!しそうだけどぉ、何もないねぇ」


「まぁ、一発目から当たりは引けませんよ・・」


そんな感想を残してボク達は最初の探索を終えた。


一旦外に出ると隣に併設されている茶室っぽい建物も探索した。

念の為そっとふすまを空けると中はボロボロになった畳の部屋だった。それ以外にも真っ黒になった柱や、灰まみれの囲炉裏。でも不思議な事に蜘蛛の巣とか虫の気配がないから、単に古ぼけているだけではないみたい。


虫もいないなんて何だか寂しいところだね・・・


「ねえ、穂積」


「なんすか?先輩」


「ボク達はが負けたら、世界中がこんな風になっちゃうのかなぁ?」


「うーん、それはわかりませんが、こうなっても別におかしくないと思いますよ。あるいはもっと酷いかもです」


穂積は畳の上に転がっている茶器を見つめなからそう言った。


「・・・ここにも何もありませんね。外に出ましょう。たしかこの先に池があるはずです」


「うん」


────


「あっ!イバラ狼がいるよ!」


外に出てしばらく歩くと大きな池あり、右側に石の橋が架かっていた。その上から1匹のイバラ狼がこちらをじっと観察するように見ていたのだ。敵意はビシバシ伝わってくるけれど、こちらと構えようとする気はないようだ。それどころか、穂積の射撃を警戒するように、いつでも射程外に逃れるよう準備していた。もっともその程度では精霊弾からは逃れられないけどね。


ふふん♪


そんなイバラ狼を見て、穂積は苦虫をかみ潰したような顔をしてこう言った。


「まずいですねぇ」


「うにゃ?なんで?」


「アイツらも学習してるって事です。もともと狼は賢く、敵を罠にはめて集団で狩りをしますから。ひょっとしたら今ボク達は狩られているかも知れません」


・・・穂積のヤツ怖い事いうな。でもぉ、さっきまでガムシャラに向かってきた事を考えると、ありがちそんな気がするよかも。


まぁとにかく、あの石の橋には行かないでおこうか。


「このまま、下流に進んで日本庭園に行こうよ。たしかあっちにも茶室っぽいのがあったよ。それに池の向こうにも中華風の建物があった気がするアルヨー。あそこは見晴らしがいいんだよね。夏は涼しいし」


「先輩、結構詳しいですね」


「まぁな、この辺りはお昼寝しに何度か来た事あるからなナ」


「・・・凄い納得」


穂積がやたらと凄いを強調するから、ちょっとだけムッとするけど、ボクは流れる川のように流す事にした。目の前のは池だけど・・・


先に進むと池はひょうたんのくびれ見たいに、じょじょに細くなり濁り始める。鬱蒼とした林や血染め桜が不気味なテイストをさらに演出し地獄の風景も随分と変わった。それでもこれまでの魔の森地獄と比べたらむしろ視界が良く、広く歩きやすくて随分楽に思えるな。


どうもボクはこの小一時間で新宿お化け御苑にすっかり慣れちゃったみたい。


またしばらく歩いていると次第に周囲が開け、日本庭園の中心付近に辿り着いた。再び大きく広がった池を見れば、背後に茶室、右正面の池の向こうには、まるで五重塔のようなに先の尖った屋根が特徴的な中華風の建築物が見えた。


「先輩、茶室がありますがどうします?」


「うーん、手当り次第行くしかないんじゃあないかなぁ」


「そうなんですが、この辺りって園の真ん中辺りをですよね」


「そだよ、もう少し行くと中央休憩所があるね」


「つまり、四方八方から狙われるという意味ですよね」


それを聞いてボクはドキりとした。今までイバラ狼に連戦戦勝を繰り返してきたけど、ボク達は囲まれないように位置取りをしてきたからだ。広い所で囲まれたら、それはそれは厄介だね。


「・・・そっか。それは不味いね・・・」


呑気に話しているそばから、ボクはふと、視線を感じた。敵は例の池向こうの中華風の建築物の中だ!よくよく見ると、こちらを観察している赤い反応がチラリと見える。


・・・なるほど!もう遅いって事かも!?


「穂積!池向こうの建物の奥、デカいのがいる!たぶんボスかも!」


「何ですって?間違いないですか?」


「間違いないよ。狡猾そうに隠れてる!」


「分かりました。先手必勝を仕掛けます。そしたら茶室に逃げましょう!」


穂積はこれまでの経験で殺気とは、いとも容易く漏れ、相手に気付かれてしまう性質がある事を身を持って知った。それだけに今はドラグーンをさも当たり前のように出現させると、池向こうに向かって小さく構えた。精霊弾は特に狙いを着ける必要が無い。撃てば勝手に攻撃をしてくれるいわば召喚魔法だ。


「じゃ、いきますよ!」


「うん・・・」


バシュン!! バシュン!!


残弾が少ないにもかかわらす、確実に仕留めるために穂積は2発撃った!光弾は水柱を立てながら水面を駆け抜けると、クンッと曲がり建物中に飛び込む!


────


呑気に園の中央に辿り着いた獲物を狼王は中華風の建物の奥からじっくりと確認していた。この場所は決して広くはないが、昼間でも薄暗く、気配を殺していれば影と同化し見つかることがない。しかし、狼王は知らなかった。この世界には魔獣の反応を全て見通すことが出来る魔導ゴーグルがあることを。


狼王は唐突に機械の臭いがする小柄なメスから視線を感じた。まさか、居場所がバレると思っておらず、初めは気のせいかと思ったが違和感を放っておくほど呑気な王ではない。狼王は闇の中で低く構え、獲物の気配を注意深く探った。


パシュンッ!


瞬間!殺気を帯びた光弾が水面を滑るように向かって来た!狼王は不意をつかれたが慌てることなく金色のトゲを解き放つと、室内に飛び込んで来た1発を目の前で迎撃、2発目の光弾はギリギリで躱し、さらに光弾から伸びる手も払い退けた。しかし、光弾はまるで生きているかのようにグニグニと動き回り狼王を執拗に追尾し、しばらくの間両者は狭い室内で激しい攻防戦繰り広げた。


やがて先に根負けしたのは光弾であり、じょじょに力を失い、やがて消滅した。


必死で避け切った狼王の右手は光弾を払い除けた時に焼けて爛れていたが、大したダメージではない。それはもし仮に直撃しても、この狼王には致命傷は与えられなかったことを物語っいた。


予定外の威力偵察も良しとした狼王は雄叫びをあげ狩りの合図を同胞たちにした。




ワォォォーーーンン!!!


庭園に轟く雄叫びはビリビリと空気を波立たせるようにボクの耳に届き、ゾクリと震え上がられる。どうやら精霊弾2発でも仕留めきれなかったようだ。


でも・・・それ以前に何か凄い違和感がある。何だろうか?

あの水面に映る禍々しい建物から妖気とも言える気配を感じるよ。


「先輩、どうやら仕留め切れなかった様です」


真剣な眼差しで敵の方を睨む穂積がそう言った。


「う、うん。とにかく廃屋に行こう」


今はそんな違和感に構ってる暇はない。

それに多分あのボスのせいだよ。それだけ強烈でな奴だから、今はこの場を凌げって事だよ!!


これまで無敗の精霊弾で仕留めきれなかった事に少なからずショックを感じつつも、ボク達は走り出した、その時!


ドッガーーンンッ!


突然音を立て中華風の屋根がぶち壊われ、1匹のイバラ狼が飛び出した!体長は3メートルを越え、何よりも特徴的な神々しいまでの金色のイバラ。


あいつがボスだ!ボクは直感的に感じた。話と違うけどコイツがガーディアンだ!!


「不味い!そこの茶室に行きます!」


と言って穂積は走り出した!


「ちょっ!ちょっと待ってよー!!」


すたこら逃げる穂積の後をボクも慌てて追いかけた。


────


その茶室は木造作りの8畳一間。一つだけある入口は屈んではいるほど狭く、待ち伏せには格好の場所のようだ。廃れて見える素材の木はマナを吸収しているせいか黒光りしており、木材と材質は違うけど、堅牢そうだ。


「穂積こんな狭いとこで戦うのか?出口もないよ」


敵の追跡を感じつつも無事に辿り着いたボクは心配になり開口一番そう聞いた。


「茶室は本来敵の侵入を防げるように作られているんです。まずはここで各個撃破して数を減らしましょう」


「それから?」


「反対側をぶち破って北の芝生エリアまで逃げます!」


「それから?」


「まぁ、乱戦でしょうね・・・」


やっぱり最後はそうなるか・・・でもまぁ、よくここまで有利に立ち回れたと思うよ。策もなくノコノコと戦っていたら、囲まれてトゲ攻撃であっとゆう間にやられていたからね。


「ボクはこんな悪の秘密組織のボスの茶の間でで死にたくないぞ!」


「それは僕も同じです。・・・ん?おしゃべりはここまでです!囲まれましたよ!」


「おい、なんで分かるんだ?」


「気配探知のスキル身につけましたんで!」


「お、おい、なんだそのカッコイイのは・・・」


ドシンッ!


ボクの話を遮るかのように外で大きな音がして、茶器が僅かに振動で揺れる。


イバラ狼のタックルだ!


ドスンッ!ドスンッ!ドシンッ!


執拗に繰り返すイバラ狼のタックルは、どうやら壁をぶち壊そうとしているらしい。でもまぁ地震大国日本の大地震にも耐えられるように設計され、オマケにマナを吸収し丈夫になった茶室はその程度では壊れない。


だからなのか諦めたイバラ狼達は、今度は臭いを辿り辺りを調べ始めた。


一体は静まり返りイバラ狼達がスンスンと鼻をすすり、臭いをかぐ音が不気味に響く。


やがてその音はや入口周辺に集まってきた!


「く、来るよぉ・・・」


ボクは拳を構え、穂積は右手にドラグーンを持ち、片方ではスタン警棒をゆっくりと握りしめた。


ゴクリ・・・

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