41 ボクと穂積の魔獣どうぶつえん ~内蔵ごった煮編~
更新遅れてすみません。
まだまだ続きます!
イバラ狼は森の中から放たれた光弾にかすり、耳が欠けるも回避は成功した・・・と思っていた。
なのに!なぜ攻撃は背後の死角からからやってきたのであろうか?
崩れた脳みそをフル回転しても、思い出すのは上空に引っ張られた時にチラリと見えた、赤黒い空と迫り来る地面のみ。
暖かい血が流れれば流れるほど身体の芯は冷たくなり、「死」がいかに近い存在であるか否応無く認識させる。
これは万物に定められた運命なんだと悟ると、このまま地面と溶け合い死ぬ事を受け入れたイバラ狼。
だがしかし。こうも易々と負け、死にゆく屈辱がどうにも拭いきれない。もはや何も出来ないことは承知していたが、このように死ぬために生まれてきたということが悔しかった。
するとイバラ狼は前足だけで身を起こし、天に向かって雄叫びをあげた!
ワォォォォォーーーンッ!!
自分がここに存在していた事を世界に知らせるための最後の雄叫びであった。
・・・そしてそれは、敵の存在を仲間に知らせる狼煙となった。
イバラ狼は死んだ。
─────
森の中からひょっこり顔を出し、ボクはポツリと呟いた。
「まさか弾丸に手が生えるとはね。さすが精霊弾だよ・・・」
「先輩そんな悠長な事言ってられませんよ。アイツ、仲間を呼んだかも知れません」
穂積は死んだイバラ狼から目を逸らすことなくボクに言った。
「うん、敵ながら見上げた根性だな。隠密作戦は早速暗礁に乗り上げてしまったよ」
「ですね。ここはもう危険です。森を出ましょう!」
「地図では小道を抜けた所に広場があるね。休憩所とかトイレもあるから結構広いと思うよ。」
「決まりです!」
こうして、ボク達は危険な地形と化した森を出て広場へと移動する事にした。
ガサガサと森をかき分け進むとイバラ狼が死んだ小道に出た。敵の気配はないけれど、見つかってしまった以上もはやコソコソする必要も無いので、小道をダッシュで駆け抜け目的地へと向かう。
ロボット脚からパシュンパシュンと小気味良い音を立てリズム良く走っていると、重い装備を身につけているにも関わらず、穂積がしっかりとボクのペースに着いて来ていた。
・・・別に置いてきぼりにするつもりはなかったんだけど、穂積のことうっかり忘れちゃって、慌てて振り返ったら普通に着いてきたからね。それはそれで驚いたよ!アイツ、さっきのでレベルが上がったんだナ。
・・・・ん?
などと思っつていた矢先。
正面からいきなり赤い反応が現れた!どうやら完全にこちらに向かっているようだ!
「穂積ぃ!敵がいるよ!」
ボクは振り返り穂積を見ると、何と後ろにも赤い反応が!
「後ろにも2匹!ヤバいぞ!囲まれてるよ!」
「後ろは僕が殺ります!先輩は前!」
ボク達は立ち止まり背中合わせになり、イバラ狼を迎え撃った!
こんな所でエンカウントとは!参ったな。
ワォォーーン!!
ボク達の気配に応えるかのように、イバラ狼達が一斉に雄叫びを上げた!
来るぞ!
正面に現れたイバラ狼は小道を一直線に駆け抜け、ボクに急接近してきた。ボクはヒトデの指輪と白波の腕輪を同時に起動し、右手を前に突き出し水弾を発射した。
「おりゃ!」
勢いよく放たれた拳大の水弾は接近するイバラ狼に着弾!
バシャン!
水浸しになったイバラ狼は全く怯むことなくボクに突撃してきた!
アレレ?
ボクのカッコイイ予想だと、頭を吹っ飛ばすハズだったのに・・・
実はイバラ狼にはただの水である事を瞬時に見切られていたのだ!
今度はイバラ狼がボクを射程に捉えると、纏ったイバラに魔力を込めると、前方に腕くらいの太さのトゲをブォンと出現させた!
「ヤバイぞ!なにか来るっ!」
トゲの先端に吸い込まれるような殺気を感じたボクは、とっさにシールドを構え攻撃に備えたその時!
シュン!
高速で放たれたトゲは間一髪でシールドに刺さり四散した。
イバラ狼の接近を止めない!むしろ今のはただの牽制だったかのように、ボクに飛び掛って来た!
ぐん!と近づくその獰猛な獣の視線は、見るものを怯えさせるほどだ。
だけどその視線はボクの感覚より過敏にし、背筋から脳へと鳥肌を走らせると、奇妙な落ち着きと脱力感を覚えた。
・・・ボクもイカれた獣の目になってた。
「はっ!!」
ボクの柔らかく握られた拳が飛び掛かるイバラ狼の顔面にめり込んだ!
ダガンの拳はイバラ狼の顔面から首までプジャーっと引き裂きぶっ飛ばした!
ハァハァ・・・
何なんだろうね今の感覚・・・獣になったみたいだったよ。
あと、やっぱりお風呂での試し打ちだけで実践に望むのは不味かったよ・・・
────
こちらは穂積サイド。
後方2匹を受け持った穂積は、縦列に並んで接近するイバラ狼達に向かって、精霊弾を放った!
パシュン!
光弾は先頭を通り過ぎた時、グニュっと腕を伸ばし首根っこを掴むと同時に、もう片腕も伸ばし、2匹とも捕らえた!
ガッチリ首根っこを捕まらた2匹はキャンと短く悲鳴を上げると、そのまま遠くにすっ飛んで行った・・・
「あー・・・なんだよ・・・チートじゃんか・・」
恐るべき精霊弾の威力を前に流石の穂積も目が点になりポツリと呟いた。
おっと、今は戦闘中だったな。僕とした事がぼんやりしてしまうとは・・・まるで先輩じゃないか。
「あっ!先輩っ!」
穂積はスグに振り返り、背中を預けていた相棒の様子を確認した。
「わっ!」
見ると頭からダラダラと血を垂らし、ぶちまけられた内蔵を引っ付けた先輩がいるではないか!
何事かと思う穂積であったが、恐る恐る声を掛けた。
「あの・・・大丈夫ですか・・?」
「あ、うん。これは返り血だよ」
先輩は服で顔を拭いながらそう言ったけど、返り血だけでなく、内臓や肉片もぶっかけられたその姿はスプラッターそのものだった。
ホント、つくづく決まりの悪い人だと思う。
ある意味ガンギマリだけど・・・
「なんだ穂積、ボクの顔をジロジロ見て、なんかついてるか?」
・・・ええ、臓物が至る所に・・
と、穂積はツッコミたくなるのをぐっと堪えてこう言った。
「・・・それ、洗い流せませんか?臭いでバレるかも知れませんし」
「うん、そうだな・・・確かにちょっと臭いし・・」
クンクンと自身を匂う先輩に付着した臓物はキラキラと光だしマナへと還っていった。血液はそのまま、こびりついてるけど・・・
─────
ボクは水魔法を使いダガンの拳から水を吐き出し簡単に汚れを洗い流した。ずぶ濡れになったけど生暖かい血液は洗い流され、いくばかスッキリした。
ショートヘアをブンブン振り水を切っていると遠くの方でイバラ狼の遠吠えが聞こえる。
どうやら、アイツらもドンドン集まって来るようだ。
ボクの視界の先には森の切れ目が僅かにみえる。地図ではその先には確か休憩施設があって、芝生エリアへ続くはずだ。
ボクは穂積を見ると、穂積もボクと同じ事を思っていたのか、先に口を開いた。
「先輩。この先の休憩施設を拠点にしませんか?」
「了解!」
地形まで大きく変わっていないことを祈りつつボク達はそこへ向かうことにした。
─────
森の先の休憩施設にはベンチやトイレ、自販機が併設された売店があった。けれどもどの施設も廃屋のように古ぼけていたり、蔦が壁を這っていたりと、不気味な雰囲気を醸し出している。
だけどその先は、もくろみ通り芝生が広がっており、所々に桜が幾本か植えてある程度で視界も確保でき拠点にはピッタリだった。
・・・うーん。きっと花見だったら最高のロケーションなんだけどね。でも、お空が赤黒く濁っているせいかピンクのお花も心なしか禍々しく見えるよ。って、よく見たら花弁が赤黒い!血を吸って成長したんじゃないかな?
「まるで地獄のお花見会場って感じだナ・・売店とかも錆びて古ぼけてるし・・・」
ボクはイバラ狼よりも先に到着しできほっと一息つくも、こう、呟かずにはいられなかった。
「まるでホラーですよね・・・」
穂積も朽ち果てた売店を見ながらボクに同意した。
穂積はそう言うと、ピョンと飛び上がり、自販機の上に着地するや否やもう一度ジャンプし、例の朽ち果てた売店の屋上に着地した。
・・・アイツも人間離れしてきたナ。
「じゃ先輩、ボクはここから援護します」
「おーけい。でもアイツら、トゲ飛ばすから気を付けてナ!」
「了解」
穂積はサッと看板の裏に身を隠すと、双眼鏡を構え索敵をしつつ、ドラグーンに精霊弾を込め直した。
ボクはベンチやテーブルの後ろを陣取りそれを障害物と見立てイバラ狼の突撃を避けることにした。
背後には穂積を乗っけた休憩施設でカバーされ、正面にはちょっとした障害物。これなら二三匹きても、安心だナ!
と、ボクがそう思っていたら、穂積から緊急の入電があった!上から声掛けられただけ何だけとね。
「先輩!広場からきます。5匹!」
弾を込め直し、双眼鏡で索敵していた穂積が敵を発見したのだ!
あちらこちらから次々と遠吠えが聞こえる。
予想より多いな!ドキドキするよ!
ボクは気を引き締め身構えていると、穂積は射撃を開始した。
パシュン!
イバラ狼へと突き進む精霊弾は、先頭の1匹に光弾から生えた足でトゥキックを喰らわし、頭を吹っ飛ばす。それから片足を軸にしてクンッと曲がり次の獲物を補足すると伸ばした手で顔面をアイアンクローで握り潰し、最後にすぐそばのイバラ狼に体当りし、胴体を真っ二つにして消えた。
やっぱり精霊弾無双は凄いね!
これさえあれば大抵なんとかなる気がするよ!
「穂積!どうやらボクの出番は無さそうだナ!」
「いえ!弾が勿体ないので、ひとまずおしまいです。カタパルトに切り替えます!なので後お願いします!」
そう言えば弾丸はそんなに多くないみたいな事言ってたっけ?よし!任されよう。
それにしてもイバラ狼の突撃は恐ろしく早いからね。普通に狙っても精霊弾じゃなきゃ、まず当たらないよ。特にボクのにわか水弾じゃ、まともに撃っても避けられるな。
さてどうしたものか・・・
生き残った2匹のイバラ狼は前衛のボクと対峙する事を決めたのか、怯むことなく一直線に向かって来た!
さらに速度を上げ、物凄い速さで距離を縮めるイバラ狼からビリビリとプレッシャーを受ける!
「くるぞぉーー!」
穂積が叫んだ!
「ほりゃ!」
ドカン!!
意気揚々で突っ込んでくる先頭の1匹目は、水平にすっ飛んできたベンチにトゲを飛ばす暇もなく正面衝突した!たまらず悲鳴をあげたイバラ狼はその場で下敷きになった。ボクはそのまま、前方へ飛び上がると、駆け抜けてくる後続の1匹の真上へと出た!
何だかスローモーションのようにゆっくり時間が刻んでいるかのような感覚に捕われられ、爛々としたボクの眼下には駆け抜けるイバラ狼が見える。
ボクは落ち着いて拳をイバラ狼に向け、焦らず掌から圧縮させるように水弾を解き放った!
「んッ!」
水弾は極細のレーザーとなって音もなく発射され、イバラ狼の首に小さな穴を空けると、慣性の力が胴体をツーっと引き裂いた!
イバラ狼はこの一瞬の内に殺された事を理解できず、そのまま内蔵をバラ撒きながら足をバタつかせ走り抜けると、やがて、ぐちゃりと倒れ伏せた。
ボクは空中でくるりと一回転し体勢を整えている時、ちらりと穂積が視界に過ぎった。
穂積はカタパルトを構え、ベンチに絡まっているイバラ狼に狙いを付けていた。その目はコウモリ魔獣を容赦なく射殺した時の冷たい目だった。
大丈夫。あの目なら当たる。
ボクは何となくそう思い安堵した。